第二十二力(最終話) 包容力

 善一郎は毎月白飛影仁の入院先を訪れている。


 この日は、優里と善助と優子も一緒について来た。


 影仁はあの日からピクリとも動いていない。


 善一郎は影仁のベッド脇に腰かけると、「今日は報告があるんだ。白飛家当主、正影についての調査が終わったよ。」と言って、持ってきたファイルを開いて読み始めた。




 「白飛家は少数精鋭にこだわり過ぎたため、能力覚醒までの過酷な修行の途中で死ぬ者や、逃げ出す者が後を絶たなかった。


 上層部は逃げ出す者に追っ手をかけて始末しなきゃならない煩わしさもあって、白飛家の昔ながらの古いやり方に批判的だったようだ。


 上層部の人間の中には、白飛家から分家した黒飛家の一族に仕事を回そうと言い出す者も出てきていたため、正影はそうなる前に黒飛の一族を抹消してしまいたいと考えるようになった。




 しかし、上層部の目もあって大っぴらにそんな事は出来ないため、正影が思い付いた計画が、日頃から反抗的で素行の悪い貞影を煽って、貞影が単独で黒飛の一族を全滅するように仕向けるというものだった。


 おそらく正影は、初めから計画が上手く行ったら、貞影を何かしらの名目をつけて処分するつもりだったんだろう。




 正影にとって貞影の失敗は誤算だったが、今度は貞影の死を利用して君をけしかけて計画を続行しようとした。




 ちなみに貞影は自殺ではなく、正影に殺されたと分かった。」と善一郎は言ってファイルを閉じた。


 善助は、何か影仁に動きがあるかと見守ったが、やはりピクリとも動かなかった。




 ☆☆☆




 「お父さん、あの人にさっきの話は聞こえてるの?」と、優子が帰りの車中で善一郎に聞いた。


 「さあ、どうかな。でもさっきの話、彼は知ってたと思うんだ。」と善一郎は言った。


 「えっ、どういう事?」と善助が聞いた。




 「彼の弟が亡くなってからうちに現れるまで、彼はうちの家族の能力以外にも、色んな事を調べたはずだ。当然弟が亡くなるまでの行動や、亡くなった日の事、死因も・・・。善助に蹴られたことが致命傷ではなかったことも分かってたはずだ。」と善一郎は言った。


 「・・・じゃあ、何でうちに来たのかな?」と善助が言った。


 「しかも、誰かが一人になったところを狙うんじゃなく、家族全員が揃っている不利な条件の時に。」と善一郎が付け足すと、善助はハッとしてその後の言葉を飲み込んだ。




 「・・・そう。多分、死ぬ気だった。」と善一郎は言った。


 「信頼できる弟が亡くなって、信頼してた父親に裏切られて、相当ショックだったのね。」と優里が言った。


 「お父さんは、彼がいつか全てを受け入れて立ち直るんじゃないかって思ってるんだ。そしたら、彼の意識を開放してやってもいいよな?」と善一郎が言うと、優子も「そうなるといいね。」と言った。




 車は山道を軽快に走った。


 「いい天気ね。なんだか、キャンプに行ったときの事を思い出すわ。」と優里が車窓を流れる山並みを見ながら言った。


 「母さん、荒井由実はやめてよ。またショベルカーが道をふさいでると面倒だから。」と善助が言うと、家族みんなが笑った。






 おわり




 最後までご愛読ありがとうございました。


 次回作にもお付き合い頂けると嬉しいです。

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私の兄、走力5 シカタ☆ノン @shikatanon

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