第二十一力 対応力

 善一郎が憔悴して肩を落とした瞬間、影仁はつかんでいた優子の首をへし折り、その場に優子の体を投げ捨てると同時に、目にも止まらぬ速さで今度は善一郎の首をつかんだ。




 ただならぬ父の叫び声で飛び起き、慌てて善助が一階のリビングに降りてきてはじめに目にした光景は、無造作に投げ捨てられた首の曲がった優子と、見たことのない大男に首をつかまれてこちらを見ている父の姿だった。


 大男に見覚えはなかったが、その格好から善助は凡その事態を理解した。


 「白飛」の者が、仲間の復讐に来たのだろうと。




 善助は頭の中で、はじめて能力を使って人助けをした日のことを思い出していた。


 赤い風船を胸に抱いた女の子は大喜びで、おじいさんは深々とおじぎをしてくれた。


 自分の能力が人の役に立つと分かって嬉しかった。


 あの頃は、僕ら家族がこんな事になってしまうなんて、微塵も思っていなかった。




 ☆☆☆




 「・・・と言うのが、彼の頭の中で起こっている。」と善一郎は説明した。




 優里は自分の頭が飛んだと聞いて、「あら、やだ。」と言った。


 日曜日の朝早くから起こされた善助は、ブツブツ言いながら一階のリビングに降りてきたのだが、河川敷で襲いかかってきた「白飛」の輩と同じ格好をした大男が庭に立ち尽くしているのを見て、背筋をピンと正して善一郎の話を聞いている。


 大男に首をつかまれた優子は、優里に動かなくなった大男の手から解放してもらった。


 首はつかまれた瞬間に筋肉で強化したため無傷だったが、解放されたあと半ベソをかきながら男のすねを蹴り上げたもんだから、今は自分の足をさすりながら善一郎の話を聞いている。




 「全っ然、分かんない!なんであいつは固まってて、また突然動き出したりしないの?!」と優子はヒステリックに聞いた。


 優里は「怖かったよね。」と言いながら、優子の背中をさすっている。


 「分かった、分かった。ちゃんと説明するよ。」と善一郎は優子をなだめながら言った。




 「気持ち悪いって言われたらショックだから言わなかったけど、お父さんは他人の『バックヤード』にも入れるんだ。


 人間は、映像や音や匂いとか、色々な情報を認識すると、一度意識が脳に入って判断してから、今度は行動に意識が移るんだ。


 さっき彼がここに突然現れて、優子の首をつかんだままこっちを見た瞬間、彼の見た映像が意識と一緒に脳に行くタイミングで、お父さんも彼の『バックヤード』にお邪魔して、そこに彼の意識を閉じ込めて来たんだ。


 閉じ込めてくるとき、彼の『バックヤード』の中に、ここと同じ風景と登場人物を作って、彼の意識のストーリーをそのまま継続させて見させてるってわけだ。


 彼の意識は自力では『バックヤード』から出られないから、お父さんが開放してあげるまでは、一生あのまま動けないことになる。」と善一郎は庭の大男を指さして言った。




 善助は口をポカンと開けたまま、言葉が出てこない。


 優子は意味が分からず、優里にもう一度説明してもらっていた。

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