1-10 両親へのご挨拶? (1)
「(……え~~と、これはどういう状況?)」
場所はセイナの家の居間。
フィリッツの前にはセイナの両親であるカツユキとキキョウ、そして彼の両親のマルヴィンとカレラ、ついでにフィリッツの妹メーレン、セイナの妹ツキノまでいる。
そんな家族の後ろに見えるのは、マルヴィンが会社帰りに買ってきた酒が数本。
その上にフィリッツのお土産の大蛸がでろん、と。
背広姿のマルヴィンと背後の蛸。
微妙にシュールである。
「(あれ、持ってくる必要あった? てか、お酒はなに?)」
自分の将来に関わる大事な話をしようと意気込んでいたフィリッツは、なんとも言えない雰囲気に戸惑う。
背広姿自体は真面目な雰囲気に合っている気もするが、妹たちとお酒は明らかに場違いである。フィリッツとしては。
「さて、準備は良いぞ。フィリッツ、話せ」
「お、おう。じゃ、セイナ、頼む」
なぜか顰めっ面でそんなことを言うマルヴィンに、フィリッツは若干怯みつつ、セイナに話を振る。
だが、そんな彼の態度が気に触ったらしく、マルヴィンが怒鳴り声を上げた。
「おい! こういうときは男であるお前が話すべきだろう!!」
「(え? 俺なんで怒鳴られてるの? 何かマズかった?)」
フィリッツはなぜ怒鳴られたのか理解できず、戸惑った表情を見せる。
あえて言うなら、会社を設立しようとしているのに、自分では説明できないあたりに問題があると言えばあるのだろうが、現在はそのことを話題にする前である。
会社の設立に関しては、セイナもまだ親に伝えていないことは確認済みである。
「えっと、おじさん、もしかして何か勘違いしてる?」
「勘違い? そんなことないぞ。なぁ、タカフジさん」
セイナがちょっと困ったようにそう言うが、マルヴィンはきっぱりと首を振ってカツユキに話を振る。
「ああ。二人揃って両親に話があると言えば、誰でも解ることだ」
うむ、と重々しく頷くカツユキだが、その方向性は明らかに違う。
セイナもそれに気付いたのか、呆れたようにため息をついた。
「お父さん、言っておくけど、間違っても結婚の報告とかじゃないわよ?」
「……なんだ、違うのか?」
「違うわよ! どーしてそうなったの!?」
不思議そうに首を捻るカツユキに、セイナは強い言葉で否定した。
フィリッツたちが連絡した内容は、将来について話したいことがあるから時間を作ってくれと言うことと、セイナとフィリッツが一緒に帰るということだけ。
一切、結婚を匂わせるような内容はない。
ないのだが、二人の妹は呆れたような視線を自身の兄と姉に向けた。
「お姉さま、二人一緒に帰ってきて両方の親に話があると言われたら、普通はそう考えますよ、二人の関係性を考えれば。ねぇ、メイちゃん?」
「そうそう。ちょうどお兄ちゃんも卒業したし、就職を機に結婚かな? と私でも思ったもん」
「私はー、子供ができた報告かとぉ~~」
「「は!?」」
タカフジ家の母親は、更に一歩進んでいた。
そのとんでもない内容に、フィリッツとセイナは揃って声を上げる。
「そもそも私たちが付き合ってるなんて話、したこともないわよね!?」
「おう。付き合うどころか、ほとんど会ってもいないよな?」
「そうそう。ここ数年、実家に帰ってるとき以外、メールのやり取り程度なんだから」
事実、フィリッツが訓練校に通っている間、セイナが彼の所を訪ねて来たのは僅かに三度。そして、フィリッツがセイナの所を訪れたことはない。
セイナは仕事が忙しく、フィリッツは訓練校の授業とバイトで忙しい。
遊ぶ時間すらほとんど取れない二人が付き合うようになる機会など、なかったのだ。
「そうだったのか? てっきり家を出たのを良いことに、セイナちゃんとの仲が進展したかと思ったが。なぁ、母さん」
「えぇ。年始の休みで顔を合わせたときも、仲よさそうでしたし」
「付き合ってない! 付き合ってないからね!?」
そう力説するセイナを見て、二人の妹は呆れたようにため息をついた。
「なーんだ。お姉さまに春が来たと思ったんですが……。お姉さま、押しが足りません」
「お兄ちゃんも情けないなぁ。行っちゃいなよ! ユー!!」
本気で残念そうなツキノに、片目を瞑ってにGo、Goとハンドサインを送るメーレン。
「――何なんだ、この妹たちの無駄なアグレッシブさ」
そんな彼女たちの頭を、セイナがペシリ、ペシリと叩いて黙らせる。
「今日はもっと大事な話なの! もう結論から言っちゃうけど、私たち、会社を立ち上げることにしたから!」
「会社?」
「立ち上げ?」
そう言って不思議そうに、顔を見合わせるツキノにメーレン。
「ええ。運良く、フィーが宇宙船をクジで当てたからね。せっかくだから二人で運送会社を作ろうって話になったの」
「ほう! フィーが? 初耳だが……」
「あー、少し前に手に入れたからまだ伝えてなかった。すまん、親父」
訝しげな視線をフィリッツに向けてくるマルヴィンに、彼は頭をかきながら極力軽い感じで答える。
下手に突っ込まれると面倒なので、適当に応えてさらっと流すつもり、満々である。
「それは別に構わんが……最初にセイナちゃんに相談したのか」
マルヴィンはニヤニヤと笑いながら、フィリッツとセイナを見比べる。
実際には相談もしていないのに、セイナの方がフィリッツの所を訪れたのだが、フィリッツにはあえてそれを言うつもりもなかった。
父親の笑い方にはちょっとイラッとさせられたが、家族だけに下手にツッコミを入れても、無意味なことはすでに解っているのだ。
「しかし、宇宙船ってクジで当たるものなのか?」
「あなた、テレビの視聴者プレゼントでも車が当たったりするんだから、宇宙船もあるんじゃないかしら?」
不思議そうに首を捻るマルヴィンに、カレラがそんな言葉を返す。
「(そんな訳あるか! だが、お袋、ナイスアシストだ!)」
実際には、車と宇宙船では値段が何桁も違うので、間違っても『テレビの視聴者プレゼント』で当たるような代物ではない。
しかし、下手に追及されたくないフィリッツとしては、好都合であり、それを指摘するつもりはなかった。
「そんなものか?」
納得したのか、していないのか微妙な表情を浮かべながらも、それ以上は何も言わず、マルヴィンはセイナの始めた説明に耳を傾ける。
セイナの説明内容を纏めるなら、フィリッツと二人で株式会社を立ち上げ、彼の持つ船を使って運送業をする、それだけである。
ホロディスプレイを見せながら、リスク管理や損益分岐点、収益見込みなども含めて解説しているが、それを聞いて理解しているのはほぼ確実に、自身も会社経営者であるカツユキだけだろう。
フィリッツは当然理解できていないし、マルヴィンも一応は腕を組んでウンウンと頷いているが、その実、あまり理解はしていない。
カレラは素直に解らないという表情を浮かべ、キキョウはいつも通りの、のほほん、とした表情を浮かべて内心が読めない状態である。
そんな状態でセイナが一通りの説明を終え、最初に言葉を発したのは、やはりカツユキだった。
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