第17話
「今井君、準備はいい?」
『はい。今ココの部屋の前です』
「青葉ちゃんも?」
『はい』
「よろしい。じゃあ、今から会議室に入るから、今井君は音量マックスでお願い——」
主人公は遅れてやって来る。
愛美は不敵な笑みを浮かべて、重厚な扉を開けた。
「みんな見てて、ショータイムの始まりよ」
―数日後—
雑踏のなか、こちらに向かって歩いてくる間藤と佐倉を見つけたのは、愛美が待ち合わせ場所に到着してから数分が経った頃だ。いまだ愛美に気付いている様子はなく、二人は何事かを親し気に話している。周りが浴衣や甚平という出で立ちで行き交う中で、正装と言うのが著しく浮いていた。
そして、また二人をキャッキャと楽しそうに言い合う浴衣姿の女子達が追い抜いていく。圧倒的に二人より歩調が速い女子達であるから、愛美とすれ違うのも先で、その際、口々に囁いていた。「さっきすれ違った人イケメンじゃない?」「女の人も超綺麗」と。
どうやら、浮いている理由は正装というだけではないようだ。
劣等感に苛まれつつ、終始二人を観察していた愛美。ようやく気付いた間藤が大きく手を上げ、愛美は頭を下げる。心なしか歩調を速めて歩み寄ってきた間藤と佐倉。開口一番の言葉に愛美は動揺を隠せなかった。
「有名人がいるって誰かと思ったら、三枝さんじゃないですか?」
「何のことですか?」
「いやー、さっきすれ違った子たちが、ねえ? 佐倉さん」
「はい。『案内板のまえに綺麗な人がいる。絶対モデルさんだよ』って騒いでいたので。あの騒ぎようから、絶世の美女に違いないって……」
「絶世の美女だなんて、やめてくださいよ。それに、こんな分かり易いところで待ち合わせをする人なんて、そう少なくないと思いますよ」
あくまでも、無関係であると主張する愛美は周辺を確認する。しかし、立ち止まっている人間は一人もいない。事実を知り、それでもはぐらかしたい愛美は乾いた笑いを溢した。
「まあ、人違いだと思います」
「そうですか。当人が言うのであれば、他人がとやかく言うことじゃありませんね。無駄口を叩きました。すみません」
恐縮して頭を下げる間藤であるが、そんな彼を慌てて愛美は止める。
「そこまでしなくていいですよ、往来の場で。人が見てますから」
「えっ、ホントですか」悪戯をしでかした子供のように、お茶目な眼差しを向ける間藤。
「ホントです、ホントです。だから顔を上げてください」
「いやー、よかった——」顔を上げた間藤は、寄れたスーツを伸ばす。
「僕も部長みたいに詰められるんじゃないかと、ヒヤヒヤしましたよ。というのは冗談です。単純に三枝さんって、困らせたくなるんですよね」
「最低ですね」愛美の言葉を代弁した佐倉は続ける。
「それで、『イマココ』の二人はまだなんですか?」
「はい。でも––––」愛美は腕時計に視線を向けると、待ち合わせの時間まで残り5分。
「もうじき来るんじゃないですか」
愛美が自身の往路に目を向けた。すると、続々と煌びやかな浴衣に身を包んだ者達のなかに、一際大柄な男子がこちらに向けて歩いて来る。今井だ。生憎、橘の姿は雑踏に紛れて見えないが、愛美は来ていると信じていた。
「お二人とも、主役の登場ですよ」
「えっ」間藤は愛美の視線を辿り、今井を捉える。
「あっ、ホントだ––––。オイオイ。彼も少しは変装をして来ればいいのに。あれでは、目立ち過ぎだ」
腕を組み、間藤は感慨深そうに今井を眺めていた。
「まあ、でも。隠しきれないか、あのオーラは」
「何を浸ってるんですか。仕事は今からですよ、部長」
「佐倉さんには、情緒というものがないんですか。苦境を乗り越え、大手を挙げて制作に打ち込めるんですよ。本当によかった、妥協しなくて」
「どの口が言うんですか。一番最初に諦めていたのは、部長では?」
どこまでいっても、間藤に厳しい佐倉だ。
「佐倉さんは本当に硬いな。終わりよければすべてよし、ですよ。オーイ、今井君。こっちこっち」話を逸らすために、無理矢理明るく振る舞う間藤。それが明白であるがゆえに、相手方の今井も複雑な表情で駆け寄ってきた。
「すみません。遅くなりました」
「大丈夫大丈夫。まだ1分あるから」
尚続ける間藤を訝しげに見つめた今井は、次いで愛美へと視線を向ける。
「三枝さん、本当にお世話になりました。ありがとうございます。」深々と頭を下げる今井。その角度90度。
必然と背後が露わになる。そこには目を見開き、慌てふためく橘がいた。
今井の帯を掴み、目のやり場に困っている橘。じつに愛らしい。
「あの、えーっと……」橘が漏らすのにも構わず、愛美は飛び出す。そして、周りを憚らず、橘に抱き付いた。
「ごめんよ、ココちゃん。大人が……」
その勢いに橘も気圧される。
「何ですか、愛美さん? 暑いですって」
「ホントにゴメーン」愛美に離す気配はない。
「折角やる気でいてくれたのに、水を差してごめん。下らない大人が、ココちゃんの夢を邪魔してごめん。不甲斐ない私でごめん」
「分かりましたから。離してよ」
それでも頑なに離そうとしない愛美。
「許してくれる?」上目遣いで橘を見つめる愛美。
無いに等しい女子力を駆使し、訴えた。
「もう許す。許すから」辛抱堪らず橘は、強引に愛美を引き剥がした。
「ヨシッ。私の勝ち」
「いい大人が何やってるんですか。もう」頬を膨らまし憤慨する愛美であるが、その表情には生気が感じられる。喫茶店で見た表情、そのものだ。
安堵から笑みを溢す愛美。
「でも、良かった。もしかしたら、来てくれないかもと思ってたから。ありがとう、ココちゃん」
「お礼だなんて、やめてください。愛美さんにあそこまでさせておいて、来ないわけないじゃないですか。あっ、そうだ」
突如として声の調子を変える橘に気を引かれ、愛美も固唾を飲んで次の言葉を待った。
「愛美さん。ライブ配信してもいい?」
「ライブ配信––––。そうね。撮影中以外なら、いいけど」
「やった」橘は腰の辺りで拳を作る。
「俄然、やる気が出てきた。愛美さん、早速始めようよ。どうしたらいいの?」
いつにもなく前のめりな橘。しかし、そんな彼女の腰を折らざるを得ない愛美は心苦しかった。
「ごめんね、ココちゃん。もう少し待って。あと1人来る手はずになってるから」
「えっ、聞いてませんよ」そう言ったのは間藤だ。
「すみません。急遽決まったことなので、事後報告になります」
「まあいいですけど。どなたですか?」
「青葉ちゃんです」
「あー。前任の方」間藤は生返事だった。
「しがない1日を過ごしているそうなので、肩慣らしに来てもらうことにしました。制作部の人を呼んでも良かったんですが、おじさんばかりで。ココちゃん達も女の子の方が緊張しないでしょう。にしても、遅いな、青葉ちゃん」
待ち合わせ時間はすでに過ぎていた。目くじら立てるつもりはないが、外部の人間を前にして示しがつかない。愛美はスマホを取り出し、現在位置でも把握しようと青葉へコール。すると間を置かずして、青葉は通話に応答した。
「お疲れ様です、先輩。遅れてますよね。でも、もう愛美先輩が見えてるんで、直ぐに行きます」
言われて愛美が視線を上げると、雑踏に紛れて青葉が跳ねながら手を振っているのが見えた。縫うように人垣を避けて、青葉は近付いてくる。
相当、急いでいたのであろう。対面した際、浴衣の襟が濃く変色しているのに愛美は気付いた。
「みなさん、すみません。遅くなりました」
「1分遅刻だよ、青葉ちゃん」あくまでもポーズである。しかし、知る由がない青葉は、申し訳なさそうに眉を顰めた。
「すみません、先輩。着付けに手間取ってしまって」
「先方の前なんだから、気をつけないと」
「まあまあ、1分ぐらいいいじゃないですか。それに、ほら見て下さい、僕の時計。まだ待ち合わせ時間丁度ですよ」間藤は軽く袖を上げ、フォーマルな腕時計を示した。確かに丁度ではあったが、そうなると、青葉に対する可否が問えなくなってしまう。そこで一票を投じたのが佐倉だ。
「私の時計は数分過ぎていますが、この議論の方が時間を取っているので早く始めませんか?」
一同は、佐倉の正論パンチにぐうの音も出ず、いそいそと準備を始めた。
「それで愛美さん、私達はどうしたらいいの?」
「二人は、そうね——。カメラを気にせずいつも通りで、祭りを練り歩いてくれていいから」
「セリフとかはないの?」
「うん。セリフは後ほどナレーションで入れてもらうから大丈夫だよ。それで、佐倉さんはこれでサイドから撮影をお願いします」
「はい」心得があると踏んでいる愛美は、ろくな説明もせずカメラを佐倉に渡す。案の定、受け取ってすぐに佐倉はカメラの電源を入れ、仕様を試し始めた。
「青葉ちゃんは、佐倉さんのフォロー。人にぶつかりそうになったら注意喚起してあげて」
「了解です」青葉は敬礼。
「そして、間藤さんは一番前を歩いてください。私がその背中を借ります。では、皆さん。よろしくお願いします」
愛美は一礼し、それを皮切りにそれぞれが位置につく。誰からともなく歩を進めると、陣営が動き始めた。
「えっ、もしかして、もう始まってるの?」
「始まってるよ」端的に言う愛美。
「何で言ってくれないんですか」口を尖らす橘であるが、表情は柔らかい。
「求めているのは、自然体だからね。いつものココちゃんでいてほしいんだよ。あっ、いいね、その表情。可愛い」
「恥ずかしいじゃん、やめてよ」橘は無邪気に笑う。
「ゴメンゴメン。今のは露骨過ぎだね——。ふたりとも、まだ何も食べてないんじゃない? 屋台もあるから、気にせず寄ってくれていいからね」
「えっ、ホントに——」相当空腹だったのか、目を輝かす橘。前方に見えているであろう屋台群を渇望するあまり、途端に歩調が軽快になった。
「楽しみだね、今井君」
「そうだな」今井は柔和な笑みを返す。
その後も、終始笑顔を絶やさない二人に、愛美は撮影の成功を確信した。
「一時はどうなるかと思いましたが、やはり三枝さんにお任せして良かった」背中を預ける間藤が、しみじみと呟く。
「それは素直にありがとうございます」
愛美はモニターを注視しつつも、意識は会話にあった。
「でも、これは以前から疑問だったんですが、どうしてそこまで気に掛けて頂けたんでしょうか? 明らかに私よりではあったと思うんですが、誤りだったらすみません」
「いえいえ、謝らないでください。そうですね。三枝さんは、僕と初めに会ったときのことを覚えていますか?」
「詳細は恥ずかしいので口には出しませんが、はっきりと覚えていますよ」
「なら僕も言及は避けますが、あの時三枝さん、田辺部長と何かあったんじゃないですか? パワハラめいたことが」
「有り体に言ってしまえば、そうです」
「痛みを知っている人間は、例外を除けば、それだけ他人の痛みに寄り添える。物を作るうえで、それができるってことは大事なことだと思います。それに、部下の仕事を我が物顔でプレゼンする田辺部長の姿勢が気に食わなかった」
「気付いておられたんですか?」
「何年社会人やっていると思ってるんですか? プレゼン資料の文体、グラフの配色などを見れば、一貫して同一人物が作成していることぐらい明白です。それをミスが発生したときだけ、青葉さんを槍玉に上げるだなんて言語道断。責任者の風上にも置けない」
「それ、青葉ちゃんが聞いたら泣いて喜ぶと思いますよ」
「泣かれるのは困るので、この事は三枝さんの口からお願いします。あとは、三枝さんの人柄に惚れたというのもありますね」
「人柄に、ですか。知り合ってから、そう時間は長くないと思いますが」
「それがですね。実は三枝さんの仕事以外の顔を僕は知ってるんですよ」
「というと?」
「三枝さん、職場の近くにある公園に度々訪れてたんじゃないですか?」
「頻繁にではないですが……」
「ですよね。そこで爺様、いやっ、源会長に会いましたよね?」
「まあ」
「やはり、そうでしたか。聞いてたんですよ、会長から。散策に行った公園で、社会の荒波に揉まれる若人に会ったって。興味津々で、会食の時に話すものだから、家では専ら三枝さんの話題で持ち切りでしたよ」
「それはなんだか、気恥ずかしいですね」愛美は小さく呟く。
「だから、一打合せに会長が直々に参加するって言った時は、父親揃って慌てたものです。生憎、父親は参加できませんでしたが、会長がそこまで見込んでいる人を拝む機会を逃したって、大層悔しがってましたよ」
「いやはや。話題ばかりが先行して、実際にあったとき幻滅されないか心配ですね」
「それは大丈夫です。僕が保証します」
「なら心強い。よろしくお願いしますね」愛美は嬉しさのあまり、軽く背中をぶつけた。
「それはもう。是非に」
一行はすでに屋台群に差し掛かっている。それまで呑気に会話を楽しんでいた愛美も、徐々にそうもいかなくなってきた。大人しく今井と談笑を繰り広げていた橘が、屋台が軒を連ねるエリアに入った途端、物見遊山を始めたからだ。あちらこちらと縦横無尽に買い込む橘に、ついて行くのがやっとの愛美は、手を焼く。そんな愛美をフォローする形でカメラを構えている佐倉も、額に汗を滲ませていた。
最早、橘の両手はビニール袋でいっぱい。それをさり気無く預かる今井は、男子の鑑と言える。
「後は飲み物だね。えーっと、飲み物飲み物」呟く橘は、頻りに前方を窺う。そして、見つけた橘は愛美のカメラを気にせず、振り切ってしまうが、そこは佐倉の連携が冴える。
あらかじめ駆け出すと予想していた佐倉は、飲み物を売っている屋台の前で待機していた。
「間藤さん。佐倉さんの前方に回って貰えますか。私はこのまま今井君のバックを収めたら、この先にある休憩所で待機しますので、2人をそちらに誘導してください」
「分かりました」駆け出す間藤は、佐倉のカメラに映らないよう大回りで向かう。
愛美は愛美で今井を撮り終えると、大急ぎで先にある休憩所へと走った。
テーブル席6台とベンチが5基用意された休憩所はほぼ空きがなく、ベンチ2基が空いているだけだ。愛美は一番奥のベンチを確保し、撮るべき画を想定する。
程なくして愛美の構えたカメラの前に、2人はやって来た。変わらず今井の両手にはビニール袋、一方の橘は見覚えのあるペットボトル飲料を片手に1本ずつ持っている。
カメラに向かって歩いてくる2人は、自然と愛美の正面に腰掛けた。それを背後から撮影している佐倉。
待望の瞬間に、愛美は手に汗握る。
「はい、今井君」
「ああ。ありがとう」
橘が片手のペットボトルを今井に手渡し、それを受け取る。2人の視線が交わり、撮影は愛美の「カット」の声で終了した。
夜が更ける。時間とともにあたりは混沌を極めていくなかでも、面々の姿は今だ休憩所にあった。
撮影も終わり、緊張の糸が切れたこともあって、それぞれがそれぞれで楽しんでいる。アルコールの入った青葉は、先日大会議室での一件を即興劇として披露し、間藤、佐倉、今井を含めある程度の観客を得ていた。そんな彼らをしっぽりと缶ビールを呷りつつ、眺めているのが愛美で、隣では橘が宣言していた通り、ライブ配信をしている。
「みんな、急なライブ配信にも関わらず、集まってくれてありがとう。今日は特別な日だから、みんなと共有したくて始めちゃった。今日はとある案件の撮影だったんだけど、さっき無事に終了したから、近々、ビッグニュースが発表されると思うから期待しててね。
あと、今日は特別ゲストを呼んでるの。私の恩人でもあり、このチャンネルの恩人でもあるこの人。三枝愛美さんです。どうぞ」
不意にスマホを向けられる愛美は、目をやりはするものの何事かは分かっていなかった。画面上には文字列が次々と流れていき、読もうにも目が追い付かない。思わず顔を近付けると、自身の顔がデカデカと表示されるが、そういうものだと思考するまでに至らないのは愛美が泥酔しているからだ。
「映ってますよ、愛美さん」そう注意されるも、然程気にしないのだから酔っ払った人間の肝の据わりようと言ったら、恐ろしいものがある。
「んー、そうなんだ。こんばんは」愛美は手を振ってみせた。
「ゴメンね、みんな。愛美さん、酔っ払ってるみたい。普段はもっとカッチリして、カッコいい女性なんだけど、今日はみんなが言うように可愛い女性みたい。
おそらく愛美さんに登場してもらうのはこれっきりになると思うんだけど、どうしてもみんなに紹介したくて。最近いろいろあって、みんなを笑顔に出来そうになかったの。それで配信する気も起らなくて、ずっと塞ぎ込んでたんだけど、愛美さんは言ってくれたんだ。『年長者は若者の夢を励まし、実現へ導くものでしょ。それをあなたは潰そうとしている。それは一体どういう了見なの』って、立場が危うくなるかもしれないのに、全力で私を庇ってくれたの。本当に嬉しかった」
感慨深そうに語る橘に、堪らず愛美は肩を抱いた。
「なにセンチメンタルになってるのよ、ココちゃん。そんなんじゃ、視聴者の人たちが心配しちゃうよ」
「だって、ホントに辞めなきゃいけないと思ったんだもん」
「だから、そんな声出さないの。誰人だって他人の夢を邪魔することなんて許されないんだから。ココちゃんはココちゃんの夢を全力で突き進めばいいの。私はいつまでもココちゃんの味方だし、ファンだし、ここにいる何千人もの人達に負けないくらい応援してるんだから」
「ハハッ––––」柔和な笑みを浮かべながら、橘は溢す。
「ガチのファンじゃん」
「そうだよ」
「どうみんな? ここにとんでもない私のファンがいるけど、ここまで尽くしてくれる?」
その問いに対して、画面上にはノの文字が並び、どんどんと上へと流れていく。しかし、先日の一件があったせいで頭の端にネットに対する不信感が芽生えているのであろう。橘はマイクが拾わないぐらいの声量で呟いた。
「ねえ、愛美さん」
「なに?」
「おそらくここにいる誰も、愛美さんのように身を呈してまで私を守ろうとはしなかったと思うんだよね。愛美さんは本当に、ファンってだけでそこまでしてくれたの?」
「そうだな––––」愛美は考える素振りを見せた。
「それもあるけど、何より性分ってのもあるのかな。誰かを支えたいし、応援をしたい。誰かにありがとうって言ってもらいたいし、幸せでいてほしい」
「なーんだ、愛美さんも私の夢と一緒じゃん」
いつにもなく無邪気な笑みを浮かべる橘であった。
―プレスリリースから数日後—
それはいつも見ている早朝の報道番組でのことだ。
「それでは本日のトピックです——」
新人アナウンサーと思しき女性が、ハキハキとした口調で進行していた。
「みなさんは今、若者を中心に話題沸騰中のインフルエンサー『イマココ』をご存じですか? 幼馴染の彼らがSNS活動を始めたのは、昨年のこと。その登録者数は日に日に増加傾向にあったのは、彼らの魅力によるものですが、それでも彼らをさらに押し上げているのは先週から公開されている、このCM」
画面が切り替わり、屋台を練り歩く麗しい男と女の映像が流れ始めた。その見覚えのある映像に、愛美も胸が高鳴る。
「彼らのポテンシャルに加え、圧倒的な映像美。見たものを郷愁に誘い、在りし日のことを想起させる。それを狙って制作されたというCMですが、これはあの酒造メーカーである源酒造のCMなんです。新規事業としてスポーツドリンク市場に参入した源酒造ですが、そのCMコンセプトと『イマココ』が見事に合致。先日まで行われていたアイドルグループ『ハレルヤ』とのふれあいキャンペーン時よりも売れ行きは上々だそうです。それもこれも『イマココ』がSNS上で行った本製品を用いて誰かに告白するという“告白チャレンジ”によるものと担当者は分析しているとのことです
今後の『イマココ』に私も注目したいと思います。
それでは、午前7時を回りました。今入っているニュースをお伝えします……」
持ったままでいたリモコンで、愛美はテレビの電源をOFFにする。息を吐き、次の行動まで数秒要した。
「ヨシッ、今日もいい仕事するか」
愛美は軽快に歩を進めた。
公園の神様 SAhyogo @SA76
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