第3話 冷酷な瞳

 普通に目が覚めた。例えるならやっとの思いで来た休日の朝なのに全くやる気が起きず、高確率でなにもせずに一日を終えるパターンになると確信してしまうぐらいのそれ程よくない目覚めだった。


 つぎ起きる時、俺は怪物だ。正義?そんなものは無いと心のなかで思いながらオペを受けたのに、なんか普通に目覚めて、しかも病室には誰もいなかった。こういう時は健気に看病してくれたヒロインがベットの脇で寝ているとか目が覚めたんですねとか言って意味深なシーンに入りかけるのが王道的パターンなのに、一切そんなイベントは起こりそうになかった。まあ世界の状況からみてそんな事ありえないのは分かっていた。ただ、なんとなく・・。


 少し寂しかった。手術を受ける前はお偉いさん方に激励されるし自分が異形的存在になれるのはちょっと特別感があって満更でもなかった。だが、あまりにも普通すぎる目覚め方に少し恥ずかしさを覚えた。そもそも手術は成功したのか?今のところあまり体に違和感はない。というかここは一体どこなんだ・・・。

 その時、俺はある単語が脳裏をよぎった”隔離”である。そもそもこれからあの宇宙人どもと戦う人造兵器の俺が人としての生活をするのは不可能といえる。きっと俺はこれからただ戦うだけの傀儡となり政府の奴らに利用されるだけされて最期には捨てられるのがオチだ。契約書にはそんな記述は一切なかったが、バカ正直にそんな事を書くはずがない。俺はもう・・・


「失礼します。あ、目覚めたんですね。」


 看護師の方が普通に入ってきた。誰だよ隔離なんて言ったアホは‥俺か。


「調子はどうですか?どこか痺れます?」


「いえ。」


「そうですかー。お熱はかりますねー」


 なんか、のほほんとした看護師に手をでこに当てられた俺はほんの数秒間だけ息を止めた。というか普通、熱を測るのは体温計でやるものなのになんでこの人素手なんだ?

 

「…?。どうかされましたか?」


「いえ・・・、普通こういうのって体温計で測るものじゃないんですか。」


「あー・・私、機械音痴なんですよー。」


いや体温計が使えないレベルの機械音痴ってそれもう生きていけないだろ、現状があれなだけによく今日まで生き残れたなこの人・・。


「うーん大体38.5℃といったところですかねー」


38.5℃ねぇ、まあまあ高い…


「え⁉38.5℃‼普通に高熱じゃないですか!やっぱり普通の体温計で測った方が」


『彼女の言った体温は正確だよ。幸長くん』


ガラリというドアを開く音と共にオペを担当した先生とその後ろにいた、やたら目つきが悪くそして、眼光が鋭い看護師らしき人が病室の中へ入ってきた。オペを担当してくれた人は海藤先生というベテラン医師で人望も厚い方だ。もう一方の看護師の方は初対面の方ではなかった。多分、手術室で助手をしていたあの女性だ、マスクをしていたので一瞬だれか分からなかった。


「これは海藤先生、今回はお世話になりました。」


「いやいや、今のところ異常は無さそうで何よりだよ。」


「あと、さっき娘が言った体温は気にしなくていい、君の体はもう普通の人間とは比べられない程、身体能力が向上している。もしオリンピックがあれば君はただやるだけで陸上競技の全種目。いや、全ての個人競技で金メダルを獲得するだろうね。」


「身体能力を含めありとあらゆる人としての機能が人類の頂点となった君はさながらアメコミのヒーロー的存在だ。だがメリットだけじゃない、所詮は人の体を魔改造したのにすぎない君の体は力を使いすぎると負荷に耐えれなくなって死ぬ。活動限界は一日一時間が限界と思ってくれ。まあそういうのは真面目な君のことだ契約書をみて知っているだろう?」


「ええ、それは当然。ところで娘って?」


「ああ、紹介するよ今日から君の周りの世話をする世話係だと思ってくれたらいい、困った事があれば彼女たちに言ってくれ。」


「はーい!ご紹介預かりましたパパの娘の海藤七海です。本日をもって幸長くんの担当になりました!歳は22歳でーす。好きなものはー甘いものとか他にはー・・。」


「浅海美優です。よろしくお願いします。」


長々と自己紹介をする先生の娘の話を遮るように目つきの悪いもう片方の浅海と名乗る女性は淡々と自己紹介を終えた。この戦争で大事な人を失ったのかそれとも、元々こういう人なのかは分からないがただ静かにそして俺を下げずむような冷酷な瞳で俺の事を睨んでいた。

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星のうつわ 蛍火千花 @ken751043959

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