第3話・銀子を嫁にしたいから〔ラスト〕

 才演の姉が、混乱している銀子に言った。

「通っていた学校への、再転入手続きは済ませてあるから……お父さん、例のモノを」


 立ち上がった父親が壁に吊られている、掛け軸のように丸められ。

 ヒモで結わえられていた布のヒモを引きほどく。

「これが、再転入に際して家族会議で決めた。銀子ちゃんの新しい名前だぁ」

 父親の口ドラムロールと共に、広げられた布に書かれていた。

『銀子・MARK―2』

 の文字を見た途端、銀子の頬がヒクヒクと痙攣した。


 数日後──銀子は、自分が通っている学校に再転入した。

 しかも、自分がいるクラスに再転入……ホワイトボードに書かれた『銀子・MARK―2』 の文字に。

 クローンの銀子は頬をヒクヒクさせながら自己紹介をする。

「は、はじめまして……ぎ、銀子・MARK―2です……き、今日からよろしくお願いします」

 ざわつく教室、生徒たちはオリジナルの銀子と 『銀子・MARK―2』を二度、三度と交互に見る。

 銀子・MARK―2は、ずっとうつ向いたままだった。


 放課後──教室で顔を机に伏せている、クローン銀子に、ショートヘアのオリジナル銀子が話しかけてきた。

「ちょっと、聞きたいコトがあるんだけれど」

 通学ガバンをつかんで、脱兎のごとく教室から叫びながら逃げ出す、銀子・MARK―2。

「あ、あたし用事がありますからぁ!」


 教室から飛び出したクローン銀子は、そのまま才演がいる科学部に駆け込んで。

 一人でいた才演に、食って掛かる。

「なんとかしてよ! 同じクラスに自分がいるのよ……もう、頭どうにかなりそう。だいたい、MARK―2って何! ロボットアニメ?」

「まぁまぁ、落ち着いて」

「落ち着いていられるか! 登校するたびに、もう一人の自分と顔を合わせるコトになるのよ! いきなり、双子にさせられた者の気持ちがわかるか!」

 机の上に顔を伏せた銀子が、少し涙声で言った。

「もう、いやぁ……同じ学校は行きたくない」


 才演が、試験管に薬品を混合させて白いドクロの煙を、試験管から出しながら言った。

「じゃあ、オレと結婚してみる?」

「はぁ?」

「銀子が、オレの嫁さんになってくれたら。姉貴が、別の離れた学校に銀子を転入させる手続きしてくれるって」

 机に伏せたまま、目だけを上げて才演を見る銀子。 

「もしかして、最初からそれが目的で、あたしを元の学校に……」

「両親も、銀子がオレと結婚してくれたら。いつまでも家に居てもいいって……どうせ、行くところ無いんでしょう」


 机に伏せていた銀子は、両腕を枕に顔を横に向けて、才演を見ながら訊ねる。

「結婚って……学生同士じゃムリじゃない?」

「銀子が、おヘソに管つけて眠っている半年の間に、結婚法が改正されて高校生の結婚も、認められるようになったから……経済的な負担が大きかったら、先に籍だけ入れて卒業後に挙式するって方法もあるから」

 顔を上げる銀子。

 才演が真剣な眼差しで銀子にプロポーズする。

「幼馴染みのオレと、結婚してください……大切にします」


 少しだけ微笑み返答する、銀子・MARK―2。

「なんか、変な具合にハメられ感もあるけれど……結婚してみるか、幼馴染みでずっと見てきたから、いい部分も悪い部分も知っているから……OK、クローンのあたしで良かったら結婚してあげる」


 こうして、銀子・MARK―2は転入した学校から、離れた学校へと転入して。

 松戸の家に同居する学生妻になった。


 数日後──才演の家の朝、キッチンで朝食の用意が終わった、銀子・MARK―2は新しい学校の制服の上に着ていたエプロンを外してテーブルの上に置くと。

 階段を上がって才演の部屋へと向かっう。

「ほら、ダーリン……早く朝食食べないと、お味噌汁冷めちゃうぞ」

 寝具をひっぱがし、パジャマ姿で眠そうに目を擦っている才演の頬に銀子は、軽くチュッとキスをする。

 おはようのキスが終わった銀子が言った。

「あたしは、学校が遠いから先に行くから……いいこと、ちゃんと朝ごはん食べてから学校へ行くのよ」

「ふぁいぃ」

「しかし、まさかあたしが、あんたと結婚するなんてね……好きだからクローンで作ったって言われた時は、ちょっぴり嬉しかったけれど」


 才演の部屋から出ようとした銀子は、ふっと思い出したように才演に質問してみる。

「そう言えば、気にはなっていたけれど……幼馴染みで遊んでいた時に、あんたのお姉ちゃんって居たっけ? 一度も見た記憶がないんだけれど?」

「あぁ、姉ちゃんは。オレが中学生の時にマッドな科学者のおじいちゃんが。

『誕生日プレゼントで何か欲しいものはないか?』って聞いてきたから。

お姉ちゃんが欲しいっ言ったらクローンで作って、プレゼントしてくれた」


 才演に背を向けたまま、銀子・MARK―2が 一言。

「本当に、あんたの家系ってマッドな科学者の家系ね」

 そう言い残して、階段を降りていった。


  ~おわり~

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なにげなく、同級生の女の子を、AIと3Dプリンターの力を借りてクローンで作ってみたら成功しちゃった件 楠本恵士 @67853-_-

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