第39話 スタートライン

目を開けると、俺は大きなベッドで横になっていた。

部屋はこれでもかと言うくらい豪華な造りで、見たこともない絵画や骨董品が置かれていた。


俺は。。。 何をしていたんだっけ? ここはどこだ?


ガチャ


扉が開いた音がした。そちらを向くとメイドの様な格好をした女が驚いた顔でこっちを見ていた。


「あ。。。 そんな。。。 イブ王女! クロガネ様が。。。 クロガネ様が目を覚ましました!」


メイドの大きな叫び声で、ワラワラと人が集まってきた。


「クロガネ! 良かった。。。 目が覚めたのね。本当に良かった」


そういうと、女が突然俺に抱きついてきた。

えっと 誰だっけ?

後ろを見ると、男と獣人が喜びあっている姿が見える。


「俺は。。。 一体。。。 ここはどこだ?」


「クロガネ。。。 まさか記憶が無いのか?」


「クロガネ?」


目の前の獣人が不思議そうに俺を見ている。

それにしてもクロガネって。。。 俺の事を言ってるのか?


「大丈夫、長い間眠りについていたんだから、記憶の混同をしているんだわ」


目の前でやり取りを聞いていた俺は、一体何がどうなのかを聞くと、話のスケールが大きすぎて混乱してしまった。


まず、俺は半年間も眠りについていたらしい。

その間にこの国、つまりタギアタニア王国の再編として、イブ王女が全権を持ったとのこと。


種族による差別を失くし、壁の外側の国民の生活の保証。他国からの犯罪者の流入を防ぐために隣国と協定を結んだとの事だった。


何が驚くって、そのきっかけを作ったのが俺らしい。。。


何だか、頭が痛くなってきた。。。

ここはどこだ?

俺の記憶がおかしくなっている。

何か。。。 思い出せそうなんだけどな。。。


俺に気遣ってか、少し休んだ方が良いと言われて1人にされてしまった。

何もする事もない為、落ち着いて思い出そうとした。


駄目だ。。。 思い出せないというか、記憶がごちゃ混ぜになっているようだった。


「クロガネ、 ちょっといいか?」

イブ王女と青藍だっけ?が入ってきた。


「やっぱり思い出せないみたいね。そこでね、思い出して貰おうと、あ・る・も・の・を・持・っ・て・き・た・の・」


「あるもの?」


イブ王女が俺に手渡しをしてきたモノ。。。それはスマホだった。


「クロガネ、お前が探してたものをイブ王女がペソノから取り返してくれたんだ。まぁ 俺にはこれをみても何なのかさっぱり分からねぇがな」


俺が探していた? 何のために?


「クロガネ、思い出せない? 連絡を取りたい人が居るって貴方は言ってたのよ?」


連絡を取りたい人? 駄目だ。。。思い出せない。

これは。。。 自分のスマホじゃない。女の子っぽいスマホだな。一体、誰のスマホだ?


そう思いながら、スマホを起動すると、仲良く写った親子が壁紙になっていた。


仲良さそうな親子だな。。。子供の誕生日の写真だ。。。

でも、結構前の写真にみえる。。。思い出の写真って所か。


ふと、バースデーケーキにチョコレートで書いた名前に目が止まった。



happy birthday テレジア



テレジア。。。


その瞬間、忘れていた記憶が頭に流れ込んできた。


震える手で発信、着信履歴からマスターの名前を探した。


あった。


発信ボタンを押して、スマホを耳にあてる。

こんな世界で発信できるはず無いよな。


プルルルル


掛かった!


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


プルルルル


出るわけ無いか。。。


そう思い切ろうとした時、誰かの声が聞こえた。


「。。。もしもし、 私のクレホから掛かって来たって事は。。。 もしかしてマスター? 」


「もしもし、テレジアか?」


「マスターなの? 聞こえません! 何か喋って下さい!」


クソッ! こっちの声が聞こえて無いようだ。


「テレジア! 今、何処に居るんだ? 教えてくれ!」


「。。。マスター、 聞こえてないかも知れないけど。。。身動きが取れない状況なの。。。 わかってるわ。。。 自分で何とかしないと」


すると、電話口の向こうで複数人の聞きなれない言葉が聞こえてきた。


「奴らが来た! もう切りますから!」


「おい! 何処なんだ! 教えて。。。」


ブツッ 電話が切れる音がした。


もう一度電話をしようとすると、画面が真っ暗になっていた。

クソッ!

スマホの電池が無くなってしまったようだった。


「肝心な時に! 結局、テレジアが何処にいるか分からなかった!」


苛ついてる俺にイブ王女が声を掛けてきた。


「興味深いわ。伝言鳩が無くても話せるモノがあるなんて。クロガネ、ちょっと 落ち着いて聞いてくれる?

たぶん、テレジアさんの居場所の検討がついたわ」


どうやら、スピーカーにして話していたらしい。会話の内容は周りに丸聞こえだった。


「彼女は恐らく、エジンレ神聖帝国に居るわ」


「エジンレ神聖帝国。。。 そういえばあの女が触が起きたって。。。 でも、どうして分かったんだ?」


「エジンレ神聖帝国でしか使わない言葉が聞こえてきたからよ。これでも英才教育で12ヶ国語の特有の言葉はある程度分かるんだから」


「どうやったら行けるんだ?」


「焦らないでクロガネ。説明するから」


イブ王女は丁寧に説明をしてくれた。


場所としては、グラトーレ共和国を越えた先にある国との事。


神聖帝国と名が付くくらい、神に傾倒している国との事だった。


「イブ王女、ありがとう。身体も動くようになったし、明日、出発しようと思う」


「全く分かって無いわね貴方は! いい? 国を越えるには王の承印がついた通行証が必要なのよ? それがないと行けないの! 分かる?」


「そうだぜ! だから、この国へ不法入国が後を絶たないわけだ」


確かにそうだよな。。。


イブ王女と青藍に言われて気付いた。


通行証なんて俺は持って無いし。。。 困ったな。。。


「クロガネ。一週間の時間を頂戴。直ぐに用意するから」


「えっ? 通行証をくれるのか?」


「だって、私のお願いを叶えてくれたじゃない。こ・の・国・を・助・け・る・き・っ・か・け・を・つ・く・っ・て・く・れ・た・で・し・ょ・?

貴方をタギアタニアの大臣として通行証を発行するから待っててくれる?」


「凄ぇーじゃねぇか! 大臣だったら、他国はお前を国賓扱いしてくれるんだぞ? 11ヵ国全て厚待遇で入国出きるんだ! 良かったな!」


「痛っ!」


青藍が嬉しそうに俺の肩を叩いてきた。


「青藍、貴方はどうするの?」


「あー 俺か? 俺は どうするかな? 目的も無くなっちまったしな。イブ王女のお陰で、壁の外側も国軍の兵士が治安維持のために見回りもしてくれてるし、俺の村も心配要らないしな」


「ふーん。。。 ふふっ。。。決めたわ」


イブが不適な笑みを俺と青嵐に見せた。


「青藍、貴方の功績を評価し、タギアタニア軍の隊長に命ずる。初仕事として、クロガネに同行して見聞を広げてきなさい! 通行証は大臣の護衛の身分としてなら入国も問題ないわ」


「お。。。俺がタギアタニア国軍隊長。。。 良いのかよ? 俺は獣人だぜ?」


「不服? なら取り消そうか?」


「まままま待て! 受ける! 受けさせて貰うよ! 俺が。。。こんな俺が国軍隊長になれるなんて。。。」


こうして、俺と青藍の2人でエジンレ神聖帝国へ向かうことになった。


余談だが、カールは処刑は逃れられたが、行った罪の大きさから幽閉されることになったと言う。


ウド獄長は国軍の将軍へ晴れて戻ることになったと言う。


前国王とペソノは王族の権利を剥奪されたが、イブ王女の温情として壁の外側のボランティアを課したと言う。


他種族の事をちゃんと理解した城へ呼び戻すつもりらしい。


アドルフ隊長は、ベルヴァルト監獄の監長に就任したとのこと。


リュックも国軍の小隊長へ大出世していた。

イブの身辺警護も兼任してるらしい。


イブはリュックの事を満更でもない気持ちらしく、リュックを側に置いておきたい感じだった。




一週間後。。。




俺と青藍は城の門の前に居た。


ウド獄長含めて皆、俺達を見送りに来てくれていた。


「クロガネ 貴方は弱いんだから無茶しちゃ駄目だよ!」


「イブ王女、俺がお守りをするから安心してください! なぁ クロガネ? ガハハハハ」


「うるさいよ! ったく! 俺は子供じゃない」


「頑張れよー! 振られたら慰めてやるからな!」


見送りにきたのか、からかいにきたのか分からないけど、俺はこの人達のお陰でこの世界で、生かされたと思う。


皆、本当にありがとう。


ここからが、俺の本当のスタートラインだな。


「青藍 行こう!」

「おおよ!」



タギアタニア王国編 完

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自己評価は超低いのに異世界へ転職したら大成功してしまった 表うら @hodopita

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