第20話 片桐ヤヨイは遊びたい
少し前に孫と一緒に見知らぬ少女が突然、私を訪ねてきました。
どうして来たのかと尋ねてみれば、何やら謎を解く手助け欲しいとのこと。
話していてなんとなく分かりましたが、恐らく私の学生時代など比べ物にならないほど賢い少女なのでしょう。なにせ、何時だったか、ニュースで数学の未解決の難問を解決したと発表されていた少女だったのですから。
行動力も並大抵ではありませんし、遥か年上の私を前にしてもあまり物怖じする様子もありません。肝が据わっているのか、そう言った相手と渡り合うのに慣れているのか。
短い間ではありましたが、とても楽しく刺激的な出会いでした。らしくもなく、若い子に倣ってラインの交換などしてしまいました。
そしてそんな少女、合坂アカネさんから今朝、連絡が一つ届きました。
『私と同じくらい賢い奴が会いに行くのよろしくお願いします』とのことです。
今朝の分の執筆を終えてから、私は書斎で独り、はしたなくほくそ笑んでしまいます。
あのアカネさんからの紹介です、それはそれは楽しい出会いとなるのでしょう。そしてそんな子に私が一つ謎かけをしてもよいとのことです。年甲斐もなくほくそ笑んでしまうのも致し方ないことですね。
アカネさんにそれとなく確認してみましたが、その方はどうやらアカネさんが探していたお方のようです。
さてさて、どのようなお方でしょうか。
そしてどんな謎かけをお出しすれば満足していただけるでしょうか。
紅茶の準備をしながら、私はくすくす笑って考えます。想いだすのはまだ年端もいかない少女だったころの記憶。友人の女の子たちをお家にお招きするのを楽しみにしていたあの感覚。
はてさて何十年前の感覚でしょうか。でも、やってきた友人の姿すら朧気ですが、確かに胸が湧き踊るものですね。
相手が、今も盛りの少女たちだからでしょうか。そして、そんな彼女たちの精神性にあてられたからでしょうか。
老齢で得た知識も、知見も、度量も、冷静さも、それらすべては何物にも代えがたい力の一つではありますが。
未知を楽しむ、この感覚だけは、得難いものになってしまいますから。
さあ、なにをして遊びましょうか。
できれば、うんと楽しめるとよいのですけど。
老女はくすくすと年端もいかない少女のように笑っていた。
※
「お題はとても簡単です。しりとりをしましょう。私に勝ったら、合坂アカネさんへのヒントが聞けると言うことで」
「しりとり……ですか?」
「はい、制限時間は……そうですね。それぞれの番ごとに30秒にしましょうか。何文字になっても構いませんし、もちろん専門用や固有名詞でも構いません」
「えと……『ば』とか『ぱ』の扱いは、どうするんですか?」
「濁音、半濁音の変換はなし。簡単なルールにしましょう。言葉の有無の判定は……審判にやってもらいましょう」
「……審判?」
「はい。……というわけだけど、いいかしら? ユウキ?」
「ほーい、おねえちゃんがアカネねーちゃんのともだち? なんかすっげーしろいなあ。よーするに、オレがしってればオッケーなんだよな」
「そういうことです。累計三回ユウキが知らない単語が出てきたら敗北。あとは一般的なしりとりと同じですね。同じ単語、語尾が『ん』でも敗北です。『ん』から始まる単語もありますが、それは考えないものとします。何か異存はありますか?」
「……いいえ」
「結構、では始めましょう」
「先攻後攻は?」
「ふふ、いいですね。とても楽しみです。最初は―———」
「え、あ」
「パー」
「…………」
「ばーちゃんが幼稚園児みたいなことしてる……」
「あらユウキもこの前してたでしょう? それと、ふふ、冗談です。では改めてじゃんけんしましょうか、百井シロカさん?」
「…………はい」
それはまるで童女のように、老女は楽しげに微笑んだ。
日本一の天才少女たちは出会えない キノハタ @kinohata
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