不思議な子

きと

不思議な子

 まだ花火まで時間があるというのに、そのお祭りはかなりの人出だった。

 この時間で、この人の量。花火の時間なるとすし詰め状態だな、と地元の高校生であるしろは思った。

 白は、友人たちと花火までに出店を見て回ろうと待ち合わせをしていた。が、白は三十分前と、思っていた以上に早く着いてしまい、時間を持て余していた。

 せっかくだし、お祭りが開かれているこの神社の本殿ほんでんを見てみよう。

 白は、待ち合わせ場所である神社の入口でそう考えて、行動を開始する。

 鳥居をくぐって、境内けいだいを歩くと出店の誘惑ゆうわくと戦いながら、白は本殿にたどり着く。

 子供の頃より、なんだか本殿は思ったよりも小さく感じた。

 とりあえず、周りを一周してみようと思い、本殿正面の右側に回る。

 と、そこには、ひざを抱えた女の子がいた。

「うわっ!」

「ん?」

 まさかこんなはずれたところに、自分以外の人間がいると思わず、叫び声をあげてしまう白。

 対して、女の子は落ち着いていた。

 改めて見てみると、女の子も浴衣を着ていた。

 ――この女の子もお祭りに来て、時間つぶししてたのかな?

 そんな考えを巡らせていると、

「そんなにジッと見ても、何も出ないよ? お姉さん」

「あ、ごめん」

 確かに人を観察するようにじっくりとながめるのは良くなかった。

 白は、素直に反省すると同時に、あることを思う。

「君、もしかして迷子?」

 女の子の年代は、見る限りでは明らかに自分より歳下で、小学生ぐらいだろう。こんな小さい子がこんな所にいるのは、迷子の可能性を考えるのが普通というものだ。

 それに対して、女の子は非常に落ち着いた様子で

「違うよ。一人だし」

 と答えた。

「え?じゃあ、こんな所で何してるの?」

 小学生くらいの子が一人でお祭りというのも珍しいが、人の喧騒けんそうから離れた場所にいるのはさらに珍しいことだ。

 女の子は、言いたくなさそうにしたが、しぶしぶ答えてくれた。

「……幽霊ゆうれいと話してる」

「はい?」

 幽霊?何を言っているんだ?

 不思議ふしぎな子だなとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。だが、

「幽霊と話しているなら、証拠しょうこ見せてよ!」

「……えぇ?」

 女の子も大概たいがいだが、白も充分じゅうぶん変わっているのだった。

「証拠って言われても、何を見せたら証拠になるのさ?言っておくけど、自分にも幽霊見せろっていうのは無理だよ?」

「あ、それは無理なんだ。残念」

 少しだけしょんぼりする白だったが、すぐに立ち直って自分の携帯電話を取り出して、女の子に差し出す。

「なら、その幽霊にこの携帯持たせてみてよ! 携帯がふわふわ浮いてたら、それはポルターガイストでしょ!」

「まぁ、それでいいなら……」

「できるんだ!」

 女の子より年上と思われるのに、目を小学生のようにキラキラさせる白を見て、女の子は溜息ためいきを吐く。そして、誰もいないはずの場所に、話しかける。

「聞こえてるよね? 携帯持ってよ」

 軽い感じでそう言うと、白が持っていた携帯がフワッと浮き上がる。

「おお!?」

「……これで信じた?」

「うん!バッチリ!」

 初めて目の前で心霊現象が起きたことに、テンションは否が応でも上がる白。

 もっと、この女の子と話をしたい。

 そう思ったが、フワフワと浮いていた携帯が鳴りだす。

 ほら、と幽霊の手をから簡単に放り出された携帯を慌ててキャッチする白。

「もしもし?」

『白? 今どこ? もう待ち合わせ時間だけど』

「あ、ごめん!早く着いたから本殿見てたんだ。すぐそっち行くね!」

 意識していなかったが、長い間、この女の子と話していたようだ。

 白は携帯をしまう代わりに、一枚の紙きれを取り出す。

「ねぇ! 君、名前は?」

あおだけど……」

「私は、白って言うの。同じ色の名前ってことでこれ!」

 白は、青と名乗った女の子に取り出した紙を渡す。

「……これは?」

「私の電話番号!もし良かったら、また会おう。じゃあ、私行くから」

 白は、それだけ言うと青のもとから友人たちのもとへと走り出した。


 ……白が立ち去った後。青の下に迫る影があった。

「よかったのですか? わが主。自らの力を見せてしまって」

「何も問題ないよ。どうせ、もう会わないだろうし」

 青は、立ち上がり土を払う。声をする方を見ると、そこには一匹の鹿がいた。

「ですが、あの白という女は、なにやら好奇心こうきしん旺盛おうせいでした。また、この場所を訪れるのでは?」

「もし出会ってしまっても、その時はうまくやるさ」

「そうですか……。ふふっ」

「なんだ?自らが仕える神の言うことが信じられないか?」

「まさか。ただ、楽しそうだな、と」

 その言葉にキッとするどいい視線を向けると、鹿は目をそらす。

「全く、少し面倒なことになったかもなぁ」

 そう言った青は、どこか楽しそうだった。

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不思議な子 きと @kito72

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