Song.13 増加
増えていくフォロワーに理解ができず混乱しているとき、今度は別のアプリによる通知が画面上部に現れる。それはshabetterではなく、個人間のトークアプリによるものだった。
iTubeから逃げるように、トークアプリに切り替える。そこには瑞樹からの新しいメッセージが来ていた。
『キョウちゃん! NoKがすごいことになってるよ!』
恭弥がNoKであることを瑞樹は知っている。曲を作りたいと最初に瑞樹に伝えていたからだ。
最初は全然注目されなかった恭弥の曲が、瑞樹のアドバイスを受けてshabetterで宣伝を行った影響もあって徐々に人気が上がっていった。それを一番傍で見て支えてくれていた瑞樹。
きっと音楽から離れている間に何が起きていたのか知らないだろうと、瑞樹は事細かに「すごいこと」について、返事を待つ間もなくメッセージを送って来る。
『NoKがテレビでさっき出てたの! 芸能人が好きだって。そうしたらshabetterで話題になって、どんどん広がって!』
『shabetterのアカウントもフォロワーいっぱい増えてたよ!』
『僕、びっくりしちゃった。でも、嬉しいな! いっぱい聞いてもらえてるんだもん』
次々に送られたメッセージを読んで、なんとなく経緯を理解した。フォロワーが増加した理由がわかれば、怖さは幾分か薄れる。
わざわざフォローしてくれる人に申し訳なさを抱きつつ、瑞樹からのメッセージを再度見直す。
このまま既読無視するわけにはいかないと、何か返事をしようとしたが、また、メッセージが送られてくる。
『有名になるのも嬉しいけどね、僕が一番嬉しいのは、キョウちゃんと一緒に音楽をやれることだよ』
その後すぐに『おやすみ』と送られてきた。
どう返したらいいか悩んだ末、既読の意を込めて『ああ』とだけ送ると、かわいらしいスタンプが返って来る。それを最後にやり取りは途絶える。
「はぁ……」
常人であれば、人気が出て嬉しいと思うだろう。だが、恭弥はそうとは思えない。
あくまでも今増えているフォロワーは、芸能人による影響が大きい。NoKが好きでフォローしているわけではないのだ。
(誰も俺を見てはいないんだから)
新しい曲をアップロードするわけでもないのに、他人による影響で増えていくフォロワー。そんな人たちによっていつの日か、『新曲も出さないダメな奴』というレッテルを貼られそうで、怖かった。
膝を抱えるように座り、顔をうずめてスマートフォンを手放した。
☆
月水金の週に三日、放課後は練習。他の日は何もなく、変わらぬ時間を過ごす中で、恭也は楽器店に向かっていた。
求めていたのは、最低限必要な消耗品であるピックやケア用品。
昔通っていた楽器店はやや遠いため、比較的近い鋼太郎のアルバイト先に来た。
今はもう、楽器店に抵抗はない。何食わぬ顔で店の扉を開けると、チリンチリンとベルが鳴る。楽器が多数並んで店の入り口が見えなくなってしまうので、人が入ったことを知らせるための音だ。
「いらっしゃいま……って、野崎か」
授業を終えてすぐに学校を出ていた鋼太郎は、真っ直ぐ楽器店に来てきたようで、すでにエプロンを着けて仕事をしていた。
やってきた恭弥の姿を見てすぐに近寄る。
平均以上の背がある恭弥よりも随分高い鋼太郎を見上げれと、何も言っていないのにも関わらず、奥を指さす。
「ベース本体はあっち。譜面ならこっちで、消耗品系はそっち。レジはそこ。用があれば呼んでくれ。片づけと掃除してるから」
そそくさと仕事へ戻っていく鋼太郎を見送り、恭弥は目的のものを探して歩く。
(お、エフェクター。いいやつありそうだけど、金もねぇしな……)
ずらりとショーケースに並んだエフェクターの数々。
すでにエフェクターボードに入れていくつも所持、使用しているが、それでも気になってしまい、買う気はなくても目が行ってしまう。
そもそもエフェクターは、なくても演奏は可能だ。だが、あれば音に変化をもたらすことができるので、目的に応じて必要なエフェクターは違う。
音を歪ませたり、奥行きを出させるためのものから、シンプルにチューニングできるものまであるのだ。後者はともかく、基本的にはどんな音にしたいのかを考えながら選ぶ必要がある。恭弥たちはまだバンドとしてどんな風にやりたいのかも何も決まってないので、どんな音にしようなど考えられない。
それでも見てしまうエフェクター。
端から端まで見たところで、次のコーナーへ向かう。
今度は弦を弾くピックが並ぶ場所へ。
ベースを弾く際、絶対必要というわけではないが、持っておきたいもの。
形、厚さ、素材。それによって弾きやすさや音に変化が出る。自分に合ったものを探さねばならない。また、使っていくうちに削れていったり、欠けてしまうので、サブとして持っておきたかった。
(無難にいくか、それとも新しいのを試してもいいかもしれない)
おにぎりのような形のトライアングル型と、ギター用としてポピュラーなティアドロップ型。珍しいものとして円状のものもある。ちょっと気になって、円状のもを手にとってみたが、持った感覚に違和感があってすぐに戻した。
ピックの厚さは様々だ。ソフト、ミディアム、ハードと厚くなっていく。弦の太いベースでは、薄いピックは弦に負けて、すぐに割れてしまったため、好んで使っていたハードをやめられない。
最後は素材だ。
メジャーなセルロイド、ナイロン、ウルテム。この素材で変化する音。どれにするかなかなか決まらない。
1つのピックの値段が100円ほどであるため、素材に悩んだ恭弥は、気になったものを全て買うことにした。
全部で5枚。それを握ったまま、また違う場所へ行く。
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