Track1 最悪が連なる日

Song.1 日常

 起きる。食べる。学校へ行く。帰ったら食べて寝る。毎日毎日、飽きるほどにそれを繰り返す、代わり映えのない世界。十六になって、生きるということはつまらないものだと、野崎恭弥は思った。


 それでも学生であり、自ら輪の外にでる度胸もない恭弥は、制服を着て誰もいない家に鍵をかけて学校へ向かう。


 まだ新学年を迎えたばかり。冷たい空気で顔を冷やしながら、使い古した自転車を漕いだ。

 元荒川に沿うように進むと、住宅街の中に羽宮高校の姿が見えてくる。ちょうど多くの生徒が登校する時刻であるため、学校へ向かい、電車通学の生徒たちがぞろぞろと歩いてきている。


 その生徒たちとはやって来る道が違い、恭弥は一人、正門のすぐ前にある横断歩道まで来たところで自転車を止める。渡ろうと思えば渡れたが、信号が点滅していたので止まった。


 車両用の信号が青になれば、車がスピードを出して走り去って行く。びゅんびゅん通り過ぎる車。それから目を逸らすように足元を見る。


 その時、耳を裂くようなクラクションが鳴り響き、心臓が大きな音を立てる。


「っ……!」


 嫌な汗をかきながら慌てて音のした方を確認すれば、細い路地へ右折しようとした車とそこで信号が変わるのを待っていた車が互いに譲りあうことができなかったようだった。


「はぁ……」


 結局信号待ちをしていた車が後退していくことで解決したらしい。右折した車は何事もなかったかのように、目的地へと向かって姿を消した。

 大事にならなくてよかったという安心以外に抱いていた感情を落ち着かせるために、深く息を吐いてから、ようやく青に変わった信号を渡った。


 ☆


 明るい朝の校舎内には、にぎやかな声であふれている。

 進級して間もない恭弥は、周りを見ることなく静かに自分の教室へ向かう。


「でさでさー――」


 階段を上がり、間もなく教室というところで、男子生徒二人がふざけ合いながら降りてきた。

 会話に夢中になっており、前を向いていない二人。恭弥も足元ばかり見ていたこともあって、肩がぶつかった。


 あやうく階段から落ちそうになったが、そこは何とかバランスを撮り直し回避し、小さく頭を下げる。相手がどんな顔をしていたのかなど、興味もなければ考えたくもない。

 二人組も何かを言うことなく、下の階へと向かったので、これ以上恭弥が何かをすることもない。


 教室には、あちこちで仲のいいグループで集まっては盛り上がる人たち。

 そのグループに目もくれず、まっすぐに席へ向かう。 

 新しい教室、新しい仲間たちと学び始めたその日に席替えを行っていたが、恭弥は運よく良い位置を得ていた。

 窓際の後ろから二番目。そこが恭弥の教室内で唯一滞在することが許された場所だと思っている。


 席に着けば、窓からはぞろぞろと楽しそうに登校してくる生徒が見える。

 それを見ていても、楽しくはない。人に興味がないのだ。


 それに、上から人を見ていると余計に自分がいかに小さな存在なのか思い知らされているようで、気分を害するだけだ。


 帰りたい。

 そんな思いを募らせながら、全てを拒絶するかのように机に伏せるのだった。

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