第63話 史上最強の盾と史上最大の飽和攻撃の戦い(2/2)
『西より敵超高速ミサイル群、来ます!!』
『南からもまもなく接近! 『リチャード・G・ルーガー』と『ジャック・H・ルーカス』の間をすり抜けてくる!』
「全ファランクスおよびRAMで迎撃! 甲板のM2も撃て! なんとしても落とせ! 飛行甲板の航空要員は直ちに退避!」
F-3戦闘機が危険を冒して近距離から発射した
しかし、それですら2030年代では旧式ミサイルだ。
米空母へ向けて突っ込んでくるのは、高いステルス性を持ち、最終ダイヴ中にマッハ4にも達する31式
しかも総数3000の脅威を必死で迎撃しているイージス・システムの処理能力は限界に達している。
(くそっ!!)
おそらく━━国家戦略人工知能システム『ハイ・ハヴ』の不調がなければ。
おそらく━━デコイとして発射された多数の砲弾や低速ミサイルに防空力をそがれていなければ。
(我々の
凌ぎきっていたであろうと━━戦後の米日合同調査レポートは記している。
『ミサイル、およそ3! 阻止できず! 突っ込んで来る!』
『うおおおおおおおおおおお! か、神様っ!』
「総員、着弾衝撃に備えろ! 原子炉緊急ダメージコントロールモード!!」
トール艦長の絶叫と共に排水量10万トンを超える巨体へずしり、という衝撃が伝わってきた。
なんだ「大したことないじゃないか」。それがほとんどの乗員の第一感触である。
だが、それは大和型戦艦が250kg爆弾をくらった時のようなものだ。
確かに圧倒的な巨体はミサイルの衝撃力によって、引き裂かれるほどではない。
しかし、命中したところに必ず損傷は出る。
そして、狭く高密度な軍用艦艇の中では、必ず誰か人が、死ぬ。
『ミサイルは艦首電磁カタパルトレールおよび、アングルドデッキの着艦ライン上に命中!』
『僚艦『ジョン・F・ケネディ』および『ジェファーソン・デイヴィス』も被弾しています!』
『『ウィリアム・シャレット』および上陸部隊直衛フリゲートより緊急入電! 「我に対空弾、残なし」です!』
『来るっ! まだ来る! 南から高速のミサイル群が接近中!! 30秒以内に到達します!』
「……負けた、な」
全方位から聞こえてくる被害報告と、絶望的な弾切れの報告を聞きながら、ぽつりとトール艦長は呟いた。
今更のように国家戦略人工知能システム『ハイ・ハヴ』がミサイル群の脅威を報告し、近接防御戦闘を推奨する。オペレーターの1人が怒りに震えながら、拳をコンソールへ叩きつけている。
『敵ミサイル、来ましたぁー!』
『ダメージコントロール、準備!』
再び押し寄せた衝撃は、やや大きいものだった。
それが原子力空母の最深部にある
(なに……この原子力空母が沈みはしない。連れて帰れる者もできるだけ救出するさ……だが、もはや上陸作戦は継続できない)
この時点で石狩湾上陸作戦・オペレーション『
電磁カタパルトと着艦ラインに損傷を負ったということは、空母の最重要機能である『発艦』と『着艦』に致命的な問題が発生したということである。
これは短期間に復旧できるものではない。
飛行場のコンクリートを緊急補修することとは、訳が違うのだ。
おそらく僚艦の原子力空母『ジョン・F・ケネディ』と核融合超空母『ジェファーソン・デイヴィス』も同じ状態だろう。
(上の連中には……朝鮮半島へ向かえという指令が出るだろうな……空中給油機が足りればいいが)
飛び立つカタパルトと、降り立つ着艦設備がない以上、小型無人機でもなければ、まったく戦力にならないのだ。
そして、その戦力たる航空機運用能力を失った空母は、敵にとってただのおいしすぎる目標でしかない。
(我々は直ちに撤退することになる……上陸部隊も肉薄した位置から危険なUターンを強いられる……なんということだ、最悪のシナリオQの発動だ……)
その戦いの終わりは一見あっけなく、外野から見れば戦果は乏しいものだった。
未来の素人は言う。米軍はきっと何かの陰謀があって、謎の反転をしたのだと。
将来の自称名参謀は言う。そのまま石狩湾へ突っ込んでいれば、戦力を使い果たした日本は降伏するしかなかったと。
(そんな奴らに何が分かるか!
我々は……我々アメリカはここで死力を尽くして戦った! そして、日本軍は絶妙の反撃を行った!
ただ、それだけだ。
そして、勝者と敗者が生まれただけなのだ!)
後に『小樽沖着上陸迎撃戦』と呼ばれる戦いの結果は以下である。
米国の損害。
核融合極超空母『ジェファーソン・デイヴィス』小破、原子力空母『エンタープライズ』、『ジョン・F・ケネディ』中破。
戦闘艦艇12隻損傷。イージス艦2、フリゲート3隻沈没。無人航空機21機撃墜。死傷者431名。
日本の損害。
戦車・自走砲・装甲車等145輌損傷。有人航空機72機撃墜。潜水艦3隻撃沈。死傷者1541名。
戦史に2度と無いであろう史上最強の盾と史上最大の飽和攻撃の戦いは、ここに終わった。
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