第57話 1500と3000の洗礼(2/3)
「迎撃に回せる対空ミサイルはざっと400発か……これでカンバンだ。
見ろ、初期型ペトリオットやホークまで混じってるぞ。どこにあったんだ」
『開戦直後にあらかた撃ち尽くしてしまったあと、全国からかき集めてきたのでしょう。
まるで足りませんな。100%の命中率だとしても数百発のトマホーク2030が迎撃網を突破する計算ですが……』
「最終迎撃で何発撃ち落とせるだろうか……」
重苦しい雰囲気の中、1500の巡航ミサイルと400の迎撃ミサイルの交戦が始まった。
これは拠点防空のために残っていた千歳基地の有人・無人戦闘機搭載ミサイル、そして地上の対空誘導弾、さらには各地へ分散配備された『おごうち』級護衛艦の残弾すべてである。
『戦闘機ミサイル発射完了。各機は以後、機銃による迎撃を━━あっ、空対空ミサイル接近! 戦闘機部隊、退避! 退避せよ! 無理をするな!』
『通常型トマホーク、全国各地に着弾! 航空基地および空港の滑走路、85%がダウンしました!』
『千歳基地および札幌広域に少なくとも600の
『全国の原子力発電所は緊急シャットダウンを実行! 基幹送電網、まもなくサスペンド!』
『呉および広島は連合艦隊による近距離防空によって、おおむね敵ミサイルを排除しました!』
『佐世保基地、多数の通常型トマホークを被弾! ドッグ施設に損害大!』
『北海道および本州全域で停電発生! レーダーサイトの65%がデータ途絶!』
「くそっ……」
それはどれほど強靱な精神力を兼ね備えた武人であっても、弱音を吐きたくなる報告であった。
札幌広域を主として、全国へ投下された
(世界有数の経済大国である我が国のインフラを……ただ1度の攻撃で停止させるとは!)
沖縄と四国をのぞくすべての地域で停電が発生した。
新幹線はもとより全国大都市の駅はJR・私鉄の区別無く、ポイントと信号施設に多数の攻撃を受け、一切の機能を停止した。
原子力発電所は送電設備に損傷を受け、たとえ全力を運転を続けていたとしてもまったく電力が送れない状況に陥った。
火力発電所は廃熱と吸気設備をピンポイントで攻撃され、蒸気タービンが無事でも運転を継続できない状態に叩き落とされた。
コンクリートで覆われた水力発電ダムですら例外ではない。人里離れた山深い場所の送電塔が選別して狙われた。せいぜい被害を免れたのは、たかが知れた容量の風力発電と基幹送電網なしでは無意味な太陽光発電施設であった。
テレビ・ラジオ中継用の無線塔も当然狙われた。
コンピューターネットワーク・エクスチェンジですらも、外部から電力制御施設が攻撃可能なものは大型タイプの
各地のレーダーや通信アンテナは近接防御に成功したケース以外は全滅した。
高速道路網ですら例外ではない。橋梁の保安設備や吊り橋がワイヤーが攻撃され、トンネルの排気ファンは天井から落下して道を塞いだ。各地の高規格道路は無数の落下物によって機能が麻痺した。
『敵ミサイルおよび
『自衛隊統合ネットワークは何とか持ちこたえていますが、千歳基地とは連絡がとれません!』
『各基地の部隊は独力で戦闘を継続中! 民間のネットワーク網が壊滅したため、無線通信は非常通信管制へ移行! 敵ジャミングが強い! 統制レベル4! 必要な通信以外は極力避けよ! 帯域が足りない!』
『軌道上の情報収集衛星、通信リンクが不安定になっています! なんらかの妨害あるいは攻撃を受けている模様!』
爆撃の大編隊が都市で爆弾をばらまいたわけでもなく、大陸間弾道弾が核の業火を降らせたわけでもなく、もちろん特殊部隊が侵入して暴れ回ったわけでもなく、さらには戦艦が主砲を撃ちまくったわけでもなかった。
それでも日本国はこの一瞬で、たとえ恒久的ではないにしてもすべての国家的インフラがシャットダウン状態に追い込まれていた。
(化け物め……)
市ヶ谷の地下奥深くにいながら、荒泉1佐はわずか10分ほどで祖国を襲った惨劇に戦慄せずにはいられなかった。
(日本のインフラはあらゆる場所で震度7の大地震と巨大台風に耐えられるように作られているんだぞ!!)
そんな世界最強といってもいいであろう対災害性と冗長性を誇った日本国のインフラを、一瞬で機能停止させる
確かに直接的な人的損害は少ないだろう。おそらくもっともスマートで、そして人道的な戦い方ではあるのだろう。
ただ直すだけであれば、1ヶ月や数週間で直せる損傷も多いのだろう。
(だが、その時にはもう遅い!)
技術者が破壊された設備を修復する時には、この戦いの勝敗が決しているのだ。
戦争に勝つための時間稼ぎ。敵に『もう戦えない』と言わせるためのタイムラグを、絶望的な規模で押しつける兵器。
それこそが
これに比べれば、通常型トマホークによる損害などかわいいものだった。
それは100年前から変わらない分かりやすい目標を狙っていた。すなわち空港の滑走路であり、港湾だった。自衛隊基地のタンクや弾薬庫であり、さらには各地へ展開する護衛艦そのものだった。
こうした攻撃への対処はシンプルだ。
ただ単に耐え、あるいは直すだけだ。世界中の軍事組織がその方法を知っている。
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