第27話 狂ったような罪深いトークのドリルぐるぐるピンク髪ハートマーク瞳のおっぱいでけえ絶対領域装備のガーターベルト装備エロメイド服
━━2035年12月10日午後9時00分(
<イヤッホォォォォォォォー♪ みんな今夜もこんばん大躍進! スーパー美少女次期総書記・
『なんだなんだ、やかましいな……おい、
「知らないのか、
共に20代。電子工学系大学を出たあとに、台湾の『国業』とも言える電子部品メーカーへ入社した。
現在は日々、工場のライン仕事を経験しつつも将来は一部門を任されるマネージャーとして、あるいは部材の輸出入を取り仕切る管理者として昇進していくであろう、いわゆる将来の幹部候補である。
<えー、本日のお題はこれ!
じゃん! なぁぁぁぁにゆえ、わたし達のラブリー☆な祖国中国は分裂の憂き目にあい、今もなお7つに分かれているのか!
全部、米帝の仕業! はい、終了! え、真面目にやれ? わたしはいつでも誰より真面目だよ! ぶっ殺すぞー!!>
『……なんだこの狂ったような罪深いトークのドリルぐるぐるピンク髪ハートマーク瞳のおっぱいでけえ絶対領域装備のガーターベルト装備エロメイド服の女は』
「知ってんじゃねーか」
『ドリル~からのあだ名だけだよ。実際の配信見たのは初めてだ。
で、こいつがアンダーグラウンドで話題の━━次期総書記サマか?』
珍妙なイントネーションとスラングを交えつつ早口で放たれる日本語を、当然のように2人の台湾人は理解していた。
それもそのはずである。
物心ついた時には鬼の首へ刀のオモチャを振るい、長じてはとっくに完結済みの巨人と戦うアニメにはまり、親の顔を見る時間よりも動画配信サイトで声優動画を見ている時間の方が長く、アイドルと言えばかつてバーチャルYoutuberと呼ばれた存在たちであり、夏と冬には毎年必ず東京お台場へ詣でているという筋金入りの
<というわけで、補佐官諸君! まずは統一時代の中国が世界を制覇するくらいの勢いだったってことを知ってほしいねっ!
ねっ! ねっ! でもね! 新型コロナウイルスとかいろいろあった後にさー、ほかの貧乏でヘボい国々が嫉妬して中国を国際金融システムから締め出しちゃったの! くすん! 許せねえ! この恨み、100年かけて晴らす!>
『歴史系のVバーにしちゃあ……妙にピンポイントなネタついてきてんのな、このバカ女』
「俺の
『そこに反応するのかよ』
「せめてアホと言ってくれ。バカとアホはぜんぜん違う。」
『わかったわかった、おっぱいのでかいアホ女な。
はー、この女はフォロワーを補佐官とか呼んでるのか。
んで、自分が次期総書記だって? 総書記なんて北京じゃ例の核攻撃以来、ずっと空席じゃないか。一体どういうニッチ需要狙いなんだ?』
室内用の飾り気のないメガネをかけた細身の青年、
古来より『Vバー』が語る歴史というものは、話にもならないほど低レベルで歪んでいるか、「お前の中身はただの専門家だろう」という値段を付けて売れるほどの超絶クオリティか━━その二択なのだ。
<時は2029年国慶節! そう6年前だね! あ、国慶節っていうのは建国記念日ね! 10月1日だよ! 東京都民の日だね!
ちなみに私、神奈川県町田市民のたけのこ派!
その日に盧溝橋で『終身総書記式典』が行われたんだけど、やっばいテロがあったわけ! どのくらいかっていうと、コロニーが落ちるくらい! あと、女の子アイドルゲーに3人だけ男が参戦してきたくらい! こりゃ参列者みんな死ぬわ!!>
『陰謀論マシマシかと思いきや意外に正確だけど、目指してることは狂ってる……こいつ、どこがバックなんだ』
「知らん。少なくとも日本じゃないことは確かだろうな。香港独立派あたりか? まあ、可愛いから俺は気にしない。早くひかりさんに同人誌描いてほしい」
『VバーNTRとか露出本ばっか出してるサークルの何がいいか俺は分からん』
中国語━━否、2023年に独立を果たして以降は『台湾語』と呼ばれる言葉で2人の青年が会話しながら、日本語の配信を聞く。
彼らは英語の本も読むし、少し古めのK-POPも聞く。古典としては香港映画も見るし、大陸中国のゲームをプレイしていたこともある。
まさに台湾という島国の立地に相応しい、極東のあらゆる文化が煮詰まったシェアルームが、
<ずーっと不景気で鬱憤がたまってた人民たちは爆発! 奮発! 大混乱!
見る見るうちに全国に広がる暴動とテロ! そして地方政府独立の嵐ィィィィィィィィィィィィィィィ!!
ほんの数ヶ月で軍事衝突になって、各地方が核ミサイルを撃ち合う状態になったんだよねー!
で、
『設定重っ! なんなんだこのアホ女! いきなりどういうんだ!』
「話題的に超えちゃいけないラインを平然と超えてくるだろ? そこが魅力」
『いやいや、キャラ設定としてもドン引きするんだが?』
「それがどうも『中の人』の実話じゃないかって観測もあってさ」
『……ますます頭がおかしいだろ』
2029年から突如として始まった大陸中国の内戦は、全世界に衝撃を与えた。
確かに中華人民共和国は人類史にも類例のないスピードで、紛れもない大国へと駆け上った。それは確実に歴史書で特筆されるべきことだった。
だが中華王朝には一定パターンがある。
「三盛中二残衰亡」
『偽中国語じゃねえか』
「大陸王朝は最初の三代が最盛期で、中興の祖が二代出るが、残りは衰亡への道をたどるだけ」
『まあ、確かに周も漢も唐もそんな感じだよな』
大陸統一中華王朝の絶頂期とは、意外にも短いのだ。
従って、類例のないスピードで発展した『中華人民共和国』という大陸統一王朝があるとするならば、その絶頂期もまた同じスピードで過ぎ去ってしまうのではないか━━それは実に2000ゼロ年代から囁かれていたことである。
「実際、あの国は昇るところまで昇り詰めたはいいが、新型コロナの件でやらかしにやらかしまくって世界の敵認定されたあと、あっという間に傾き始めて……ほいで分裂して内戦が始まったからな」
『まあ、
「言うて他に人材もおらんし」
『俺らみたいに選挙で退場させられる国でもない。なるなる。ああなるしかない』
昇るところまで昇り詰めたら、一気に傾く。これもまた中国大陸の歴史にいくらでもあるパターンだ。
さらに2035年現在、中国大陸には7つの国家が割拠しているが、歴史の例にならえば数十年、あるいは数百年程度で統一へと向かうことになるだろう。
「統一中国が超スピードで登り詰めて、神速でぶっ壊れたとすれば、次の統一も意外に早いかもしれないってわけさ」
『まあ、数年とか十数年ってところか。
そこで遠くないうちに来る再統一をにらんで次期総書記を狙ってるって設定で活動してるのが━━』
「俺の嫁、
『このおっぱいでかいアホ女』
あるいは大陸中国の歴史と栄枯盛衰を知るすべての者にとっても。
『……やっぱわからん。どういう需要だ。一体何者なんだ、こいつ?』
「さあ……わかんねえ」
この『Vバー』は実に興味深く謎めいて、しかしどこか狂った存在なのであった。
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