第28話 入部決定!
「唯人、あのさ熊って……」
「出るはずないだろ?」
少しだけおびえた表情の麗華はずっと俺の袖を握っている。
「こんなところに熊が出たらそれこそ問題だよね」
当たり前だ。こんなところに出るはずがない。
「早く入ろうぜ」
「だな、でも部活するのにこんなボロボロの建物なのか? 麗華さんにはふさわしくないな」
「別にいいだろ? 見た目よりも中身が大切!」
俺はそう言い切ると颯爽と中に入っていく。うす暗い廊下、外とは違って少しだけひんやりしている。
「失礼しまーす!」
さっきまでいた部室に戻ってきた。廊下とは違い少し明るくなった部室。
そして窓からはいる風が涼しく感じた。
「おかえり。みんな一年生?」
「はい! 全員一年です!」
「そ……。それで、みんな入部してくれるのかしら?」
先輩は少し不安そうな目で俺を見てくる。
麗華は先輩に聞こえないように俺に耳打ちする。
「この人先輩?」
「あぁ、二先生だって言ってた」
「ふーん……。小さくて、かわいらしい先輩だね。よかったね」
麗華の声が急に冷たくなった。ついでに目が怖い。なんでだ?
「今部長と先輩の二人なんだってさ。だから俺たちの力が必要なんだ」
「唯人さ、入部するの?」
「さっき入部届書いた」
「私も入る」
先輩からの話も聞かずに即答。
いつも色々言ってくるけど麗華はいいやつだ。こんな時でも協力してくれる。
「先輩、私も入部しますね」
「いいの? あなたみたいな子はもっとほかの部の方が──」
「いいんです!」
麗華はなぜか怒っている。
「麗華、入部するんだろ? 初対面で先輩と喧嘩するなよ?」
喧嘩良くない。
「あんたに言われたくないわよ! 唯人は入学初日に何したか覚えてないの!」
「あー、そうですね」
「麗華さんはここに決めるんですね! じゃ、俺も入ります!」
「みんな入るの? だったら僕もここでいいかな……。運動部じゃないし」
先輩の話も聞かず、全員入部となりました。目標達成。
それぞれ入部届を書き、全員写真部となりました!
「では、改めて自己紹介ね。私は写真部の二年で副部長している森宮弥生(もりみややよい)。よろしくね、じゃあ名前と好きなこととか何か一言も合わせて順番に言っていって」
先輩からご指名をいただき自己紹介をしていく。
「一ノ瀬唯人(いちのせゆいと)、一年C組、好きなことは……、写真を撮ることです!」
「唯人、そんな趣味あたっけ?」
「あ、あぁ、あるある。めっちゃあるよ。写真大好きだし……」
嘘じゃないよ? ほんとだよ? だからその疑いの眼差しやめてもらえますか?
「牧野麗華(まきのれいか)、一年A組。好きというか、唯人と圭介の面倒をよく見ています」
「なんだよそれ」
「麗華ちゃん、僕も面倒見てもらってるの?」
「だってそうでしょ? あんた達二人とも私がいないとだめじゃん。はぁー、こんな役なんで……」
「別に頼んでないし。やめてもいいぞ?」
「僕も別に──」
麗華は血相を変えて声を上げる。
「あのね、あんた達を見放して成績悪くなったら小学校のみんながここに入りにくくなるでしょ? だったらもっとしっかりしてほしいわ……。圭介はともかく、唯人!」
「は、はいっ!」
「あんた初日の事忘れてないでしょうね!」
先輩は少しあきれ顔になっている。
「ふふっ、三人とも仲がいいのね。君は?」
「秋本圭介(あきもとけいすけ)、一年B組。好きなことはオヤツつくりですかね?」
「え? 圭介そんなことしてるのか?」
「そうだよ。家でたまにするくらいだけどね。今度クッキーでも持ってくる?」
「おぉ、意外な趣味だな。知らなかったぞ」
「最近始めたばかりだけどね」
「秋本君、なんとなく女子力高そうね。これからよろしくね。じゃぁ──」
──ガタッ
槇原は席を立ち胸を張っている。
「大トリはわたくし、槇原俊平(まきはらしゅんぺい)です! 一年C組、好きなのは──」
槇原の視線が麗華に向けられた。あ、この流れは……。
「好きなのは、ここにいる麗──」
「はい! 自己紹介終わりね! 先輩これからよろしくお願いします!」
麗華が槇原の自己紹介を見事にぶった切った。
「あ、え、麗華さん……」
「槇原君、自己紹介ありがとう。終わりでいいわよね?」
麗華の目が怖いっす。
「うん……」
「麗華ちゃん、落ち着いて……」
「私? 落ち着いてるわよ? 圭介はそんな顔してどうしたの? おなか痛い?」
「痛くないよ……。はぁ、相変わらずだね」
「そ、相変わらずよ」
肩を落とした槇原はおとなしく席に座る。いい感じで切られたね、お疲れ様。
「はい、自己紹介終わりね。ありがとうございました」
「これからどうするんですか?」
「そうね、今週は自由参加でいいわよ。こっちも何も準備していなかったし」
「わかりました。ところで部長は?」
「さぁ? カメラぶら下げてどこかにいるんじゃないかな?」
まだ部長にも会っていない。でも、特に問題はないか。
「わかりました! みんなこれからどうする?」
「私は特に予定はないけど?」
「僕もないね」
「俺はいつでも麗華さんの隣に!」
「じゃ、自由行動だな。俺は帰るよ、じゃ、また明日」
俺はバッグを手に持ち換える準備をして帰路に就く。結局初日ということもあり、みんな帰ることになった。
帰りの電車の中、話題は部活の事だ。
「圭介さ、本当に写真部でよかったのか?」
「んー、特にやりたいこともなかったし、何でもいいかな?」
「圭介ってホント、いつでもぼんやりしてるわよね」
「そう? でも、毎日気を張っていたら疲れちゃうしさ」
「ぷぷ、そうそう。麗華みたいに毎日怒ってたら疲れ──」
──ゴフッ
わき腹に痛みが走る。な、なんだ? どこから攻撃された?
「れ、麗華……」
「何言ってるのかな? 唯人君、誰のせいで怒っているのかわからないのかな?」
優しい言葉とは裏腹に、そのこぶしには力が溜められている。
「そのこぶしを下げろ。なんで攻撃するんだよ!」
「口で言ってもわからないからでしょ!」
「口で言えばいいだろ」
「言ってるわよ、いつも……」
こぶしを下げた麗華はつんとした態度で外を眺め始めた。
「まったく、いじめだよこれは」
「まぁまぁ……」
こうして俺たちの中学生活はスタートした。
その日の夜、久々に手紙を書く。英語はまだうまくない。でも、がんばって英語で書くんだ。
『ソフィーへ 新しい学校はどう? 俺は写真部に入った。ソフィーのきれいな写真を撮る。練習しておくよ!』
封筒に入れ、明日の便で送る。届くのはいつになるのだろうか……。
※ ※ ※
「ソフィー、唯人君から手紙が届いたわよー」
「唯人から!」
私は走ってお母さんの所に行き、唯人からの手紙を受け取った。
いつもと同じ便箋。きっと、手紙には簡単な英語が書いてくれているにちがいない。
今回はなんて書いてあるんだろう、たまに文字が違ったり文法が違っているけど、意味は伝わる。
私の日本語で書いた手紙も、ちゃんと伝わっているのかな……。
早速中を開けて読み始めた。
『ソフィーへ 新しい学校は好き? 俺は写真部だ。きれいなソフィーの写真を撮る。練習する!』
きれいなソフィーの写真を撮る。そう書いてあった。多分、そうだよね?
私はその文を見て、心拍数が高くなるのを感じた。唯人、また唯人の声が聞きたい。
「お父さん! 日本に仕事で行かないの!」
「しばらく行く予定はないかな。日本に行きたいのか?」
私は即答する。
「行きたい」
私の戦いが始まった。唯人に会いに行く。待っててもいいかと思ったけど、私は待てない。
こうしている間にもきっと唯人は麗華ちゃんと同じ時間を過ごしている。
離れたくない。ずっと心はつながっていると思ったけど、会わなかったらきっと離れてしまう。
待ってて唯人。絶対にまた会いに行くから!
隣に引っ越してきたのは銀髪の女の子でした ~ひと夏の思い出から始まる恋物語~ 紅狐(べにきつね) @Deep_redfox
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