第14話 ケイトと勇者シルバー 1
おはようございます。
ケイトです。
朝…目が覚めると、私はなるべく枕元を見ない様に起き上がります。
何故なら枕元にはたいてい、シルバーのお土産があるからです。
頻繁に持って来てくれるので、つい適当に褒めていたら、2日程帰って来ず3日目の朝、胸が苦しくて起きてみるとシルバーが呑気に寝ていました。
苦しいので何とか退いて貰おうとして、気が付きました。
私の枕元に何か灰色の大型犬程の物体がある事に……
いったいどうやって部屋に運び込んだのでしょうか?
なるべくそちらを見ない様にしながら、シルバーを抱き上げて起き上がり、そっとベッドから離れました。
おそらく、この2日の間に狩って来た獲物でしょう。
私は、アレを知っています。
この間、【身近にいる危険な生物(魔物含む)】という授業で習いましたもの……
アレは下水道等にいる、【ドーブラット】という魔獣です。
授業で習ったのより随分大きい気がするのですが、ボスネズミでしょうか?
シルバーの気持ちは解りますが、流石にアレは無理です。
何時もなら、ミリアが起こしに来るまで、ベッドから出ないのですが、今日は私が彼女を起こし、事前にアレの存在を知らせなけばなりません。
そうしないと、彼女は確実に悲鳴をあげ、騒ぎを聞き付けて来た人達に、シルバーが見つかってしまうかもしれませんし……
ところで、アレの始末はどうしましょう?
******************
(アーク視点)
おはようございます。
アークです。
俺は早朝からお嬢様に『急いで部屋に来る様に!』と呼び出された。
部屋に着いてみると、何時も気丈なミリアが真っ青な顔で扉を開けてくれた。
凄く嫌な予感がする。
応接間には、相棒を抱いたお嬢様がいた。
「早朝から呼び出してごめんなさい。
実は今朝、この子がお土産を持って来てくれたのだけど……。
大き過ぎて困ってるの。
片付けてくれるかしら?」
猫のお土産かよ……
まぁ、女子供に片付けさせるのは可哀想だからな。
どうせ、ネズミか鳥だろう。
と、思ってお嬢様の寝室の扉を開けた途端、俺はそっと閉め直した。
アレ……【キングノーネズミ】の幼体じゃね?
1匹で数万匹の【ノーネズミ】を操り、食える物なら何でも喰いつくし、国さえ滅ぼすSランク魔獣。
まさか、アレを猫が獲って来たのか?
て言うか、アレが猫の足で往復2日の所に居たなんて、重大案件だよ!
お嬢様は内緒にして欲しそうだが無理だからな!
直ぐ旦那様に報告だ!
******************
(侯爵視点)
こうしてユイナーダ王国の危機は、1匹の猫によって防がれた。
この出来事は私から国王に報告し、侯爵家にキングノーネズミ討伐の褒賞
シルバーは王国から表彰され男爵位を貰う事に。
そう言えば『猫に金貨』とかいうことわざがあったな……
王国からの公式発表では……
『勇者シルバーによって、キングノーネズミが倒され、王国の危機は未然に防がれた。
よって、かの者に褒賞金白金貨10枚と男爵位を与えるものなり。』
表彰式は辞退した。
まさか猫を表彰式に出す訳にはいかないだろう。
だがそれが原因で【勇者シルバー】の名が一人歩きする事になるとは……
曰く『勇者シルバーは筋骨隆々の大男らしい』
曰く『勇者シルバーは銀髪の美青年らしい』
曰く『勇者シルバーは高位貴族の庶子らしい』
全部違っているけどな……
勇者シルバーはウチの娘の飼い猫だ。
それにしても、私の娘達はどうしてこうも次々と騒動を起こすのだ。
いったい誰に似たのだろうか?
あゝ胃が痛い……
―――――――――――――――――
※1
この世界の貨幣価値
白金貨 1枚1億円相当
大金貨 1枚1000万円相当
金貨 1枚100万円相当
大銀貨 1枚10万円相当
銀貨 1枚1万円相当
大銅貨 1枚1,000円相当
銅貨 1枚100円相当
石貨 1枚10円相当
なのでシルバーが貰った褒賞金白金貨10枚は、
10億円相当になります。
だが『猫に小判』ならぬ『猫に金貨』で意味がない。
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