そしてフラグを建てがち
これから僕は彼女の彩葉に別れを告げに征く。
今日までの約一年間、秒数にして31536000秒
この日々を一緒に歩んで来た彼女。
夏祭りではしゃぎ回って足を挫いた君
プールで泳げず僕にずっとついて回った君
文化祭で一緒に露店を回った君
合宿で男部屋に侵入して来た君
一緒に歳を越そうとして寝てしまった君
初詣で迷子になって泣きそうになった君
お花見の時に間違って飲酒して酔い潰れた君
体育祭で実行委員長をやったかっこいい君
恋人解消へのタイムリミットが刻一刻と迫る中、写真盾に閉じ込めた写真を見ながら過去を振り返る。
「......よしっ、そろそろ行くか。」
時刻は午後5:30をまわった。昼間は外を魍魎跋扈していた陽炎は身を潜め始め、哀愁漂わせる夕焼けを背に、学校への千里の道を行こうと、一階へ。途中妹とすれ違う際に尋ねる。
「あの時、桔梗となんか喋ったか?」
さっきの回想中にもバックグラウンド再生されていた昼の光景。翡翠と桔梗が、時々ボソボソと話す姿。予定調和だとでも言わんばかりに、
「お兄ちゃんの悪口だよ。」
とまるでNPCの様に無感情で答える妹。ハイライトの薄れた其の瞳は、見続けると吸い込まれてしまいそうで、思わずたじろぐ。
「いっ、いや、何でも無いんだ。そう、何でも......」
不可解な焦燥感に駆られながら外へ出る。夜の帳が今か今かと待ち構える空は、とても幻想的で渦巻いた心をリセットしてくれる様な気がした。チャリキーを指に掛け回す。
チャリキーを鍵穴に入れ回す。
カチッ
軽快な音を鳴らして動く錠は、今までまともに動いて来なかった僕を嘲笑う様な気がした。サドルに颯爽と跨りペダルに足をかける。神隠しに遭った月が帰って来る前に僕は
ガタンッ
ギアが外れた様な音を出す自転車、よく見ると見事に裂けたベルト。
「くっそ! もう間に合わないぞ!」
自転車を蹴飛ばす。
ガタンッ ジジジジ......
空転する音が暗闇を呼び込む。焦りに押し倒されそうになった僕は走る事にした。運動は苦手な癖に。短絡化した僕の脳みそは、妹も自転車を持っている事すら忘れ、現実逃避の為に脳内麻薬を走って生産する事を選んだらしかった。
ひたすらに、無我夢中に走る。
日が暮れても夏のじめっとした空間は僕を逃がす事無く纏わりつく。僕は鬱屈とした気分諸共振り払おうと。日は沈むより何倍も早く走った様な気がした。既に現実逃避を始めた脳みそは忘れていたのだ。
人の走るスピードは高が知れていると。
学校に着いた。
肩は生命の息吹を感じる程荒く呼吸をし、汗が滴り落ちる僕は、当初の目的である『別れをを告げ無ければならない』と言う現実にぶち当たってしまう。
何故だかは僕にも分からない。
ただ何も考えずがむしゃらに走ったからだろうか。幾ら釣り合わなくても、幾ら愛が重くて潰れそうでも幾ら彼女の存在に貶めれている様に錯覚しても、
僕は彼女のことが、彩葉のことが
好きなんだと。
幼馴染は不遇職! 紀ノ光 @kinohikaru
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