第3話 嫌です
「嫌です」
あまりにも唐突過ぎて思った言葉がそのまま口を突いて出る……。入ったことのない部屋の中で私は何故かその瞬間ありのままを一瞬晒した。
全く予想外の話の流れが来たから……。まだ入学したばかりの高校でいきなりトラブルを起こしてしまったと思ったら、今度は強引な部活勧誘。しかもその部活が全く眼中になかったeスポーツ部だなんて。
「即答なんて中々度胸あるじゃない。嫌なんて本気で言ってるの?」
「いや、いきなりすぎて何が何だか。私がeスポーツ部に入部?」
「そう。そうすればあんたが払わなきゃいけない15万円を私が何とかしてあげる」
胸に手を当てて得意げな態度を取る女はまた笑みを見せる。
「で、でも私ゲームとか全くやらないですよ……」
「いいよ。とりあえず人数が欲しいだけだし」
「他に入りたい部活もありますし……」
「じゃあそっちはやめて。最悪兼部でも良いけど……ま、とにかくそんな話じゃないの。あんたが悪いんだからあんたに選択肢はない」
急な話に状況を忘れて普通に勧誘への対応をした私は、顔の真ん前で指を差される。
何この状況……。とりあえず、こんなよく分からない部活には絶対に入りたくない。
もう1度、誠心誠意謝るしかないか――それともいっそここから走って逃げてしまおうか――。私は迷った。
いや、ここでやっぱり強気に言い返してみるか――。何で私がいちゃもんみたいなものでこんなにおどおどしなければならないのか――。
私はそこまで考えると周りを確認する。
部屋の中に人はいる。奥に数人がデスクの前で座っている。いるんだったら脅されている後輩を助けてほしいんだけど、全員ずっとパソコンの画面を見ているし頭にはヘッドホンを付けている。
でも、それって好都合だ。私が大声を出しても誰も気づかないかもしれない。この女とのタイマン勝負になる――。
「嫌ですっ!!」
決めた私は躊躇なく名一杯気持ちを乗せて発する――。
その声は私の想像以上に部屋の中で反響した。その大きさで私自信の肩が竦まってしまうほど。
目の前の女を驚かせるのはどうやら成功した。さっきまでの余裕の顔がすぐに驚きへと変わった。
けれど、そっと横を見ると……目の前の女以外の人も皆肩が飛び出してしまったかのように上げて驚き、何事かという目を私に向けていた。
「いや……あの、すみません。その……だから、嫌なんですよ」
一転攻勢したのはいいものの私の攻めのターンは一瞬で終わる。
集まる視線の勢いが凄いし痛い。女だってやる時にはやらなければと決意して大声を出してみたけれど、私はこんなことをしたのは初めてだし全く上手な怒り方なんて知らないんだ。
「何それ。あんた面白いわね」
目の前の女が大声で笑う。その笑い声の中で私の頬がどんどん熱くなっていった。熱は顔全体に達して何も考えられなくなってくる。
「ちょっと何してんの。誰だか知らないけどいじめるのは良くない」
その時、部屋の奥からまた1人の先輩らしき背が高い女が私の前に歩いてきた。
恥ずかしさで脳の容量が少ない私はその背が高い女を見ると……。
「綺麗な人だ」それだけで頭がいっぱいになった。
島暮らしの女子高生がeスポーツ部に無理やり入部させられたんだけど、なんやかんやあって魅力に気付いたのでプロゲーマー目指しだしたそうです。 木岡(もくおか) @mokuoka
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