第2話 それで修理代15万円ちゃらにしてあげるから
不本意な田舎の島への引っ越しに絶望していた私は――せめて学校生活は素敵なものにしようと張り切って部活の見学をしていたのだけれど――入学早々厄介なトラブルを起こしてしまった――。
「うわっ。す、すみません!」
周りと同じように固まっていた私の脳にまずいことをしてしまったという伝達がようやく届いて、私は慌てて頭を下げる。
頭を下げた視点で落ちた機械を近くで見ると部品がいくつか欠けていた。それを見ると、たちまちリラックスしていた体から熱が噴き出して、私は自分のスカートを強く握った。
「……うーん。残念だけどこりゃ弁償だね」
その言葉を聞いて頭を上げると、口元を緩ませる女の姿が目に映る。私と同じ制服を着たこの高校の生徒であるらしい女だ。
「え……そんな……」
「私たちの部活の大事な備品があなたの不注意で壊れちゃったんだもの。あなたにその分のお金を払ってもらわなきゃ」
「でも私……」
「ごめんなさいね。私も心苦しいんだけど、ざっと修理費15万円」
近づいて手を差し出してくる女。その女には動揺している様子が全く無くて、容赦もなかった。
「じゅ……15万円……?」
そんな大金を学生の私が今持っている訳ない。どうすればいいか分からなくて返す言葉も出ない。
大体この女は一体何なのか。同じ制服を着ているのに校則違反であるはずの髪染めをしている。茶色がかった髪に田舎の高校では珍しいギャル風の佇まい。雰囲気的におそらく先輩ではあると思うけど。
私も前を見てなかった。でも、ぶつかったということは相手も不注意か何かで避けれなかったということ。それなのに一方的に修理費要求なんてこれじゃまるで当たり屋だ……。ずっと軽い口調のままだし……。
「なーんてウソウソ。からかっただけだよ」
何を言い返すべきか悩んでいたけれど、差し出した手をそのまま振りながら女は急に態度を変えた。
「え。あ、そうなんですか」
「うん。驚いたでしょ。あんた1年生?」
「は、はい」
「何組?」
「1組です」
「名前は?どこ住み?」
「えっと
私は自分の名前と一緒に自分が今住んでいる場所を嫌々口に出す。どうど島というのはたぶん正式名じゃなくて通称なのだけど、私はそれしか覚えていない。住みたくもない島の難しい漢字と読み方を覚えるのも嫌だった。
詳しい住所はまだ友達にも言ってないことだ。
「ふーん。なるほどなるほど」
「あの、これ何の質問なんでしょうか……?」
「ちょっとついて来て」
「……はい」
私の質問には答えず、壊れた機械を拾い上げて近くの部屋に入っていく女に私は素直に従った。からかってただけとは言われたものの機械を壊した件については何も解決してないからだ。
「どうぞ。遠慮せず入って」
「お、お邪魔します」
女の後をついて部屋に入ると、見たことが無い光景に私は目を細める。向かい合わせで並べられたデスクの上にそれぞれ置かれたメタリックなパソコン。モニターには銃を持った軍人の姿があった。
聞かなくてもここがeスポーツ部の部室だということはすぐに分かる。
「あ、お友達はちょっと外で待ってて。それか先に行ってていいよ」
「え、ちょっと」
強引に扉を閉めて、私に何もさせず閉じ込める女。
「それでえーっと。1年1組とらい ななさんだよね」
「はい……」
「漢字は?」
「戸籍のこでとです。らいは来る。ななは――」
「はいはい。へー。これでななって読むんだ……」
私の不安はお構いなしで近くにあった机で何かの紙に何かを記入していく女。まさか、からかったというのも嘘でやっぱり修理代を請求してとかなのか。
「じゃあこれ。この紙に保護者の名前と印鑑押して明日ここに持ってきて。それで修理代15万円ちゃらにしてあげるから」
渡された紙には1番上に「入部届」という文字。そこには私の氏名と――入部を希望する部活にeスポーツ部という記入があった。
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