島暮らしの女子高生がeスポーツ部に無理やり入部させられたんだけど、なんやかんやあって魅力に気付いたのでプロゲーマー目指しだしたそうです。
木岡(もくおか)
第1話 私の人生これからどうなるんだよ……
海が空からの光をめいっぱいに反射して輝いている――。その光の道を通って吹き抜ける風が私のポニーテールを踊るようになびかせる――。朝の海がこんなに眩しいことをどのくらいの人が知っているだろうか――。
吸い込む空気はまるで自然をそのまま溶かしたくらいに純度100%。口を通るたびにその清らかさに驚く。アロマセラピーでマイナスイオン味、海とは反対側の景色と同じようにオールグリーン……それはちょっと意味が違ったか……。
春から高校1年生の私は今日も朝から通学路を進んでいた。自転車に跨ってアスファルトの道を行く。ハンドルを強く握って、右と左の足をしっかり踏み込みペダルを回して。
進む道には私以外の人影は無かった。隣にも後ろにも誰もいない。あるのは、とにかく自然だけ。右も左も自然に次ぐ自然。何故ならここが田舎の海に浮かぶ小さな島だから。
私がこの島に引っ越してきてから1カ月が経つ。きっかけは親の転勤。お父さんが近くの会社に勤めることになったから家族の私も一緒にこの島へ来た。本当は住む家はこの島のものでなくても良かったのだけれど、どうせ田舎に引っ越すのならいっそ本州から離れたド田舎の島に住むことになった。ちなみにそれは私以外の家族が決めたことである……。
そう。私以外の家族がそう言ったから私の意見は通らなかったのだ。
私はこんな島に引っ越してくるなんて絶対に嫌だったのだ――。
「ああ。今日も最悪っ」
誰もいないことをいいことに私はそこそこの声量で独り言を声に出す。セットした髪を崩す風が鬱陶しいし、進む道のアスファルトが荒くて自転車は電車のような音を出しているし、いくら抑えてもハンドルへの振動が凄い。
本当に最悪の気分である。前方に見えてきた長い橋をこれからもっと強い風を受けながら渡らないといけないと思うともう下唇がむっと持ち上がる。
何でこんな島に住むことになってしまったのか。考える度に腹が立ってきてしまう。
自然が多くて空気が綺麗なのはそりゃ良い事である。でも私は学校が遠いことも近くにコンビニが無いことも虫がいっぱいいることも大嫌いだ。風が強いことも日差しが強いことも良く言えば素敵なことに聞こえるけれど、私にとってはデメリットでしかない。
ここに長く住むなんて考えられない。それなのに少なくとも高校を卒業するまでの3年間はここに住まなければならないことになっている。
そこそこ発達した都市に住んでいたからあのまま都会の高校の進学しようと思っていたのに……ああ、どうして……。どうしてこんなことになってしまったのだ。
「私の人生これからどうなるんだよ……」
――やけくそで通学路を漕ぎきって、私は高校に辿り着いた。家からの所要時間はなんと50分。ここまで来れば島よりは余程マシなくらいの発展度の町になる。
乱れた髪をこそこそと直しながら教室に上がって、私はドアを開けた。
「おはよう」
「おはよう。
七花という私の名前を呼ぶクラスメイトが1人、学校が始まってから1週間なのでまだ出会ってから1週間、そんな新しくできた友達である。この短い期間で下の名前で呼び合うような仲になれた。
「大体先生たちの自己紹介とか授業の進め方の話も終わったし、今日ぐらいから本格的に授業やね」
「そうなのかな。だるいね。高校受験が終わったばっかなのにまた勉強」
「まだ序盤は簡単だろうけどついに始まってしまうのかって感じだよね」
「そんなことより今日から部活の見学できるんでしょ。もう何入るか決めてるの?」
席に座ると、朝のホームルームまでの休み時間にスクールバックを抱きながらの雑談が始まる。
「中学時代はバレーボール部だったって話したよね?」
「うん」
「そうだったんだけどもうバレーはいいかなって」
「分かる。私も陸上部だったんだけどもう絶対陸上部だけはやだ」
「ダンス部とかよくない?それか弓道部とか」
「何その2択」
「え、高校から始めるってなったらこの辺じゃない?」
「確かに。まあ今日一緒に色々見て回ろうよ」
「うん」
前の席に座る1番仲良くなった子の他にもいくらか挨拶を交わせるくらいの友達はもうできていた。田舎住みの同級生たちは皆良い子そうだし高校生活における人間関係のスタートダッシュは上手く切れている。
住んでいる場所は大失敗だけど高校生活は今のところ順調、だから私はこれから部活や恋愛なんかを頑張っていくつもりだった。しょうがなくだけど……。
どんな部活に入ってどんな生活を送ろうか。授業が始まってからも私はその事ばかりを考えていた。かなり妄想交じりで自分に都合が良い感じの考え事。
今のところ第一希望は球技系の部活だ。バスケ部なんていいかもしれない。女子に人気の球技の中でも運動量が激しいけれどそれが島暮らしストレスの発散になってくれるはず。私にはもの凄いシュートの才能があるかもしれないし、島暮らしの天才ポイントゲッターなんて呼ばれるのも悪くない。
それとも吹奏楽部とか演劇部なんてどうだろう。私はこれまでステージの上に立って目立ったという経験が無いからちょっと憧れる分野ではある。こんな日差しの強い所で運動なんてやってられないという考えもあるし、私にはきっと独特でオンリーワンの才能が眠っている気がする。
私のパフォーマンスで訪れた大勢の人々が沸いているのを思い浮かべると、ノートを取りながらにやけてしまった――。
放課後、私は約束通り友達と一緒に教室を出た。各部活の部室の位置を記した地図を片手に、校内の探索へと向かう。
「どこから行く?」
「外出たら戻ってくるのめんどくさいし室内のからにしよ」
まだどこに何があるのか分からない校内をあっちへ行ったりこっちへ行ったり適当に歩いた。入学式の時ほどではないが、部活の勧誘をしている先輩なんかもちらほらいて、いるけれど立ち止まって真面目に話は聞いたりせず、色んな部活を見ながら歩くことを楽しんでいた。
吹奏楽部に軽音楽部、茶道部なんかも外から活動の様子を覗いていって……。
そんな時だ――私にとって強烈な出会いがあったのは――。
「次の部屋の部活は何?」
私は友達に尋ねた。
「eスポーツ部だって」
「eスポーツ部?何それ?」
「七花知らないんだ。簡単に言うとゲーム部だよ」
「ゲームってテレビゲーム?」
「私もよくは知らないけど珍しい部活だよね。なんかこの学校は力入れてるらしいよ」
「へー。でも部活でゲームってね。それよりグラウンドのあの人だかりは何?女子ばっか。サッカー部あたりによっぽどかっこいい人でもいるのかな――」
「ちょっと七花。あぶな――」
危険を知らせる声が聞こえたと思ったら、窓から正面へ視点を戻す前に体へ硬いものがぶつかった。
続けて廊下全体に響く壊れる音。何かしらの機械が床に落ちて、ボディにヒビを入れながら形を変えた。
数秒の間、その廊下にいた人間達が固まる。
「あーあ。やっちまったねこりゃ」
そして、私とぶつかって機械を落とした女は軽い口調でそう言った。
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