ずくめ、づくめ、づくし
前回書いた「黒い白衣」の記事をチェックすると、「黒ずくめ」と書いているところと「黒づくめ」と書いているところがあった。
たかだか2000字の文章の中で表記が揺れているという、本当に一人の人間が書いたものなのか、疑うような有り様に。
言い訳すると、私は普段、パソコンなりFire HDなりで下書きした後、ざっとチェックしてからコピペしてカクヨムに投稿するのだが、今回はカクヨムで直接書いて投稿した。なので普段よりもチェックが甘かったところはある。他にもやからしてそう。
とりあえず「黒ずくめ」で統一しておいたが、そう言えば実際のところ、「ずくめ」と「づくめ」、どっちが正しいのだろうと気になるところではある。どっちも見かける。なので調べてみた。
ネットで調べてみると、人によって言っていることが違う、ということがわかった。
大雑把には以下のような宗派がある。
1.「尽くめ」だから「づくめ」が正しい。
2.「竦め」だから「ずくめ」が正しい。
3.もともとは「づくめ」と書いていたが、いつの間にか変化して「ずくめ」になった。
この中では2番がよくわからないと思うが、同じものばかりでがんじがらめになって身動きが取れなくなる様を表現しているらしい。「黒竦め」だと「黒によって縛られている」といったニュアンスになる。
調べた限りの印象では、どうやら、明確にどっちが正しいという根拠はないようである。
実際のところ、日本人はそんなにきっちりと「ず」と「づ」の使い分けをしていない。
中には現代ではほぼ慣習化された使い分けもあるが(「ずっと」とか「ずつ」とか)、「ずくめ/づくめ」については、一応「ずくめ」優勢ではあるものの、どちらも生き残っている。
もしあなたが社内で文章を書く必要があるなら、こういう場合はどう書くのが正しいとしているかを列挙しているハンドブックがあるはずだから、それに従えばいい。
一方、カクヨムで適当になんか書いている私らのような連中は、「ずくめ」でも「づくめ」でも「尽くめ」でも「竦め」でも好きに書けばいい。意味が通れば問題なし。我々はKADOKAWAの社内ルールに従う必要はない。利用規約にそんなことは書かれていなかったはず。
ついでなので「ずくめ」と「づくし」の違いについて。
これも非常にややこしく、いくつか宗派がある。
主要なものを紹介する。
「ずくめ」は同じものばかりである状態を指し、「づくし」はできるだけ同じものを集めた状態を指す説。
「黒ずくめ」は黒一色であるのに対し、「黒づくし」は頑張って黒をたくさん集めてはいるものの、必ずしも黒一色でなくてもいい、ということらしい。
「ずくめ」は意図せず同じものが集まった状態を指し、「づくし」は能動的に同じものを集めた状態のことを指すという説。
これは補足が必要だろう。
この宗派における「ずくめ」と「づくし」の違いは、なぜ同じものを集めたか? が重要になる。
たとえば、全身黒い服で身を固めている人に「あなた、なんで全身真っ黒なの?」と尋ねたとき、「カッコイイから」とか「目立ちたくないから」などと理由を答えられたら、それは「黒ずくめ」となる。
何らかの目的のためにコーディネイトした結果が黒一色だったのであり、目的を果たせるなら他の色でもよかったわけである。
一方、理由が答えられない、もしくは「黒いから」などと答えた場合は「黒づくし」になる。理由があって黒を選んだのではなく、黒であることそのものが目的だった、ということ。最初から黒以外の選択肢はないわけである。
「ずくめ」はネガティブなニュアンスで用い、「づくし」はポジティブなニュアンスのときに用いる説。
「黒ずくめ」は黒ばかりでなんか嫌な感じがする場合に用い、「黒づくし」は黒ばかりだからハッピーな感じがするときに用いる、ということ。
「ずくめ」は同じものばかり集めた状態で、「づくし」は同じ種類ばかり集めた状態だという説。
これはネットの情報によると、共同通信社のルールらしい。そして、このルールによると「松茸づくし」は間違いで、「松茸ずくめ」と書くのが正しいのだとか。なぜなら「松茸」という同じキノコばかり集めた状態だから。
しかしこれは間違っていると私は思う。一般に「松茸づくし」と呼ばれるのは、様々な松茸料理を用意している状態のことを指しているのだから、ルールに従えば「松茸料理づくし」、すなわち「松茸づくし」と書くのが正しい。
もし、未調理の松茸がうず高く積まれた様や、あるいは松茸ごはんだけが大量にある様を表現したいなら「松茸ずくめ」と書くべきだが。
こうした社内ルールはあくまで社内でしか通用しないものなので、共同通信社と関わりのない私らには関係のないことではあるが、自分らで決めたルールすらちゃんと理解していないのはどうかと思う。
以上のことから、私は結論を得た。
「ずくめ/づくめ」と「づくし」は、どちらもほぼ同じ意味で、どちらを使っても大差ない。好きなのを使えばいい。
これらは大して明確な使い分けがされておらず、世にある使い分けは明らかに後付けの理論である。
仕事で文章を書く際は社内ルールに従うことになるが、そうでない場合は適当でいい。
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