庭木の聖域なき構造改革

 庭木7本全ての強剪定が終了した。


 本格的な剪定は秋にするとか、来年の春にするとか言っていたが、結局全部やってしまった。

 気温35度の中、連日、長袖長ズボンで狂ったように庭木を切りまくる私のイカレた姿を見かけた近所の人たちは、「ついにあそこの家の息子さん、おかしくなったのか」と興味をそそられたらしく、普段はすれ違ってもろくに挨拶もしない仲なのに、ずいぶん話しかけられた。



 結果から先に言うと、私は1日1~2本、1本あたり3時間程度の作業を行い、家にある庭木は全て、枝葉の8割を落とした。


 作業が終わった後の家の庭木は、山火事か台風にでも遭った後のような悲惨な見た目になったが、少なくとも、すっきりはした。もう枝葉で隠れて見えない部分は一切ないし、枯れ葉が溜まって腐ったりするようなポイントもない。


 切る作業を優先したため、切った後の枝葉は集めて置いたままになっている。すんごい量である。ゴミ袋50袋分はいきそう。

 ただ、しばらく放置すれば水分が抜けて枯れるので、そうすればもう少し体積が減るかもしれない。



 今回の一連の作業をする過程で、新たに道具をいくつか仕入れた。


 まずは剪定鋏。ラチェット式で17mmの枝まで切れるやつ。

 当初、私は、刈込鋏と高枝切り鋏だけでやっていけると思っていたが、実際に剪定をやっていくと、やっぱりはしごに昇って一本ずつ枝の状態を吟味しながら切っていく作業が増えてきた。そういうとき、高枝切り鋏は長さがかえって邪魔になるし、刈込鋏は両手を使わないと切れないのが煩わしい。というわけで購入。

 実はこの剪定鋏は2代目で、初代は100円ショップで200円のを買った。しかし、これがすぐ枝の切れっ端を噛んで刃が開閉できなくなって不便だった。しかも2日でバネが壊れた。2日といっても、その2日でめちゃくちゃ酷使したので、安物にしてはよく保った方と言えるかもしれない。

 ただ、その経験から「安物じゃダメだな」と悟り、今回はちゃんとしたのを買った。


 剪定用のこぎり。ピストル型でホルスター付きのもの。ベルトに取り付けることで、片手で素早く取り出したり、しまったりできる。高所作業で便利。また、小型で長細い形状も剪定に向いている。枝が入り組んでいるところで、狙った枝だけを切れる。

 私の家には大工用ののこぎりがあるが、これだと小回りが効かずに不便だった。

 私は高枝切り鋏を買う時、こうした剪定用のこぎりも見かけたが、その時は「何が剪定用だよ。のこぎりはのこぎりだろ。大工用と何が違うんだ?」と思っていた。

 しかし、剪定作業をやっていくうちにわかった。剪定用のこぎりは、確かに剪定をするときに便利なように作られている。


 作業着。剪定作業をやる度に普段着を汚すのもなんなので、ついに工務店で専用の作業着を買ってしまった。作業着を着て頭にタオルを巻き、腰にのこぎりをぶら下げれば、私もいっちょ前の庭師である。見た目だけは。

 厚手で丈夫でポケットがいっぱい付いていて便利。洗濯も容易。安いので安心して汚せる。

 剪定鋏を買った際、ついでに剪定鋏用のホルスターも買おうかと思ったが、作業着のズボンのポケットに入れれば事が済んだので買わなかった。



 本当は庭木1本ごとに1話書こうと思っていたが、ちんたら記事の下書きを書いている内に剪定作業の方が終わってしまい、時間が経つごとに記憶も薄れていってしまっているので、今回で全部まとめて書いてしまうことにする。



●カイヅカイブキA、B


 最もほざほざもさもさしている、一番の難敵。もさもさしているくせに中心は枯れている。最悪。ヤバイ。

 とりあえず枝を1本ずつ吟味して、残す枝と切る枝を選ぼうとしたが、やっていてすぐにヤバイことに気づいた。

 残すに値する枝があまりに少ないのである。


 木を剪定する時に切るべき枝とされるのは、根本から生えている枝、下向きに生えている枝、絡まっている枝、変な方向に曲がっている枝。

 また、幹の同じ高さから平行に2本生えている枝は、片方を落としたほうが見栄えが良くなる。


 で、このカイヅカイブキどもだが、枝がことごとく下を向いているか、絡まっているか、ねじ曲がっているのである。まともにまっすぐ生えている枝があまりに少ない。


 さらに問題なのが、中心が枯れている、という点。ある程度のところまではまっすぐ伸びているけど、途中からグレてねじ曲がっちゃった、という枝は、曲がったところから先を切ることで更生を促すこともできる。

 ただし、残した枝に葉が生えていないと、その枝は成長してくれない。

 一方、ウチのカイヅカイブキは中心が枯れていて、緑が茂っているのはさきっちょだけのため、グレた部分を落とすと葉がなくなってしまうのである。


 この木にはそれぞれ幹から大小45本の枝が生えていた(はっきり言って多すぎ)が、結局、私が残したのは各7本だけだった。85%カット。残った枝葉は元の2割以下。

 落雷でも受けたんかというほど、酷いつるっぱげになったが、それでもなんとか比較的マシな枝をいくつか残せはした。


 それにまあ、見た目だけ元気そうだが実際は死にかけている鬱陶しいもさもさぶりよりは、この方がマシなのも確かである。



●ツバキ(仮)A、B、中庭のツバキ(仮)


 未だに本当にツバキかは知らない。どうでもいい。

 こいつらは一見まともそうだが、実は手入れが甘く、よく見ると枝が絡まったり多すぎたりしている。そしてやっぱり真ん中が一部枯れているが、カイヅカイブキほど深刻ではない。

 そして、最もダメなのが、ツバキ(仮)Aと中庭のは幹が根本で2本に分かれており、Bに至っては5本に分かれている点。なんで早い内に1本化しなかったんかね。


 というわけで、ツバキ(仮)への作業は、まず、幹を1本化すること。最もまともな1本を選んで、残りを全部落とす。

 ツバキ(B)に関しては、この作業だけでほぼ終了。5本ある幹のうちの4本を落として1本化したら、それだけで十分すっきりした。あとはちょこちょこ絡まっている枝を落としたりするだけで完了。


 ツバキ(A)と中庭のはそこから、曲がったり、垂れ下がっている枝を落としたり、生えているスペースが被っている枝の片方を落としたりする。


 最初に大物をばっさり落としてから細部を整える、という作業になったので、ツバキ(仮)は比較的早く終わった。



●キンモクセイ


 家の窓際に生えている。放置すると窓や壁側に伸びて、窓ガラスや壁をぶち破ってしまうので、さすがにこの木は何度も剪定された跡があった。

 ただしそれは、家の壁や窓に刺さらないようにするための措置だけで、木の景観や健康を考えた剪定はされていなかった。

 それは、根本付近からぶっとい枝が生えているのをずっと放置されていたことからもわかる。うちに来ていた植木屋は一体何をやってたんだろう?


 今となってはなんとも言えないが、ただ、ひとつ言えることはある。庭師が自分の判断で他人の家の庭木のぶっとい枝を切るのは勇気がいる、ということ。

 家の人が「この枝は切ってくださいね」と言うなら、それに従えばいいだけだから悩むことはない。言われたとおりやればいい。しかし、「あんじょうよろしゅう(なんかいい感じでやってくださいね)」という曖昧なオーダーを受けて、根本で分かれている太い枝を自分の判断でぶった切れるか、と考えてみると、確かにこれは躊躇するところだろう。少なくとも家の人に無断では切れない。

 でまあ、そこで良心的な庭師なら「切ったほうが将来的にいいと思いますが、どうします?」とお伺いするだろうが、そうすると、たいして報酬も増えないのに、余計な仕事が増えることになる。

 そしたら、黙っておくのがお得というもんじゃないのかね、となりがちな気がする。どうせ、その枝を放置することで家の人が困るのは、何十年も先のことなのである。


 だから、人を雇うにも最低限の知識が必要だ、ということ。人を雇う時に、その仕事に無関心でいてはいけない。


 というわけで、まず、根本で分かれてねじくれているぶっとい枝を落としたわけだが、ツバキ(仮)と違って、キンモクセイはそれでは済まなかった。

 キンモクセイはこの木の特徴なのか、消防署の地図記号みたいな枝の生え方をすることが多い。これが重なってくると、カゴみたいになってしまって、そこに枯れ葉が溜まって木の健康を害するのである。

 そこで、U字型に2本生えた枝は1本落としておきたいのだが、なにしろほとんどの枝がそうなっているので、これがなかなか大変。

 あと、この生え方の影響もあるのか、絡まっている枝がめちゃくちゃ多かった。全部解きほぐすのにめちゃくちゃ時間がかかった。


 あと、なんか知らないが、キンモクセイをいじると鼻がムズムズしてくしゃみが出るのも難儀した。私は実はキンモクセイアレルギーなのかもしれない。



●マツ


 一般に、マツは扱いが難しい木とされるらしいが、私はむしろ簡単な気がした。何が邪魔な枝か、邪魔な芽かがわかりやすい気がする。カイヅカイブキの方がずっと大変。カイヅカイブキって、本当にあれ、手入れが簡単なの? 騙されてない? 昭和の人たち。


 マツの芽は三本伸びることが多い。その場合、一番勢いのある芽を切る(ものの本には手で摘めとある)のがセオリー。

 私はこれを読んだ時、4回は確認した。本当に、一番、勢いのある芽を摘むの? と。一番勢いのない芽じゃなくて?


 その理由は、今ならわかる。私の家のマツは芽を摘まれもせずに成長し放題だったわけだが、すると、一番勢いのある芽があまりにびょーんと飛び出して伸びすぎて、不格好なのである。非常に下品。松の上品さのかけらもない。いやほんと。いっそ燃やしたくなるほどムカつく生え方をする。

 もし興味があるなら、ろくに庭木を手入れしていない家を探して、伸び放題の松を見物してみるといい。これが本当に松なのかと目を疑うほど、下品で酷い形をしているので。

 だから、一番勢いのある中心の芽を摘む。そうすることで、いかにもあの「ザ・ニッポン」な美しい松の樹型が形作られるわけである。


 なお、このマツも、根元付近から枝が伸びて第二の幹みたいになっていた。とにかくウチの庭木は本当に基礎からなってない。これでよくうちの両親は「ウチは庭木を大切にしてマス!」みたいな顔をしていたもんである。たぶん、近所の庭の手入れをしている庭師達は、休憩時間にウチの庭木を見てあざ笑っていたことだろう。


 しかし、それももう終わりである。あまりに長いことろくな手入れをされていなかったせいで、どうやっても樹型がきれいに整わないが、できる限りは風情のあるっぽい松らしき感じにしてみた。

 ……まあ、その過程で7割くらいの枝を落としてしまったが。いやさ、とにかく変な方向に生えすぎなのよ、うちの木は。残したってひん曲がった枝が矯正されるわけでもないから、だったらすっぱり落としたほうがマシ、ということにどうしてもなってしまう。救いようがない枝が多すぎる。



 というわけで、剪定作業は終わったが、ここから切った枝葉を細かくして袋に詰めて、ちょっとずつ燃えるゴミで出すという、地獄の延長戦が残っている。作業時間的にはこっちが本番と言えるかもしれないが、切って袋に詰めるだけの作業なので雑記のネタにもならない。

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