高枝切り鋏を買って庭木の剪定をする
私の家には7本ほど、2m~3mほどの木が植えられている。ツツジとかの低い木は父親が年に2回、邪魔になってきたら切り揃えているが、高いところは手が出せない。
それで、私の家では年に1回、植木屋が来て、家の庭木全体の手入れをしてもらっていた。
しかし、3年前だったかに植木屋と父親がもめたらしく、以来、植木屋が来なくなった。
それで2年ほど、庭木の高い部分が放置されることになった。
私はその植木屋と直接やりとりをしたことがないので、詳しいことは知らないが、かなり長い付き合いで、元々地元のシルバー人材センターに頼んだらやってきた人が、後に独立して植木屋をやるようになり、そこにそのまま頼み続けていた、という話だったと思う。
そのうちその植木屋の息子が仕事を手伝うようになり、その分の支払いが上乗せされるようになって、母親がずいぶん文句を言っていたのを覚えている。
私が調べたところによると、植木屋に仕事を頼むと、人数分の時給を払うものらしい。
たとえば1人あたり時給3000円として、植木屋が1人で2時間で仕事をしたとしたら、支払いは6000円になる。
その植木屋が息子を連れてきて仕事をさせると、2人分の時給を払わなければならないから時給は倍の6000円になる。で、仕事時間も半分になって1時間で終われば支払いは6000円のままだが、結局そこは変わらず2時間かかったとしたら、支払いは12000円になる。
母親が文句を言っていたのは、このことだろう。植木屋が息子を連れてきて、一丁前に時給を取るくせに仕事時間は短縮されなかったことに対する不満だったわけである。言わんとすることはわかるが、仕事や値段が気に入らないなら他の業者に頼めばいいと思う。しかし結局、理由は知らないがそうしなかった。
というわけで、うちの母親や父親は、もともと植木屋には不信感があったらしいが、そのくせなぜかそこを使い続けていたわけである。
数年前、私が家のお金の管理をすることになり、実際に植木屋にいくら支払っているのかを知ることとなったが、15000円だった。この1万5000円の内訳は知らない。何人で何時間やっていくらとかは不明。これが高いのか安いのかも知らない。
たとえば車の修理を依頼したら、部品代いくら、工賃いくらと書かれているもんである。それがなく、とにかく15000円。
私はそれが気に入らなかったし、私が植木屋に依頼して仕事を頼むなら、明細は聞いたはずである。
だが、父親が、植木屋とは自分がやり取りすると主張したので、私はただ、毎年冬になると、父親に15000円渡し、植木屋が来たらこれで払ってね、と言うだけだった。庭に関しては、金だけ渡してノータッチだったわけである。
しかし3年前だかに植木屋が来て剪定の仕事が終わり、お金を支払う段になって、今年から値上がりしたと言い出したらしい。しかし、父親は従来通り、15000円しか払わなかった。
以後、その植木屋は私の家に来なくなった。今まで何十年も、頼まずとも勝手に毎年来ていたのが、来なくなったわけである。父親も、来ないなら来ないでいいわ、ということで頼まず。
こうして、家の木は2年ほど放置されることとなった。
父親と植木屋との間で何があったかは知らないし、興味もない。問題は、私が庭の木をどうするか、ということである。父親が庭木の高い部分のメンテナンスに対する責任を放棄したなら、その管轄は私ということになる。
私はもともと、家と植木屋との関係は気に入らなかった。植木屋の仕事がどうこうというわけではなく、お金の絡む問題なのに、ちゃんと契約していないことが不満だった。長い付き合いだろうとなんだろうと、毎年ちゃんと仕事を依頼し、いくらでやるかを合意した上でやる、という形を取るべきだったと思う。そうしないからこういうトラブルが起きる。
植木屋と縁が切れたのは、私にとっては悪いことではなかった。今度からは私が仕切れるし、私が仕切るからには、仕事内容や値段について、合意しない限りは仕事はさせない。
それはそれとして、まずは、自分で庭木の剪定をやってみることにした。人を雇うにしろ、その仕事がどういうものなのかを知っておくことは悪くない。
自分でやってみれば、もし人を雇うにしても、その仕事内容や料金が妥当かを知ることができる。ぼったくられたり、いい加減な仕事をされるのを防ぐことができる。
というわけで、まず、ホームセンターで高枝切り鋏を買った。これがないと高いところの枝が切れない。
どれがいいのかさっぱりわからんので、とにかく安くて標準的っぽいやつを買った。最大高さ3m、切断能力8mmの枝までで、お値段3000円。これがいいのか悪いのか、高いのか安いのかは知らないが、それを知るには、とにかく買って使ってみることである。素人が最初からいい買い物をしようとするのは厚かましい。
というわけで使ってみた。道具の性能には特に不満はなく、狙った枝をガシガシ切れる。仕事としても簡単。鬱陶しい枝をひたすら切るだけ。
私は庭木の健康とか見栄えとかはどうでもよく、とにかく邪魔にならなければいいと思っている。伸びすぎて往来の邪魔になったり、虫が住み着いたり、電線にかかったりしなければいい。
ただ、やってみてわかったことは、邪魔になっている枝葉を払うためには、その周囲も整える必要がある、ということ。そうしないと、邪魔になっている枝が見えなくて、高枝切り鋏で狙えない。美観なんかどうでも良くても、結局は、全体をそこそこきれいに切り揃える必要が生じた。
あと、切りたくても太すぎて切れない枝が何本かあった。高枝切り鋏にはノコギリも付いていて、それで太すぎて切れない枝は切ってね、ということのようだが、実際やってみたら、ノコギリで高いところにある枝を切るのは相当大変。しなって逃げるからちゃんと切れない。
後で他のホームセンターも見てみると、15mmの枝まで切れる高枝切り鋏が売っていて、これなら切りたいものを全部切れそうである。6000円くらいだったが、これを買い足すかどうかは検討中。
今の高枝切り鋏で95%の仕事はできる。ただ、最後の最後、数本の飛び出た太い枝は切ることができない。切れないなら別にいいや、だいたい整ったし、という考え方もあるし、やっぱり切った方がいい、ということなら、買うことにする。もう少し様子を見てから決める。
7本ほどある木のうち、5本は別に大したことはなく、2年放置してもさして伸びていなかったし、ちょこちょこ適当に切ればなんとかなった。
問題は、2本ある西洋風の杉みたいなやつ。これがふっさふさしていて大変。しかもなんか、トゲトゲしている枝葉がたまに混ざっていて、うかつに触ると軍手を貫通して手に刺さる。
なにコイツ? と思って調べてみると、カイヅカイブキ(貝塚伊吹)と言って、昭和時代には西洋風ハイカラ植木として人気を博し、病気にも強く、手間いらずで楽ちんという触れ込みで、いろんなご家庭の庭に植えられまくったらしい。
しかし、実際には結構手入れが大変で、放置すると伸びまくって邪魔になるので、最近では手に余ったご家庭が増えて、伐採されることが多いのだとか。昭和ってホント、未来にろくな遺産を残してないよね。
かくいう私も昭和の負の遺産のひとつなので、私がくたばる頃には日本から昭和が一掃され、日本はもっと良くなるのかもしれない。しらんけど。
このカイヅカイブキ、普段なら枝も葉もトゲトゲしていないのだが、環境が悪くなるとトゲトゲが生えてくるらしい。
私の家のカイヅカイブキを確認すると、だいたい2割~3割くらいの枝葉がトゲトゲしていた。これは2年放置されたから生じたもの、というよりは、もっと以前からトゲトゲ化は進んでいたように思われる。
トゲトゲが混ざるのは見栄えが悪いから嫌われるらしいが、私は気にしないことにする。剪定する際、トゲトゲを優先して選ぶという参考目標としては活用するが、全部切り落とすのは大変だし、現実的じゃない。そもそも私はそんなに本格的に庭の手入れがしたいんじゃない。最低限、木が邪魔にならないようにしたいだけなのである。
ただ、軍手じゃこいつのトゲには何の役にも立たないので、もっと丈夫な厚手のガーデニング用手袋と、火ばさみを買ってくることにした。
こういうのが、やってみないとわからないことのひとつである。庭の剪定なんか軍手で十分と思っていたが、もっと丈夫な手袋が必要だということ、そしてちゃんとホームセンターにはガーデニング用の厚手の手袋が売っていることは、実際に剪定をやらないとわからないことだった。
ともかく、枝を切ること自体は特に問題なく、道具が揃っていればそんなに難しくない。
本当に大変なのは、切り落とした枝葉を集めて捨てることの方。思っていた以上にとんでもない量の枝葉が出る。2年放置していたこともあったが、だいたい1本あたり45リットルのゴミ袋3袋分は出た。カイヅカイブキはさらに2袋くらい増える。
燃やせるなら処分は簡単だが、現代の住宅街では、庭で火遊びするのは禁止されていることが多い。なんとかして燃えるゴミとかで捨てるしかないが、量が量だけに大変。業者に来てもらえば一気に全部片付くが、コストがかかる。これは意外と見落とされがちな部分のコストだろう。高枝切り鋏とか、手袋とか、ほうきとか、道具にかかるコストはほぼ誰でも思いつくが、仕事をすると出てくるゴミの廃棄コストは忘れがち。
私は枝葉を庭の一箇所に集めておき、ちょっとずつ捨てていくことにした。枯らせば量も減って捨てやすくなるし。
あと、カイヅカイブキは切ると柑橘っぽい香りがする。この香りには防虫効果があるとかいう話もある。
ということは、庭にしばらく放置しておげば、多少は虫よけになるのかもしれない。
実際に剪定してみてわかったのは、美しい庭を目指すのではないなら、この仕事には特に専門的な技術は要らないし、体力とかも必要ない。ただ、いくつかの道具と、脚立に乗れる程度の平衡感覚は必要。
高枝切り鋏を使えばほとんどの場面で脚立は必要ないが、脚立に登って確認しないと、切りたい枝が見えなくて狙いづらいことが何度かあった。なので、脚立に登って無事でいられる平衡感覚や体力はあったほうがいいだろう。あんまり衰えた年寄りとかにやらせないほうがいい。転落したら、庭師を雇うより治療コストが嵩む。
ひどい言い草だと思うかもしれないが、今問題にしているのは、自分でやるのと人を雇うの、どっちが得なのか、ということなので、雇用料をケチって自分でやった結果、怪我や物損が生じて余計にコストがかかる可能性は想定すべきである。
切ったあとの後始末が想像以上に大変ということも考慮したほうがいい。切るより掃除のほうが数倍手間だし大変だし重労働である。これ本当。
植木屋に頼む一番のメリットは、切ることそのものよりも、切った後に掃除やゴミ出しをしなくていいことの方かもしれない。
あと、庭の規模にもよるが、1日1本、約3時間くらいの作業、くらいの気持ちでやったほうがいい。1日で7本全部やるぞー! とか思うのは勝手だが、まず無理だしやめたほうがいい。
単純に剪定作業そのものも時間がかかるし大変というのもあるが、あんまり調子に乗って一気に何本もやると、ゴミの片付けと処分で死ぬる思いをすることになる。
私は当初、1日で主要な5本を全部やるつもりだったが、途中で地面に積もった枝葉の量の凄まじさに気づき、何日かに分けてやることにした。
そもそも、何日かに分けてやったほうが、木への負担も少なくなるし、剪定した木を次の日見ることで、昨日の作業の粗が見えてくる、ということもある。何にしろ、一気にやろうとしないほうがいい。
なお、高枝切り鋏の使い方についての注意点だが、たいがいの高枝切り鋏は、何段階かで高さが調整できるようになっている。そして、ちゃんと高さ調整機構がロックされている状態でないと、鋏に力が入らなくなるつくりになっている。
私は、高さが調整がちゃんとロックされていない状態で鋏を使おうとして、突然全然切れなくなったので、「1日でもう壊れた?」と勘違いし、分解してチェックした。
しかし、特にどこも壊れていなくて「じゃあなんで力が入らなくなったんだ?」と思っていろいろいじっていたら、高さ機構がロックされていないと、鋏に力が入らなくなる仕組みになっていることに気づいた。たぶん安全対策のひとつなんだろうと思われる。
突然レバーを引いても鋏に力が入らなくなったら、壊れたことを疑う前に、高さ調整がちゃんとロックされているかどうかを確認したほうがいい。
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