くらしモア 国内小麦使用そうめん

 以前にも書いたが、関西では、子供の頃から揖保乃糸を何の有難味もなくずるずる啜っている家庭が多い。そのため、そうめんに対しては、やたらと舌の肥えた人が多い。

 私の家でも例外ではなく、子供の頃、私はそれが揖保乃糸だと知らずにドカドカ食っていた。揖保乃糸を啜りながらテレビで揖保乃糸の宣伝を観て「いつか揖保乃糸を食いてえなあ」と思っていた。

 おかげで安いそうめんがどうしても口に合わなくて、結局は揖保乃糸を買って食べることになる。


 しかし今年、ついにジェネリック揖保乃糸を見つけた。くらしモアの「国内小麦使用そうめん」。値段はだいたい揖保乃糸の半値くらい。めちゃくちゃ安いわけではないが、ブランド品に比べたら圧倒的に安い。お手頃価格と言える。


 名称や外見からは、いかにも安物臭い、ダメそうな雰囲気が漂っているそうめんだが、これがなんと、少なくともゆがいて冷やしてすぐ食べた限りでは、ブランドそうめんにきわめて近い食感なのである。ちゃんとあの中心部がコリッとした、アルデンテ的な食感がある。

 意外と、これを揖保乃糸だと言って出したら、気付かれない可能性すらありそうである。比べたら違いはわかりやすいが、これだけ出されて「揖保乃糸にしてはイマイチだな」と気付ける食通はそういないだろう。


 ただ、時間を置いてもあの食感が維持されるかは不明なので、ゆがいたらすぐ食べるようにしたほうがいいだろう。同じ理由で、にゅうめんにはしないほうがいいと思う。


 揖保乃糸に不満があるわけではないが、贈答品として用いられるような高級そうめんをドカドカ食うのはどうなのよ、とは常々思っていて、なんとか気兼ねなく食える安いそうめんを見つけたいな、と思っていた。

 それでここ数年、夏になったらいろんなメーカーのやつを試していたが、ようやく満足の行くクオリティのそうめんに出会えた。



 役に立つ話は以上。以下は、しょうもない身の上話。


 このそうめんを買ったのは、全くの偶然だった。私は4月に風邪をひいて寝込んでいたのだが、その際に食べるものがなくて、仕方なく買い出しに行かねばならなかった。

 風邪をひいているのに外出するのはしんどいし、そもそも迷惑だからできるだけしたくはないが、飯抜きというわけにもいかない。


 それで、近所のフレンドマートに行き、出来合いの弁当とかサンドイッチとか、すぐ食えるものを買ったのだが、そのついでに、そうめんも買っておこうかな、と思った。そうめんならさっと作れて簡単なので。


 本当は揖保乃糸を買うつもりだったが、フレンドマートでは300gのやつしかなく、しかも高かった。

 私がいつも揖保乃糸を買っている店なら、500gのお徳用があって、揖保乃糸にしてはそこそこ安い。


 こんなに高いのを無理して買うことはないな、と思い、やめることにしたのだが、とはいえ、そうめんは欲しかった。

 それで適当に買ったのが、今回のくらしモアのそうめんだった。


 このそうめんには500g入りのしかなく、まずかったらどうすんのよ、500gも、と思いつつも、そこは腕でなんとかすればいいだろうという、何の根拠もない自信に基づき、買うことにした。

 いつも行っている店まで行って揖保乃糸を買うことも考えたが、なにしろ38度とか熱があるときだったので、できる限り余計なことはしたくなかった。


 おそらく、あのタイミングでなければ、私はこのそうめんを手に取らなかったと思う。500gというのがネックで、もし口に合わなかった場合でも、5回は食わなければならなくなる。これはキツい。

 風邪でしんどかったから、もうこれでいいやと、ろくに考えもせずにこのそうめんを手に取れたのである。風邪もたまには役に立つこともある。


 そもそも38度もあるのに食欲なんかあるのかよ、という点については、あった。

 コロナやインフルは罹ると食欲がなくなりがちだが、ライノはそうでもないらしい。すんごいしんどいのに、うまいものが食べたい。おかゆとか味気ないものは食いたくない。しかし、作るのはめんどいという難しい状況。

 私はインフルで高熱を出した時などは、だいたいウィダーinゼリーとかで無理やり栄養補給しているが、今回は食事そのものは普通に摂っていた。ねぎトロ丼とか。


 で、この買ったそうめんだが、結局、風邪の時は食べなかった。そうめんをゆがく気力がなかった。

 そうめんはゆがくのは早いが、お湯を沸かすのには時間がかかる。熱がある時は、この時間が耐えられない。とにかくさっさと終わらせたい。


 さらにその後、4月から5月は妙に寒い日が結構あり、「明日そうめんやるぞ」と思った次の日に限って、鍋でもやりたいくらい冷え込むという日が続いた。天気予報をチェックすればよかったのだろうが。


 それで、今頃になってようやく食す時が来たわけである。

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