クルド人難民問題

 パレスチナ問題に関連することでもあるので、クルド人難民問題についても触れておく。最近ニュースにもなったことなので。



 クルド人は「国を持たない最大の民族」と呼ばれている。現在のイラン、イラク、シリア、トルコ、アルメニアのあたりに住んでいる民族。


 16世紀にクルド人居住区はオスマン帝国によって制圧され、さらに第一次世界大戦後、オスマン帝国は連合国に破れて分割され、例のパレスチナ問題のきっかけが生まれたりしたわけだが、この件はクルド人にも影響があった。


 もともと連合国は当初、セーブル条約によってクルド人の独立を認めていた。しかしこの条約は、結局は破棄されることになる。



 オスマン帝国の領土には様々な民族が住んでいたが、第一次世界大戦で帝国が弱体化すると、それらの民族が独立運動を起こした。

 そのうち、トルコ人が領土を勝ち取ったのが、現在のトルコとなる。


 トルコは連合国とローザンヌ条約を結んで独立するが、この際にクルド人の自治区構想は正式に破棄される。


 さらに、イギリスの三枚舌外交のひとつ、サイクス・ピコ協定に基づいて引かれた国境線により、クルド人居住地はトルコ、イラン、イラク、シリア、アルメニアの各国に分断されることになる。今日の民族問題の多くは、石を投げればイギリスに当たる。イギリスだけが悪いわけではないが。



 こうして民族そのものが各国に分断されることになったクルド人だが、特にトルコでは激しい弾圧を受けることになる。

 トルコは国策として西洋化を目指し、カリフを追い出してイスラム教を廃した。そして、単一民族国家を目指すためにクルド語の使用を禁止している。

 そしてクルド人をテロリストと認定し、とにかく捕まえたり殺したりしている。



 イラクのクルド人は、サダム・フセインに迫害を受けていたが、フセイン政権が崩壊した後は、クルド人が大統領に選出されるなどもしている。



 シリアではクルド人民防衛隊なるものを作ってロジャヴァを事実上支配している。

 ISとの戦いではアメリカとロジャヴァの間には多少の協力関係もあったが、ロシアが支持するアサド政権と接近したためにその関係は複雑に。

 ISとの戦いにアメリカが勝利宣言をし、撤退すると、クルド人が嫌いなトルコは国境を越え、クルド人殲滅のためにロジャヴァに侵攻している。

 そんなことしてええのんか、ということだが、アメリカとしては、ロシア寄りのアサド政権と仲のいいクルド人組織と、アメリカ寄りのトルコだったらどっちを取るか、ということである。

 アメリカは正義面をしているが、結局は自国の利益のことしか考えていない。ロシア寄りの民族なら、虐殺されようが浄化されようが構わないわけである。



 あと、理由は知らないが、北欧のスウェーデンはクルド人に寛容で、多くの難民を引き受けており、政治家にクルド人がいたりする。

 ウクライナ戦争でロシアの脅威が高まると、北欧諸国はNATOへの加盟を申請したが、トルコがスウェーデンのNATO加盟に対して強行に反対していた理由がこれだった。テロリスト民族が政治家をやっている国なんか加入させるな、ということである。




 一方、最近、埼玉県を中心に日本で暴れていると話題になっているクルド人難民については、別に日本でクルド人自治区を作るためにテロ活動をしているわけではない。まあ、どうだかは知らないが、今のところそういう問題以前の状況である。ものすごく低レベルな話。


 日本政府は難民から提出された申請を審議して、難民として認めるかどうかを决めるわけだが、日本はあんまり難民受け入れに積極的ではないから、だいたい却下される。

 クルド人で日本政府が難民に認定したのは、今まで1人だけらしい。そのことの是非は、今は問わない。


 本来、申請を却下された難民は施設に入れられ、その後、国外退去となるのだが、COVID-19流行対策で「密を避ける」ためや、人道的理由から、近年は特に仮放免される人が多かったらしい。


 この時点で意味がわからない。COVID-19の流行を食い止めようとするなら、むしろ難民を施設から出したらダメだと思うのだが。日本国民は軟禁しておいて、申請を却下された難民は仮放免ってどういうことなのか。


 で、その「仮放免」のクルド人が日本国内に2000人くらいいるらしいが、仮放免されたら幸せかというと、そうでもない。山に住んで霞を食うわけにもいかないから、住む家を借りて金を稼がにゃならんわけだが、彼らは国外退去の手続き中という立場なので、まともな仕事には就けないし、保険にも加入できない。

 安く劣悪な仕事をあてがわれ、病気や怪我をしたら高額な治療費を支払うことになる。

 というわけで、不満が溜まってデモとか暴動になるわけである。



 これは明らかに日本政府が悪い。国外退去させるならさっさと退去させるべきだし、規定通りそれまで施設から出すべきではない。

 それが人道的に問題だというなら、難民と認めればいい。正式に難民と認めたくないなら、せめて仮放免する際に仮身分も与えて、仕事させて保険にも入らせて、税金を取りゃいい。つまり、ちゃんと政府が責任持って管理した上で仮放免するべきである。無責任に野放しにすべきではない。

 どっち付かずの態度を取り、問題を放置するからこうなる。


 野良猫にエサをやる人と同じ。野良猫がかわいそうだと思うなら飼えばいい。飼えないならエサをやるべきではない。無責任で中途半端な情けのかけかたが最も問題を悪化させるし、最も残酷である。それを政府がやっているんだから呆れる。


 身分も金も仕事もない人達を仮放免なんかしたらどうなるかなんて、わかっていることである。わかっていながら責任を放棄し、問題を先延ばしにした結果がこれである。わざわざ政府が不法滞在者を増やしているんだから愚かとしか言いようがない。

 典型的な日本の政治。なんでも先延ばしにして問題を保留し続け、慢性化させる。


 というわけで、日本で起きている問題は、クルド人問題の中では最も低レベルでしょうもなく、歴史問題でも民族問題でもない。ただ、日本政府が責任を放棄した結果、地元住民や地方自治体にしわ寄せが来ている、というだけのことである。

 非常に馬鹿らしく、しかし、悪質な問題である。

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