ACジャパン「聞こえてきた声」
テレビを付けていたら、ACジャパンの広告「聞こえてきた声」が流れていた。
https://www.ad-c.or.jp/campaign/self_all/self_all_02.html
(ACジャパン 聞こえてきた声(全国キャンペーン))
上のページで紹介されているのは60秒版だが、私が観たのは15秒版だったと思う。
モノクロマンガの風景絵と、吹き出しのセリフが次々表示される。
赤ちゃんをあやすセリフ、会社で経営方針を発表するセリフ、学校で「将来の夢はパイロットです」と発表するセリフ。
それを見て、聞こえてきたのは男の声か、女の声か? と、問いかける内容。
これを見て、私は衝撃を受けた。
私の頭の中には声がしなかったのである。
それどころか、なにひとつ状況を理解できず、「前のシーンとこのシーンの繋がりって何?」と、そればかり考えていた。
私がこのCMを観ていた時の様子を実況するとこんな感じ。
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モノクロ漫画風CM? 一建設のやつかな?
ん? 一軒家の風景からビルの風景? 経営方針? どういう繋がりだ?
次は教室? パイロット? 経営方針からパイロット? 一体何の話なんだ? 繋がりが全然わからんぞ。
こんなに意味がわからんことってある?
もしかして俺はアホなのか? 普通の人には理解できるのか、これ?
家、経営方針、パイロット? なにそれ?
……声?
えっ、普通の人って、セリフを読んだら声がするもんなの?
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私はまず、セリフをちゃんと読んですらいない。声が男か女か以前の問題である。
とにかくこのCMは何で、どういうことを表現しようとしているのかを理解しようとばかりしている。
そのせいで、冒頭の赤ちゃんをあやすセリフについては、それがあったことすら見落としている。
あのときの私は家の風景からビルの風景に切り替わった意味がわからなくて、とにかくそれに気を取られていた。
意味がわかったところで、改めてネットでこのCMを見返してみた。
それでもやはり、私の中には声が流れなかった。
それは、声の主に関する情報がないため。
このCMでは意図的に、そうした情報は隠されている。誰がどんな状況でそのセリフを発しているのか、さっぱりわからない。
そのため、私はセリフに「声」を感じることができないのである。
ちゃんと情報が与えられれば私も、それを基にセリフを脳内で音声化できるようになるわけだが、それは現実で人間が喋っている音声とは全く異なっている。
その理由のひとつは、私の読む速度が、人が喋る速度より早いからだと思う。
私の読む速度に現実の声を当ててしまうと、めちゃくちゃ早口になってしまう。
だから、私の脳内活字世界では、活字専用の声優(?)みたいなものが演じる。
この脳内活字声優は、聴覚の世界で言うところの「音声」とは全く異なる喋り方をしている。
これは何と言っていいか、よくわからないが、無理やり表現すると、昔のゲームでよくある、テキストに合わせて音を鳴らすアレみたいなもの。ただ、ゲームで鳴らされるSEとは性質が違って、電車の走行音とかに近い気がする。
この辺は説明が難しい。なにしろ聴覚の世界とは異なる法則で成り立っているからである。
私の脳内声優が重視しているのは、そのセリフの主の性格と状況。この状況で、この性格なら、こういう調子でこう言うだろう、ということ。
一方で、種族・性別・年齢はほとんど考慮していない。活字の世界では、その情報の価値が低いからである。
聴覚の世界では、声を聞くことで、その声の主の種族・性別・年齢を判別できる。
しかし、活字の世界のセリフをいくら読んだって、そんなものはわからない。猫や車が喋っているかもしれないし、少女が老婆のような口調で喋っているかもしれない。
わからないものは重要ではないから、私がセリフを読む時にはほとんど考慮しない。情報を基に多少はチューニングするが、あまり変化はない。
私の脳内では、女も男も、音価としては大して違いがなかったりする。あと、吃音とか、風邪気味とか、そうした情報も無視しがち。そこを考慮をして演技させると、読むのが遅くなるので。
死にかけのじいさんが息も絶え絶えに喋っているシーンでも、演技としては死にそうにするが、セリフ自体はすんごい早口。
私が読めない小説に出くわす原因は、この、脳内声優の特性に関係していることが多い。キャラクターの性格や状況が不明だったり、性格や状況にセリフの内容が合っていなかったりすると、途端に「あ、これはダメだ、読めねえ」となる。
件のCMから声が聞こえなかったのも、同じ理由。あのCMのセリフには文脈も情報も全く無い。だから私は読めないのである。
家やビルなどの風景の情報はあるが、風景とセリフが一致している保証もない。「経営方針を発表します」とか言っているのが、実はあのビルの外にある公園の猫かもしれないわけである。可能性がありすぎるから、想像のしようもない。
私の問題は置いておいて、「赤ちゃんをあやす声が無意識に女性に聞こえることと、性差別的な偏見とは関係があるのか?」という、CMが本来提示している問題についてだが、私は「一概にあるとは言えない」と思う。
セリフを無意識に男性ないし女性に喋らせるのは、その人の経験上、そのセリフの主が男性ないし女性である確率が高いだろうという推論から想像されただけのことで、そう推論したこと、「赤ちゃんは女性があやすものだ」などという偏見を持っていることとは、また別の問題だからである。
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