『チュングエンレジェンド:最高級ベトナムコーヒーの心』

 ディスカバリーチャンネルにて『チュングエンレジェンド:最高級ベトナムコーヒーの心』という番組をやっていた。


 ディスカバリーチャンネルではたまに、この手の案件番組が放送されることがある。

 たとえば以前にはNEOM提供の『THE LINE: サウジアラビアの直線型未来都市』という番組をやっていた。

 いかにNEOMが素晴らしい企業で、THE LINEが優れた都市計画であるかを宣伝した内容で、THE LINEが抱える課題や問題などにはほとんど触れていなかった。


 この番組も要するに同じで、チュングエンレジェンドの宣伝番組となっている。そのため、内容に関しては鵜呑みにしてはいけない。いいことしか言わないからである。



 日本で売られているコーヒー豆や、喫茶店で提供されているコーヒーは、その大半がアラビカ種となる。


 コーヒーにはもうひとつ、ロブスタ種というのがある。これはコーヒーの旨味や香り成分である少糖類が少ないが、アラビカ種よりも味が変質しにくいため、インスタントコーヒーや缶コーヒーで使われることが多い。あと、カフェイン含有量が2倍なのだとか。



 ベトナムはアラビカ種の栽培には適していないため、ロブスタ種を生産している。

 コーヒーメーカーであるチュングエンレジェンドの主力商品は"G7"というものらしいが、これはインスタントコーヒー。東南アジアを中心によく売れているメジャーな商品らしい。私はインスタントコーヒーを飲まないから、日本でどの程度知名度があるかはわからないが。


 ベトナムでは、喫茶店でもロブスタ種が主流。フィンと呼ばれる小さなフィルターに粉状に挽いたコーヒー豆を入れて上からお湯を注ぎ、抽出する。


 抽出時間は7分らしい。これが結構長いということは、私のコーヒー関係の雑記を読んだ人ならわかると思う。

 アラビカ種の場合、ハンドドリップでは3分、フレンチプレスでは4分が抽出時間の目安となる。時間をかけすぎると雑味が出てくる。

 コーヒーを濃い味にしたい場合、豆や湯の量を調整したほうがいい。抽出時間を伸ばしても確かに濃くなるが、風味のバランスが崩れる。

 一方、ロブスタ種はもともと旨味成分が少なめなので、長時間抽出した方がいいのだろう。


 ホットなら、抽出したものをそのまま飲む。アイスの場合は、氷の入ったグラスにその抽出したコーヒーを入れて混ぜる。


 かなり濃くて強い味らしいので、通常はフィンの下に置くグラスに、あらかじめコンデンスミルクを入れる。

 もちろん、ブラックで飲む者もいる。


 番組では、チュングエンレジェンドの幹部による新商品の試飲会の様子が映されていたが、その際にもブラックではなく、コンデンスミルクが入ったものを試飲していた。



 チュングエンレジェンドでは、独特のコーヒー哲学を展開しているらしい。日本の茶道のように仏教的な世界観を取り入れ、コーヒーによって心身を保ち、禅の境地へと至る。

 あと、コーヒーによって世界平和を実現するとかいう、なんか怪しいことを言っている。


 で、なんか、茶道みたいなお茶会を開いたり、コーヒーの苗を持って体操するという妙なことをやったりしている。


 これはまあ、ブランド力を高めるための戦略だと私は解釈する。

 ロブスタ種はアラビカ種に比べてブランド力が弱い。安物のインスタントコーヒーに使われる二級品というイメージが強い。

 それを払拭するために、茶道みたいに高尚なふりをする必要があったのだろうと思う。



 そのコーヒー哲学の世界観では、コーヒーの歴史は「オスマン・ローマ・禅」に分けられるという。

 オスマンとは16世紀のイスラム圏、ローマは19世紀のイタリア、禅とはもちろんベトナムのこと。

 チュングエンレジェンドでは、この歴史を伝える博物館的なものを建てたりしているとか。


 これがコーヒーの歴史の実情を表しているかどうかは知らない、というかかなり怪しいと思うが、これも販売戦略のひとつで、ベトナムコーヒーにブランド力を高めるために歴史が必要だった、ということだと思う。



 あとは、コーヒー農園をやるようになって地域が豊かになったという話とかが紹介されていた。

 それがどうやら「コーヒーによる世界平和」という話に繋がるようだが、これはコーヒーである必要はなく、小麦でも牛でも車でも石油でもいい。経済活動が活発になれば収入が増えて生活が豊かになる、ということである。


 チュングエンレジェンドではコーヒー農家に栽培方法を指導しており、環境負荷を抑えつつ生産量を高めているのだとか。宣伝番組なので、実際どれだけその方法が環境負荷を抑えているかについては鵜呑みにはできないが。



 番組を通して観た感想としては、チュングエンレジェンドが新興宗教の入っているヤバそうな企業に見えたので、この番組が果たして本当に宣伝として良かったのか、疑問がある。


 コーヒーを茶道的に嗜んだりするのは自由だが、怪しいコーヒーの歴史を勝手に作って、それを広める博物館を作ったりするのはどうなんだろうと思う。


 "THE LINE"のときも、NEOMが宗教がかったヤバそうな企業に見える番組構成だったから、なんかよくわからないが、この案件シリーズでは、だいたいスポンサーの企業が新興宗教に見えるような演出で紹介するようである。いいのかそれで。


 ただ、ベトナムコーヒーの独特な抽出方法や飲み方については興味深い情報だった。機会があれば、ロブスタ種とアラビカ種の違いを実際に体験してみたい。

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