新しいバンドの発掘2-3 AVENGED SEVENFOLD "Avenged Sevenfold"

 AVENGED SEVENFOLDはアメリカのメタルバンド。略称は"A7X"。アメリカではかなり人気のあるバンドだが、日本ではそこまで有名ではない印象。


 まず、なぜ略称が"A7X"なのかについて説明しておく。"A7F"じゃないの? と思う人も多いだろうから。

 "AVENGED SEVENFOLD"とは、訳すと「7倍の復讐」という意味。つまり"A7X"の"X"とは掛け算の記号、倍率を意味している、というわけ。これで知ったかぶりをして"A7F"と書いて恥ずかしい思いをしなくて済むね!



 このバンドは一般的に、アルバムによってころころ曲調が変わるバンドと紹介されることが多い。しかし私が聴く限り、デビューアルバムの頃からそこまで音楽性は変わっていないように思える。

 毎回アルバムのコンセプトに合わせて曲を作っているからテイストが異なるように感じる、ということだろう。根っこのところはそこまで大きく変化しているわけではないと思う。


 ベースとなる曲調はメタルコアやエモ系だが、若干ストーリー性の強い大仰な展開を好むところがあって、必要とあれば管弦楽器やピアノなどを使うことを厭わない。それもあって、たまにシンフォニック・メタルやメロディック・パワーメタルっぽく聴こえることもある。

 デビューアルバムである"Sounding the Seventh Trumpet"でも、すでにえらく壮大なオープニング曲を持ってきているが、この傾向はその後のアルバムでもだいたい同様。


 初期はメタルコア要素が強く、スクリーモを多用していたが、3rdアルバム"City of Evil"からは正統派なヘヴィメタル寄りへとシフトし、スクリーモの使用はかなり減った。


 4thアルバム"Avenged Sevenfold"発表後にTHE REV(Dr, Vo)が亡くなり、5thアルバム"Nightmare"ではMike Portnoyが助っ人としてスポット参加している。

 これは、THE REVが生前、尊敬するドラマーとしてよくMike Portnoyを挙げていたことから、バンドメンバーが頼んでみたところ、承諾したのだそう。


 最新作の8thアルバム"Life Is but a Dream..."ではデジロックやテクノ的な要素が多用されており、若干今までとは異なる感じに。この変化がこのアルバム限定のものなのか、今後こういう曲が増えていくのかはわからない。



 私は以前からこのバンドの存在は知っていた。ただ、おすすめされる曲をいくら聴いても、そこまでいいとは思えなくて、アルバムを買ったことはなかった。10曲くらいは聴いたと思う。それでも惹かれないのだから、たぶんこのバンドとは合わないのだろうと私は思っていた。


 真野魚尾さんが紹介していたのは、4thアルバム"Avenged Sevenfold"全体で、特にどの曲がおすすめとは書いていなかった。


 https://kakuyomu.jp/works/16817330650571948914/episodes/16817330660238288298

 (真野魚尾 「37. アメリカン・メタル6選【メタル】AVENGED SEVENFOLD/TRIVIUM/RIOT Vほか」)


 ただ、"A Little Piece Of Heaven"の曲名を挙げており、これは聴いたことがなかったので聴いた。

 ……そして、これが屈指の名曲だったわけである。


 いやマジで、なんで今までこの曲をおすすめする人がいなかったのだろう。この曲はA7Xの中でも突出してデキがいい。

 もしどこかのタイミングでこの曲を聴いていたら、私は速攻でこの曲が収録されているアルバムを買っただろう。……つまり速攻で買った。この1曲だけでアルバム全体を買う価値がある。



 以下にYouTubeに上がっている公式MVのリンクを紹介するが、観る前にいくつか注意がある。


 このMVは歌詞の内容をほぼ忠実にアニメーション化した内容になっているが、その歌詞というのが、彼女が好きすぎて殺しちゃった男が、ゾンビと化して蘇った彼女に殺されて地獄に落ちる。そして男もゾンビとなって蘇り、殺し合ったゾンビ同士で結婚式を挙げるという、相当イカレたラブソングとなっている。

 そのために結構キツい描写があるが、通して観れば、この描写の必然性はわかると思う。重要なのは、男が女を殺して終わりじゃなくて、お互いに殺し合った末に「愛してます」と言うところである。1番の歌詞では"she"となっているところが2番では"he"となり、1回目、2回目のコーラスではソロで歌っているところを最後のコーラスだけユニゾンするのはなかなか感動的である。イカレているが。


 https://www.youtube.com/watch?v=KVjBCT2Lc94

 (Avenged Sevenfold - A Little Piece Of Heaven [Official Music Video])


 曲調としてはTim Burton監督のコメディホラー映画"Beetlejuice"などの音楽を手掛けたDanny Elfman的な楽曲がベースになっているが、内容が内容だけに"A Little Piece Of Heaven"の方が圧倒的に狂気度が高い。そして8分の尺で見事に曲としてもストーリーとしても完成している。


 2回目のコーラスが終わった時、なんとなくそのまま曲が終わりそうな雰囲気があるが、ここではまだ4分、曲のちょうど半分しか消化しておらず、実はここからが本番だったりする。ここから殺し合った2人が蘇って結婚する展開へと入る。

 この、終わりそうと見せかけてからの怒涛の展開は素晴らしい。



 ギターよりもホーンやストリングスが目立っているために「こんなのメタルじゃない」と思ってしまうメタル保守派もいるだろうし、そのためにA7Xで初めて聞くべき曲としておすすめされにくいのかもしれない。もしくは歌詞がヤバすぎるからかもしれないが。

 しかし、この曲がメタルじゃなくて何だというのだろう。そしてこの曲はロック史に残る傑作の1曲であることは間違いない。イカレているが。



 この曲が特にいいのは、最も静かで感動的なフレーズのコーラスの歌詞が最もイカレているところ。ハイテンションでイカレているよりも、静かにイカレている方が怖いというやつである。


 歌詞はざっと訳すとこんな感じとなる。


-------

僕のちょっとした罪は冷たいとわかっているから、君の太ももを暖めるヒーターを用意したよ。

そうだね、君は死ぬには早いよね。でもバイバイ。

よく言われるよね、「火が燃え尽きたら全てが終わったように感じるけど、実は始まりに過ぎない」って。

さあ、ベイビー、泣かないで。

------- 


 このフレーズはすんごくエモく歌われるのだが、マジキチである。最高。



 しかし、この曲を遺してTHE REVが亡くなったというのは、何か運命的なものを感じる。もともとこの曲にはそういう意味はないが、こうなると、ところどころ、亡くなった友への哀悼の意が込められているように聞こえなくもない。「彼は死んだけど、それは終わりじゃない。始まりに過ぎないんだ」という意味にも取れる。

 どちらかというと、実際に哀悼の意味が込められているのは次作の"Nightmare"の楽曲なのだが、"A Little Piece Of Heaven"の方がよほどそういう風に聞こえてしまう。THE REV自身が歌っているのも要因のひとつだと思うが。内容が内容だけに、彼が地獄から蘇って歌っているような気がする。



 アルバム"Avenged Sevenfold"収録の他の曲については、総じて悪くはないし、嫌いではない。むしろ好きな方である。だからアルバムを通して聴くのは何も問題ない。

 ただ、やはり"A Little Piece Of Heaven"が飛び抜けてよくできており、どちらかというとこの曲だけ聴きたい気持ちのほうが強い。

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