新しいバンドの発掘2-1 Thank You Scientist

 Thank You Scientistはアメリカのプログレバンド。バンドメンバーにトランペット、サックス、バイオリン奏者がいるのが特徴。その楽器構成から予想されるとおり、ジャズやフュージョン寄りのテイストの曲もやる。が、基本はあくまでロック。


 HR/HMをベースに様々なジャンルの音楽をミクスチャしていくタイプだが、いわゆるDREAM THEATERの1stアルバムのような曲調が変わる時にブツ切れになるものではなく、曲として違和感なくそれらを繋げている。

 かなり聴きやすくなっているので聴いていると気づかないが、実はかなり曲の展開は複雑で、知らない間に様々なジャンルを横断している。


 ジャンルを横断しまくりながらも自然に聞こえる曲作りはThe Dear Hunterとも共通しており、たぶんThe Dear Hunterが好きならThank You Scientistも好きだろうし、その逆も言えると思うが、やっている音楽のテイストはかなり異なる。Thank You Scientistはホーン隊とバイオリンを常に使っており、そのためにフュージョン色が強いのが特徴だが、The Dear Hunterは必ずしもそういう要素を毎回使うわけではないから、もっとロック寄りのテイストの曲が多い。


 このバンドの曲を聴いていると、様々なバンドのサウンドが頭をよぎる。The Fall of Troy、A.C.T、The Mars Volta、Happy The Man、Mats / Morganなど。

 ただ、こうした他のバンドを彷彿とさせるようなフレーズは数小節で終わることが多く、気づくと別のテイストに変わっている。

 何より面白いのは、こうして頭をよぎるバンドがみんな私好みのやつだということ。私の好きなテイストてんこ盛り。これで嫌いなわけがない。



 真野魚尾さんのところでは、Thank You Scientistはプログレ・バンドのマイ・フェイバリットの次点として挙げられていたバンドだった。

 https://kakuyomu.jp/works/16817330650571948914/episodes/16817330650571996224

 (真野魚尾「1. 名刺代わりに【私的10枚×3】メタル/プログレ/その他」)


 ここで挙げられているバンドの多くは、すでに私は知っていたが、Thank You Scientistをはじめとするいくつかは知らなかった。

 そこで私は、とりあえずYouTubeで検索して、ヒットした"Mr. Invisible"を聴いた。2ndアルバム"Stranger Heads Prevail"収録の曲。


 https://www.youtube.com/watch?v=3ncTSGFKWz8

 (Thank You Scientist - トピック "Mr. Invisible")


 そして、30秒くらいで試聴するのをやめた。これは明らかに買うべきバンドであり、もう試聴する必要はないと判断したからである。


 この曲のイントロは、上モノはジャズっぽいが、ドラムパターンはロックしている。つまり、基本的にはロックだがジャズテイスト、ということ。そしてトランペットとサックスがいる。音からして、このホーン隊はゲストではなくバンドメンバーだろうということが予想された。

 そして、この時点ですでにホーン隊のフレーズとギターリフ、ベースラインの絡みが素晴らしい。ここから駄作になる展開など考えられない。


 実のところ、私は試聴した時、40秒くらいから入るヴォーカルの部分を聴いていなかった。だからインスト曲なのかな? と予想していたので、この曲を購入してちゃんと聴いた時、ヴォーカルが入ったのには少し驚いた。しかし、ヴォーカルが入ることは全くマイナスではなかった。



 この曲の展開は複雑だが、新しい展開に入った後はちゃんと印象的なコーラスに戻ってくるために、あまり複雑な印象を与えない。プログレにありがちな、曲の展開が迷子になるような感じがない。実によくできている。


 また、ロック要素とジャズ要素のバランスも絶妙。序盤でホーン隊やクリーンギターが演奏しているリフは、繰り返し演奏される度に楽器構成が代わり、中盤の最も盛り上がるところ(マイナーに転調した後)ではディストーションギターが演奏している。ここが最もこの曲でメタルになる部分だが、そこで演奏されるのがサックスソロというのが泣ける。



 "Mr. Invisible"は比較的複雑さは抑えめの曲になっているが、たとえば1stアルバムの"Maps of Non-Existent Places"のTr2、"A Salesman's Guide to Non-Existence"は、かなり複雑。


 https://www.youtube.com/watch?v=qfh51HrD5U4

 (Thank You Scientist - トピック "A Salesman's Guide to Non-Existence")


 どれだけジャンルが混ざってるんだか、もはやわからないが、少なくともエモ、メロディアス・ハードロック、テクニカルメタルの要素はある。そのロック系のフレーズをホーン隊やバイオリンがやっているのが、このバンドのサウンドを特徴付けている。普通ならギターがやるようなフレーズをホーン隊がやっている。

 ブリッジ……と言うとブリッジだらけでどのブリッジだよとなってしまうが、ともかく途中でサンプリングドラムパターンも入ってるから、若干テクノ要素もある。

 そしてこの曲も、ジャンルを横断した後は必ずプリコーラスからコーラスに帰ってくる展開になっており、それによって曲の構成がまともに聴こえるようにしている。


 1stアルバム"Maps of Non-Existent Places"はこの曲のように、ややロック寄りの曲が多め。

 2ndアルバム"Stranger Heads Prevail"は若干フュージョン要素が強くなっている。


 3rdアルバム"Terraformer"は、テクノ要素がより使われるようになり、ところとごろクラシック要素も使われている。また、わりと本格的なジャズ要素のある曲もあり、多様性がだいぶ増した。

 テクノ要素が多いのは、アルバムのコンセプトがテラフォーミングという宇宙的なものだからだろう。

 ただ、根っこのところでは変わっておらず、結局のところ3作ともテギは安定している。


 というわけで、買うなら3枚とも買ってしまって問題ない。1曲好きなら全部好きだろう。

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