新しいバンドの発掘その4 Unlucky Morpheus

 Unlucky Morpheus。通称あんきも。「あんきも」になるようにバンド名を付けたので、正式名称には意味がない。むしろあんきもの方が正式名称みたいなもんである。2008年結成。

 もともとは東方をはじめとした既存曲のメタルアレンジをするバンドだったが、私が知らない間にオリジナルもやるようになっていたようである。


 現在のバンドメンバーは、紫煉(Gt, スクリーモVo, バンドリーダー)、Fuki(Vo)、仁耶(Gt)、Hiroyuki Ogawa(B)、FUMIYA(Ds)、Jill(Vn)の6人。スクリーモとクリーンのツインボーカル、ツインギターにバイオリンという厚い構成。

 バンドリーダーの紫煉は腱鞘炎に悩まされているそうで、ライブではスタンド付きギターを使用し、スタジオ音源でもギタープレイでの出番は控えめになっているようである。


 調べた限りだと、事務所に所属しておらず、自分達で全部やっているらしい。

 バンドが事務所やレーベルに所属すると、諸々の事務や宣伝や制作や販売や雑用やその他をやらなくてよくて楽な反面、活動に制限がかかり、自分たちのやりたいようにできず、やりたくないことをやらされ、利益をごっそり持っていかれることになる。

 今だと宣伝やCDの制作も自分たちでやりやすくなっているし、CDを作らずMP3専売にするならより楽なことを考えると、事務所に縛られずにやれるものならやった方がいいと思う。



 私にとってこのバンドは、厳密に言うと今回新たに発見したバンドではない。以前から知っていた。ただ、東方アレンジを主としてやっていた頃には興味がなかった。


 また、今回YouTubeのリアクション動画で聴いたのも、東方の曲をヴォーカルアレンジしたもので、その曲は特に惹かれなかった。


 ただ、それきっかけでYouTubeで検索すると、あんきものサイドプロジェクトであるQuadratumがYngwie Malmsteenの"Far Beyond The Sun"をカバーしているMVが出てきた。


https://www.youtube.com/watch?v=E2hZDzJp9Pc

(【Cover】Yngwie Malmsteen - Far Beyond The Sun (Violin Cover))


 "Far Beyond The Sun"はギタリストの定番コピー曲で、譜面通りに演奏できる人は結構いる。ただ、初期のイングヴェイの特徴は、バイオリンを思わせるような独特の音色にあって、これを再現できる人は滅多にいない。おかげで、リスナーが納得できるようなカバーを作ることが難しい曲でもある。


 バイオリンっぽい音色なんだからバイオリンでやったれという発想もあるにはあったが、うまくいったと言える例を、私は知らない。音はバイオリンっぽくても、演奏ではギターならではの奏法が駆使されており、バイオリンで弾くことなど全く考慮されていない。それを無理やりバイオリンで演奏しても、"Far Beyond The Sun"っぽい別の何かにしかならないのである。


 Quadratumのアレンジは、この曲のギターパートをバイオリンで演奏するものとしては、ほぼ完璧なものと言っていいだろう。単に演奏技術が優れているだけでなく、ギターのフレーズをバイオリンに落とし込み、完コピに聴こえるようにしているアレンジが素晴らしい。

 優れたバイオリニストはたくさんいるが、メタルの文脈に合った演奏ができる人は少ない。ピアノが弾けるからキーボーディストになれるわけではないのと同じ。


 そして、これこそ、イングヴェイが目指した音色の完成形なのだと思う。彼はこういう音をギターで出したかったのである。



 Quadratumのアルバム"Loud Playing Workshop"は、全曲バイオリンカバーとなっており、Van Halen"Eruption"、Dream Theater"The Dance of Eternity"、Steve Vai"For the Love of God"など、テクニックを披露したいギタリストがやるコピー曲としては定番だが、それをバイオリンでやるの? という曲目が並んでいる。

 知っている曲が1曲でもあるなら、これは買って絶対に損はない。このアルバムのカバーはどれも質が高い。


 もちろん、ギター、ベース、ドラムパートの質も高いが、このアルバムの主役は誰が聴いてもバイオリンである。



 オリジナル曲についても、Jill加入後のものは格段に質が高くなっている。これは、優れたバイオリニストがいることを前提に曲が書けるようになったことが影響しているだろう。


 もともとこのバンドは、Fukiのヴォーカルが強すぎて楽器隊の存在感が薄くなっているところがあったのだが、ギターを食えるだけのスター性のあるバイオリニストの加入でバランスが取れてきたように思う。

 特にそれが現れているのが、最新アルバム"evolution"収録の楽曲。このアルバムの曲はいままでのあんきもの曲調とだいぶ異なるが、それ以上に重要な変化は、ヴァイオリンをより効果的に使うようになっていること。せっかくスター性のあるメンバーを抱えているのだから、使わないのは損である。



 あんきもはかなりの枚数のCDをリリースしており、初期のものは廃盤で入手困難になっているが、私のような新参者かつ東方アレンジ等に興味のない人があんきもの曲をチェックする場合、最新のアルバム3枚、"CHANGE OF GENERATION"、"Unfinished"、"evolution"をチェックするだけでいい。


 最初に買うなら"CHANGE OF GENERATION"がいいと思うが、広く受けそうなのは"Unfinished"収録の"Unending Sorceress"。


https://www.youtube.com/watch?v=PCv3s0T4bx0

([Official Video] Unlucky Morpheus - 「Unending Sorceress」)



 あと、この"Unfinished"には、ANGRAの創設者、Andre Matosの追悼曲である"Carry on singing to the sky"が収録されている。別にANGRAの曲のカバーとかではないのだが、聞けばすぐわかるANGRAらしさ。クラシックからの引用があるのも初期のANGRAらしい(シューベルト『交響曲第8番 未完成』とパガニーニ『24の奇想曲 24番』。他にもあるかもしれないが)。さすがにもともとアレンジ曲バンドだっただけあって、こういう曲作りは本当にうまい。


https://www.youtube.com/watch?v=UlpAWv1PQ8w

[Official Video] Unlucky Morpheus - 「Carry on singing to the sky」

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