新しいバンドの発掘その2 BAND-MAID

 BAND-MAID。2013年結成。

 バンドメンバーが全員メイド服を着ているバンド。アニメやスポーツ番組で楽曲が使われたりしているようで、そこから知った人もいるだろうが、私はほとんど地上波を観ないから知らなかった。


 YouTubeのリアクション動画を観なければ絶対に知り得なかったバンドである。仮に何かのきっかけでこのバンドの存在に気付いても、こんな名前の、こんな格好をしたバンドがガチでハードロックをやっているなんて絶対にわからなかっただろう。


 観客を「ご主人様、お嬢様」と呼び、ライブの休憩時間にメイド喫茶を思わせる謎のパフォーマンスをやっていたりするが、楽曲や演奏にはそういう要素は一切ない。

 こうしたパフォーマンスは一見すると事務所にやらされてる感があるが、バンド創設者の小鳩ミク(Gt, Vo)主導による自主的なものらしい。彼女の趣向に他のメンバーが付き合っているというのが実情のよう。


 結成当初は外部の作詞者、作曲者によって提供された楽曲を演奏しており、方向性も定まらず低迷していたが、2014年に"Thrill"のMVが海外のサイトで取り上げられて有名になり、それをきっかけにハードロック路線で行くことにし、曲も自分たちで書くようになった。


https://www.youtube.com/watch?v=Uds7g3M-4lQ

(BAND-MAID /Thrill(スリル) (Official Music Video))


 一見するとメイド服を着てハードロックをやるというギャップが受けたように見えるが、その要素は実際にはあまり重要ではない。メディアで取り上げられるときには重要かもしれないが、HR/HMリスナーにとってはどうでもいいことである。


 海外で"Thrill"が受けたのは、ベースソロがあったからだと思う。

 楽曲にギターソロがあるのは普通だし、ドラムソロを入れることもままあるが、ベースソロは珍しい。バンドにうまいベーシストがいて、かつ、バンドがベースを重要視していないと、こういうことはありえない。


 実際、このバンドのリズム隊はうまい。しかも、そのうまさが渋い。手数で圧倒するのではなく、逆に手数を減らすことで効果を出している。

 ドラムは、音を聞けば、手数が少ないことでフィルをより効果的にしていることはわかると思うが、ベースのテクニックは解説を要するだろう。


 ベーシストのMISAはピックで弾いているが、途中でスラップ奏法に切り替えることがある。映像で確認すると、人差し指でピックを保持したままスラップをやっていた。これは誰にでもできることではない。しかも、ピックからスラップ、スラップからピックへの切り替えがめちゃくちゃスムーズ。あまりにも普通にやっているから、それがハイテクだと気づかないくらいである。

(註・"Thrill"のMVでは手弾きしているので切り替えは確認できない。それが見られるのは別のMVやライブ映像でベーシストの手元が映ったとき)


 ベーシストには、ピック弾き派と手弾き派の仁義なき抗争がある。手弾き派は、ピック弾きは多様な奏法の切り替えがしづらく、音がつまらなくなる、結局、テクニックのない奴がピックで弾くんだと主張することがしばしばあるが、ピック弾きでこれだけスムーズにスラップ奏法に切り替えられたらぐうの音も出ないだろう。



 このバンドの特徴は、トータルバランスが優れていること。どのパートもスタンドプレーに走らないが、同時にどのパートも埋もれていない。楽曲の中にソロパートを取り入れていることは多いが、どのソロも短めで印象的なものになっている。

 そうしたバランスの良さが特に現れているのが、インスト曲があること。たいがいのバンドにはインスト曲はなく、ヴォーカルの休憩中はアドリブソロをやる。個々の技術を披露する場を用意するわけである。

 しかしこのバンドはインスト曲をやる。このことからも個人技よりも楽器隊の連携を重視していることが窺える。


 ただ、これらインスト曲は、初回限定盤のDVDにのみ収録されていたり、逆に通常盤CDにのみ収録されていたりしてややこしい。


 まず、"onset"は、アルバム"CONQUEROR"の初回限定盤のDVDまたはBlu-rayにのみ収録。


https://www.youtube.com/watch?v=mVrN-j_Uc0U

(BAND-MAID /onset (Official Music Video))


 "Without Holding Back"はアルバム"Unseen World"の通常盤に収録。Blu-rayが付属する完全生産限定盤には収録されておらず、代わりに"Youth"というヴォーカル入りの曲が収録されている。

 DVDが付属する初回生産限定盤のCDには"Without Holding Back"は収録されておらず、DVDの映像特典として収録されている。

 ややこしい。こういう売り方はやめていただきたい。

 なお、Amazonの"Unseen World"MP3版には"Without Holding Back"も"Youth"も収録されていないので買ってはいけない。CDを買うべき。


 "Without Holding Back"はスポーツ番組のテーマソングに使用されたかしたとかで、その影響か、Youtubeの公式チャンネルからは削除されている。



 "from now on"はアルバムの"Unleash"のどの盤にも収録されている。わかりやすい。というかそもそもそうあるべきである。


https://www.youtube.com/watch?v=a6ZSvmnkS00

(BAND-MAID / from now on (Official Music Video))



 このバンドはライブパフォーマンスが高く、スタジオ音源よりもライブ音源の方が良かったりする。なので、アルバムを買うよりはライブBru-ray(DVD)を買ったほうがいいかもしれない。主要な曲は演奏されているし、"onset"などのインストも演奏されている。特典なしにすればそんなに高くないから、アルバムを買うより得ですらあるかもしれない。


 とりあえずは2020年のライブ映像「WORLD DOMINATION TOUR 【進化】at LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)」をおすすめする。


https://www.youtube.com/watch?v=QbyQCJn6rYg

(BAND-MAID / DOMINATION (Official Live Video))


 スタジオ盤は、初期のアルバムは方向が定まっておらず、イマイチなので買う必要はない。

 最初に買うなら"WORLD DOMINATION"。

 あとは以後のアルバム、"CONQUEROR"(DVDかBlu-ray付き)、"Unseen World"(通常盤かDVD付き)、"Unleash"を押さえておけばいい。

 ただ、"CONQUEROR"はダルめの曲が多いので、優先順位は低めとなる。"CONQUEROR"を買うなら基本的には"onset"目当てで。


 2023年8月にベスト盤が出たが、インスト曲は入っていないし、重要な曲が抜けていたりもするので、あんまりおすすめしない。

 ただ、ベスト盤には"Thrill"をはじめとした初期のアルバムからの選り抜きやシングルのみに収録されていた曲が収録されているので、これらを目当てにするならあり。

 ベスト盤はリマスターされているが、大差ないので、音質の改善を期待しては買わないほうがいい。

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