新しいバンドの発掘シリーズ

新しいバンドの発掘その1 LOVEBITES

 私はここ10年ほど、新しい音楽の発掘を怠っていた。買ったアルバムはほとんど既知のバンドの新作のみ。


 だいぶ曲探しをサボっていたので、そろそろ最近の情勢を知っておきたいなと思っていたのだが、ちょうどいいものを見つけた。

 最近はYoutubeで、海外のミュージシャンや音楽関係者が楽曲に対するリアクション動画をよく公開しているのである。たぶんCOVID-19の影響で自宅待機を強いられたミュージシャンが多かったことが原因のひとつだろう。


 その多くは素人でも言えるようなことしか言っておらず、はっきり言って観る価値がないが、中にはちゃんと専門知識を活かして有益なコメントをしている動画もある。

 ただ、リアクション動画の内容や質はこの際どうでもいい。私の知っている曲にリアクションしている動画を見つけ、その人が反応している知らないバンドの曲を片っ端から聴いていけば、最近話題になっているバンドや曲をざっと聴くことができる、という寸法である。


 この手を使い、私は相当数の未知の曲を試聴した。数えていないが200曲は聴いたと思う。それで、いくつか購入に値する楽曲を見つけた。



 というわけで、発掘第一弾はLOVEBITES。

 元DESTROSEのmiho(B)が同じく元DESTROSEで休業中だったharuna(Ds)を連れて2016年に結成したガールズバンド。ただ、一部の楽曲にはLIGHT BRINGER(現在活動休止中)の山本真央(key)が関わっている模様。

 バンド創設者のmihoが2021年に脱退してしまったが、新たにオーディションでfami(B)を加入させてバンドは継続。


 このバンドに注目するとき、多くの人はガールズバンドであることに目が行くだろう。しかし、ガールズバンド自体は別段珍しくない。知られていないだけでガールズバンド自体は結構あるし、その中にはLOVEBITES以上にヘヴィな曲をやるバンドもある。ハイテクな演奏技術を有する女性ミュージシャンもたくさんいる。

 ただ、LOVEBITESほど成功したガールズバンドはほとんどなかった、というだけである。


 で、肝心の楽曲はこんな感じ。


https://www.youtube.com/watch?v=-wJtD2XEXH4

(LOVEBITES / Glory To The World [MUSIC VIDEO])


 LOVEBITESの楽曲は、80~90年代のスラッシュメタルやメロディック・スピードメタルを復活させたようなものになっている。曲によってMETALLICA風だったりSLAYER風だったりANGRA風だったりする。"Glory To The World"はANGRA風の曲。

 ただ、音域の埋め方がうまくて、ANGRAよりも楽曲の完成度は高い。メロスピバンドにはキーボーディストがいないことが多く、そのためかバックトラックのシンセパートをうまく使えていないことがしばしばあるが、楽曲製作に山本真央が参加している影響か、このバンドのシンセワークは巧みである。


 日本ではエモ・スクリーモやミクスチャ系のバンドが多く、メロスピをやっているバンドは少ない。ゲーム音楽にはあるのだが、バンドとしてそれをやるところは少ない。

 また、80~90年代のスラッシュ、メロスピバンドの多くは、商業的な曲を書くようになったり無駄に複雑な曲を書くようになったりしてファンが失望した経緯があり、その手の曲をやるバンドは日本だけでなく、欧米でも渇望されている。そうしたニーズをLOVEBITESはうまく拾っている。それが成功している理由だろう。


 日本でこの手の曲をやるバンドにはGALNERYUSがあるが、GALNERYUSは曲の展開が無駄に複雑で冗長なことがしばしばあるのが問題。メロスピは下手に長くして失速させるくらいだったら短くまとめた方が絶対いい。

 これを言うとたぶんファンに殺されると思うが、私はここ10年くらいのGALNERYUSで一番いい曲は"ANGEL OF SALVATION"収録の"LAMENT"だと思う。GALNERYUSの良さが凝縮されつつも全く無駄のない素晴らしい構成。


https://www.youtube.com/watch?v=KffSdizI6SI

(LAMENT)



 LOVEBITESは曲のバラエティを出しつつも、いまのところ、自分たちのスタイルから逸脱しすぎずに、1stアルバムから一貫しておいしいところで曲を作り続けている。ざっと聴くと似たような曲ばかり並んでいるように感じるが、それぞれアプローチが異なっていて、個々人の好みによって、どれか1曲はぴったりはまるようになっている感じ。変にバラエティを持たせようとして無駄に長い曲やバラードを入れるよりはずっといいと思う。



 このバンドの楽曲で不満なのは、スタジオ音源のギターソロの定位がどちらも同じなこと。このバンドのウリのひとつは、スタイルの異なる2人のギタリストがソロを途中で受け渡して交代することなんだから、それぞれのソロは定位をずらすべきだろう。何を考えてこういうミキシングにしているのかは謎である。ありえん。


 実のところ、ソロの受け渡しがあるのに定位が同じなのは、このバンドに限らず、たいがいのバンドのスタジオ盤でそうなっている。

 しかし、この「常識」は絶対間違っていると思う。どのバンドもライブではちゃんと定位をずらしており、その方がよく聞こえるからである。だったらなぜスタジオ盤でも定位をずらさないのか。


 ただ、この問題は最新アルバムの"JUDGEMENT DAY"収録の一部の曲では解消されていた。今後は全部の曲で定位をずらすミキシングにしてくれたらいいのだが。



 現在発売されている1st~4thアルバムのデキは総じて安定しているので、どれを買っても損はしないと思う。

 ただ、最初に買うならミニアルバムのほうがいいかもしれない。フルアルバムの楽曲はメロスピ系の曲が多いのに対し、ミニアルバムにはメタリカ風やスレイヤー風の曲が多く、このバンドのルーツがわかりやすく出ている。

 というわけで"GLORY, GLORY, TO THE WORLD"か"BATTLE AGAINST DAMNATION"を勧めておく。このミニアルバムの楽曲はフルアルバムの収録曲と被っていない。


 ミニアルバムで楽曲が被っているのは"THE LOVEBITES EP"のみ。このミニアルバムに収録されている楽曲は1stアルバム"AWAKENING FROM ABYSS"に収録されている。"THE LOVEBITES EP"は現在入手困難で、私も聴いたことがないが、"AWAKENING FROM ABYSS"収録版は再録音しているかリマスターしており、全く同じ音源ではないと思われる。が、特別問題はないだろう。苦労してまで"THE LOVEBITES EP"を入手する理由は、普通のリスナーにはない。


 フルアルバムには通常盤と初回限定盤があり、限定盤にはライブ映像を収録したDVD(Blu-ray)が付属。"JUDGEMENT DAY"の初回限定盤には新ベーシストのfamiとのセッション映像が収録されている。

 これらの映像は無理して観るほどではない。収録されているライブは全体的には悪くはないが、若干演奏に怪しい部分もある。


 ライブ映像が観たいなら、アルバムの初回限定盤を買うよりも、そのお金で2020年Zepp DiverCity Tokyoでのライブ映像を収録した"FIVE OF A KIND"の購入をおすすめする。これに収録されたライブパフォーマンスはほぼ完璧。そしてギターソロの定位がちゃんと分かれている。……なぜそれをスタジオ盤でやらないのか。

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