ぺんてる Ain(シャー芯)

 ぺんてるは23年1月にシャー芯をリニューアルした。その名もAin。

 ……ぺんてるは以前にもAinという名前のシャー芯を出していたから紛らわしい。私は今でも旧型のAinを持っている。



 旧Ainは2000年頃に発売した。当時のぺんてるは、ハイポリマー100だのハイポリマーフォープロだの、いろんな銘柄のシャー芯を出しており、どれがどう違うのか、どれを買えばいいのかさっぱりわからなかった。

 ただ、それは他のメーカーも同じだった。とにかくメーカーがいろんな名前のシャー芯を出していて、何を買えばいいのかさっぱりだった。


 その後、Ain STEINが登場し、ぺんてるのシャー芯はAin STEINに統一された。

 ぺんてるだけでなく、他のメーカーもシャー芯の銘柄を統一する動きが見られ、シャー芯はずいぶん買いやすくなった。


 そして2023年、ぺんてるがAin STEINに変わる新シャー芯を発表した。それが今回の新型Ainである。



 先祖返りしたみたいであまりいいネーミングとは思えないが、ともかく試しに買ってみようかな、と思って……いたのだが、ここ半年ほど、立ち寄った文具屋ではどこも仕入れていなかった。どこもまだAin STEINが大量に余っていて、新たにAinを仕入れる余地などなかったのである。


 最近、ちょっと都会に用事があったついでにロフトに立ち寄り、ようやく見つけることができた。



 ぺんてるのシャー芯のケースは、開閉機構が無駄に凝っていて、開け方が分かりづらいのが特徴。今回もなかなかの変態機構となっている。

 買ったらまず"HB"とかでっかく書かれているシールを剥がし、ケースを下にスライドし、それから横にスライドする……のだが、これ、一発でできた人はあんまりいないと思う。

 わかってしまえば簡単だが、最初は「はあ? どうやって下にスライドするの?」となるだろう。

 これは、文章では説明しづらい。とにかく、正しくやれば力を入れずにスライドできるから、無理に引っ張ったりして割らないように注意。


 コツは、側面を持たないようにすること。裏面に人差し指、表面に親指を添えて、親指をそっと下に引けばいい。



 実際に使ってみての感想だが、まず、クルトガやアドバンスとは相性が悪いことがわかった。


 クルトガやアドバンスなど、書く度に自動的に芯が回転する機構を持っているシャーペンでAinを使うと、あんまりなめらかでもないし、書きはじめに変な筆記抵抗がかかる。


 私は最初、Ainをアドバンスに入れて使ったが、あまりの使い勝手の悪さに「これが本当に新型? なんでわざわざAin STEINより書き味の悪いシャー芯を開発したんだ?」と、心底疑問に思った。



 あまりに変だったので、もしかするとクルトガ機構と相性が悪いのかも知れないと思い、今度はグラフ1000に入れてみることにした。これはぺんてるが、かつてはプロ仕様の製図用シャーペンとして出していたもの。今では主に学生が格好を付けるために買うものになっている。



 グラフ1000に入れたAinは、全く別物の書き味になった。力を入れなくても筆跡は濃いし、書き味は異次元のなめらかさ。

 ぺんてるシャー芯の特徴である、金属っぽい感触はなくなっている。どちらかというとneox GRAPHITEに近い書き味だが、neox GRAPHITEは柔らかいなめらかさなのに対し、Ainは硬いなめらかさで、比較するとキャラクターは大きく異なる。


 今までは筆跡の濃さと書き味のなめらかさではPILOTのneox GRAPHITEが一歩抜き出ていたが、Ainはそれを超えてきた。

 もし店頭でテスターがあるなら、ぜひ試し書きしてみるといい。この滑らかな書き味は、今まで味わったことのないもののはずである。すごい。


 芯の強度はAin STEINと同等と考えていい。ライバルと比較すると丈夫な方。

 そもそも力を入れなくてもちゃんと書けるから、芯折れ防止機構のないシャーペンの0.3mmでも折らずに問題なく使えるが、多少力をかけてしまった場合も、多少は保ってくれる。とはいえ、0.3mmはさすがに折れるときは折れるわけだが。0.5mmだとかなり丈夫になる。


 問題は、芯が尖った部分で書いたときの書き味はいまいち、ということ。引っかかるし、紙に刺さることもある。

 クルトガ機構と相性が悪かったのはそのため。クルトガ機構は常に芯の尖った部分で書けるようにすることを目的に開発されたものだが、Ainはなるべく尖ったところで書かないほうがいい。



 Ainはぺんてるらしいシャー芯と言える。ケースは変態だし、使い勝手にクセがあるが、ハマればめちゃくちゃ高性能。

 気難しさやシャーペンとの相性問題があることをわかった上で、最高の書き味を手に入れたいなら、Ainはおすすめできる。


 そんなピーキーな高性能は必要ないから、常に安定して使えるシャー芯のほうがいいなら、neox GRAPHITEの方が扱いやすい。



 私は主にアドバンスを使っているが、アドバンスではAinは使えない。地獄のような酷い書き味になる。変な話だが、三菱の芯とも相性が悪い。三菱のシャーペンなのに。

 というわけで、アドバンスには従来どおり、neox GRAPHITEやAin STEINを入れるしかない。


 ただ、新型Ainの書き味は素晴らしいし、せっかく買ったら使わないのもなんなので、しょうがないからグラフ1000を現役復帰させることにした。


 まさかグラフ1000の0.3mmがまともに使えるようになる日が来るとは思っていなかった。

 これは随分前、大学生だったかの時に買ったものだが、当時の私は鉛筆派だったこともあって筆圧が高く、0.3mmの芯なんかボキボキ折ってしまって全く使い物にならなかった。そのため、せっかく買ったのにろくに使うこともなく、引き出しの奥に長いことしまっていたのだが、今頃になって現役復帰である。


 新型Ainを入れたグラフ1000の書き心地の良さは本当にすさまじい。力を入れなくてもちゃんと書けるから、芯が折れることもない。

 ただ、書いているとすぐに芯が摩耗してしまうから、しょっちゅうペンをノックすることになる。


 そこで、オレンズネロの出番、ということなのだろう。オレンズネロは自動的に芯が繰り出されるから、ノックする必要がない。この極上の書き味を、ノックすることなく味わい続けることができる、というわけである。


 自社のフラッグシップシャーペン向けにシャー芯を開発するのは、メーカーとしては正しい。

 むしろ三菱鉛筆がおかしい。なぜ三菱はクルトガと相性の悪いシャー芯ばかり出すのか。クルトガ専用ナノダイヤなんてのも出したことがあったが、結局やっぱり書き味が悪かった。


 もっとも、シャリシャリした書き味が好きという人もいるらしいから、そういう人向けのシャーペンとシャー芯、ということなのかもしれない。

 三菱のシャー芯をクルトガに入れると、しょっちゅうシャリシャリする。私はシャリシャリ嫌いだから相性最悪と感じるのだが、あれが好きな人にとっては天国なのかもしれない。ということは、三菱もちゃんと自社のシャーペンと相性のいいシャー芯を開発している、ということに……なるのか。納得いかないが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る