ゴールデンウィークにおける人々の行動と考察

 私はゴールデンウィークに混雑する可能性を考慮して、4月28日に10日分の食材を買っておいた。


 肉類は1食分ずつに分けて冷凍しておく。生魚は買い溜めできないから、食べたいなら缶詰にする。野菜も、冷凍できるものは適切にカットして冷凍。

 冷凍麺と乾麺も補充。冷凍のうどんとそば、乾麺はそうめん、ひやむぎ、うどん、パスタを完備。突然何が食いたくなっても即対応可能。

 冷凍の餃子も用意。どうしても料理をしたくないが、がっつりは食いたい時は、フライパンで冷凍餃子を焼くだけでお手軽餃子パーティーができる。

 もちろん、ごはんも常備。余分に炊いて冷凍したものもあるし、パックのごはんもある。

 これでGW中に買い出しに行く必要はなく、最低限の外出だけで済むはず。


 とはいえ、観光地から遠く、特別楽しい何かがあるわけでもない近所が、GWだからといってそれほど混むこともないだろうなとも思っていた。観光客が行き来することで道路は混むかもしれないが、近くのしょぼいショッピングモールとかは大して混まないだろうと。



 そう思って29日。何の気なしにそのショッピングモールに用足しに行った。


 めちゃくちゃ混んでいた。

 普段なら閉鎖されて使われていない屋上駐車場にまで車がかなり停まっているという異常事態。


 ……いや、君たち、せっかくの連休になんでこんなしょぼいモールに来てるのよ。


「せっかくの連休だし、家族みんなで安売りの野菜を買いに行こうか!」


「うわーいやったー!」


 とか、そんなやりとりでもあったの? こんなところに来ても何も楽しくないよ? それでも来たけりゃせめて普通の休日にすればいいじゃないの?


 まさか、私と同じく、肉の日特売目立てなのか? と、ちょっと思ったが、スーパーは特に混んでいなかったし、特売品は普通に買えた。

 結局、何が楽しいかはわからないが、彼らはGWだからと浮かれて、こんなどうでもいいショッピングモールに這い出てきたらしい。それで何をしたのかは知らないが。100円ショップで爆買いとか、安いうどん屋で食い放題とかしたのか?

 休日に何をするかは人の勝手だからどうでもいいけど、なんでせっかくのGWに、こんなモールに来なきゃならんの? まあ、そういう私ものこのやって来た一人なのだが。


 帰り道もさんざん渋滞に巻き込まれ、いつもなら5分で帰れる道のりを何十分もかける羽目になった。



 30日。昨日のショッピングモールで懲りた私は、車を使わないことにした。歩いてガストに行くことにした。

 歩きなら渋滞には巻き込まれないし、連休だからとガストに来る人はそういないだろう。ガストだし。


 近所のガストについては何度か雑記で触れているが、休日でもわりと空いている。休日昼よりも、朝に近所の老夫婦がモーニングを利用するほうが多かったりする。

 というわけで、せいぜい普段の休日よりちょい多いくらいを想像していた。



 めちゃくちゃ混んでいた。ほぼ満席。こんなに客が入っているガストを見るのは10年来かもしれない。

 お好きな席にどうぞとは言われたが、さすがにこんな日に1人で4人掛けを使うわけにもいかんだろう。というわけで、大人の判断で自粛して2人掛けに。



 配膳にゃんこロボもフル稼働で働いていたが、例によって何もないところで立ち往生し、結局店員の手を煩わせていた。……本当になんでこいつら、しゃぶ葉のロボのように働けないんだろう。ガストのロボがガチャ自販機に向かって「どいてほしいにゃん」と言っている間に、しゃぶ葉のロボは2体で連携して道を譲り合うまでに進歩しているのに。


 余談だがその話もしておこう。最近しゃぶ葉に行くと、肉を運ぼうとするロボ1号と、肉を運び終えて帰ろうとするロボ2号が、そのままお互いが目的地に行こうとすると途中で鉢合わせするシチュエーションがあった。

 すると、ロボ1号はT字路の邪魔にならないところで待機し、2号が通過するまで待っていた。つまりこいつらはお互いのルートを把握していて、鉢合わせしないように道を融通し合っているのである。

 一方、バーミヤンのにゃんこどもは普通にお見合いして、お互いに「どいてほしいにゃん」と譲り合わず、発情期にうっかり出会ってしまった野良猫のようににらめっこしていたりする。ある意味バーミヤンのロボのほうが猫らしいとも言えるが、この差はなんなのだろう。本当に謎である。どのロボも同じ型のはずで、むしろしゃぶ葉の方が先に導入されたのだから古い型の可能性だってある。なのになんでしゃぶ葉のだけ目に見えて高性能なんだ?



 私はGWクーポンで500円の彩り野菜の黒酢から揚げのみを頼むという客単価最悪の極悪注文をしつつ周囲を観察すると、どうやら子連れの家族客が多いようだった。お子さまランチのパンケーキか何かを残そうとしている我が子に対し、「それが食べたくて来たんちゃうんか?」とか恩着せがましいことを言って脅迫している父親とかがいる。

 メニューを見ると、キッズパンケーキの値段は500円だった。私が今食っているもんと同じ。まあ、私のはクーポンを使って安くしているわけだが。


 しかしだね。GWにたかだか500円の食い物を食わせておいて、せっかく頼んでやったんだから残すなとか脅すってどうなのよ。数年ぶりの自粛なしのGWなんだろ? それなのにガストでいいんか? 子供よ、あんた絶対騙されているぞ。そもそもガストに連れて行かれている時点で騙されているってことに気づくべきだぞ。お伊勢詣りを名目にランチに松阪牛を要求しろとまでは言わんが、せめてひらパーとかに連れてってもらったって罰は当たらんと思うぞ。


 つまり、今、ここに来ているお子様はみんな騙されているわけである。遠出するでもなく、ちょっと贅沢なランチをするでもなく、近所のガストなんかに連れられて、安いランチで済ませられているわけである。そうこうするうちに貴重な少年少女時代は過ぎ、しょぼくれた大人になって、金がないからたまの贅沢はガストでランチという人生を歩むことになるわけである。その時はじめて、自分が両親に騙されていたことに気づくことになる。子供の頃、連休にガストに連れていかれて、やっすいパンケーキを残して怒られたもんだなあと、日替わりランチを食いながら思い返すことになるわけである。そう思うと哀れである。そのやっすいお子様ランチと同額のランチを食っている奴に言われたくはないだろうが。



 5月1日。昨日のガストの混雑ぶりに懲りなかった私は、再び昼にガストに行くことにした。500円クーポンで昼飯が食えるならお得だからである。今日も500円で昼飯を食うぞ! せっかくの連休だし、お出掛けもしたいしね!

 どうせやっぱり混んでいるんだろうと、そこは覚悟して行った。


 空いていた。普段の平日と同じだった。



 まさかと思い、昼飯後、例のしょぼいショッピングモールにも行ってみた。


 空いていた。普段の平日と同じだった。



 これはどういう現象なのか、私は考えた。考えに考え抜いき、出た結論はこうだった。


 29日、30日にぞろぞろと出てきたのは、せっかくの自粛明けの連休だから、連休気分を味わいたいけれど、かといって遠くに出掛けるとか、旅行するとか、特別なことをするほどには資金なり気力なりに余裕がなく、それで近所のモールだのガストだので妥協した人々だったのだろう。


 一方、5月1日、2日に有給を取ってまで連休にするほど気合いの入った人々は、やはり、近所のしょぼいモールやガストなんかには来なかったわけである。もっと連休にしかできないような体験をするために、特別な場所に行き、特別なものを食い、特別なアトラクションを楽しんでいる。


 これが格差社会なのか……と、日本の行く末が心配になった。



 しかし、5月3日。明らかに街の様相が変わった。

 性懲りもなくGWクーポン目当てで昼に歩いてガストに行くと、ガラガラだった。誰もいない。普段ならじいさんばあさんは必ずいるし、休日なら子供連れが1組くらいはいるものなのに、誰もいない。正真正銘、客は私だけ。


 店内から見える車の流れも、普段は大阪方面に流れる車の方が多いのに、今日は目に見えて京都方面だけが大渋滞。


 しかも、ガストの日替わりスープがよりにもよって洋風トマトスープ! くそっ、今日はスープ当たり日だったのか! 朝から来りゃよかった!


 ガストの日替わりスープはいくつか種類があるが、おそらく一番うまいのは洋風トマトスープだと思う。しかし、トマトスープの日はなかなかない。なんか知らないが和風根菜スープの日が多い。あとは韓国風たまごスープ。何度飲んでも何が韓国風なのかはわからないが。


 モーニングにはたいがいスープバーが付いており、平日昼なら何か頼めば自動でスープバーが付くが、今日は休日昼。頼まにゃスープは飲めない。

 そして、ガストでスープバーを頼もうとすると、どうしてもライスが付いてくる。スープバーだけ頼むことができない。

 ライスを付けるなら、ライスをがっつりと受け止めるだけの、それにふさわしいメインメニューにしたい。そして、それだけがっつりしたものを頼むなら、食後にコーヒーくらい飲みたい。


 結局、500円クーポンで安く済ませるはずだった私の昼飯は、THEガストハンバーグのダブルにライス、スープバー、ドリンクバーセットを付けて1400円になってしまった。通常の3倍。



 つまり、こういうことである。多くの人はわざわざ有給を取らずとも、3日からの連休で十分と考えたらしい。そして、しっかり連休をエンジョイしているわけである。

 4月29日、30日はあくまで前哨戦。3日から本格的に遊びまくるための余力を残すために、近所のショッピングモールだのガストだので妥協していただけだったわけだ。

 例のしょぼくれパンケーキを残して嫌味を言われていたお子様も、今日は松阪牛を残していたりするのだろう。

 せっかくのGW本番初日にランチタイムもない割高ガストでスープバーまで頼んで飯を食っているようなしょぼくれ格差野郎は私だけだったのである。


 相変わらずガチャ自販機に向かって「通してほしいにゃん」と言っている配膳ロボを見つめながら、デザートがわりにアイスココアを啜りつつ、私は敗北感にうちひしがれた。



 しかし、本当にこれは敗北なのだろうか。世間の人々がわざわざ混雑している日に混雑しているところに行って渋滞に巻き込まれ、延々と動かない車列や行列の中で不愉快で無為な時間を過ごしている間、私は空調の効いた快適な貸し切りのガストで、その動かない京都方面の渋滞を眺めつつ、飲み放題、コンセント使い放題しているわけである。これぞ上流階級的な贅沢というものではないか?


 ……いや、無理があるか。ロイヤルホストならまだ自分をごまかすことができるかもしれないが、いくらなんでもガストで上流はないわ、さすがに。

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