即席シチュー鍋

 ある日の夕方。私はすんごい自堕落な気分に浸っており、飯なんか作りたくなかった。

 久々にびっくりドンキーでも行こうかなとか思ったりもした(最近私はファミレスをよく利用しているが、それはタブレットや紙のノートを持ち込んで作業するため。びっくりドンキーは店内が薄暗く、そうした作業には向いていない)が、外食に行くのも面倒くさい。食わないということも考えたが、腹は減っている。


 出かけるのと作るのと、どっちが楽かをさんざん考えて悩み、その末に出した結論は、作った方がマシ、だった。

 というわけで、豚春キャベツ鍋を作ることにした。


 私は鍋1回分の豚肉、カットしたにんじん、玉ねぎをパックしたものを冷凍庫で保管している。鍋を作る場合、お湯を沸かしてそのパックの中身を入れるだけでいい。キャベツや白菜は冷凍すると食感が悪くなので、これだけは作る度に切る必要があるが。


 というわけで、鍋でお湯を沸かし、キャベツを切っていたわけだが、ここでふと、冷蔵庫に牛乳が余っていることに気づいた。


 私は普段、牛乳を飲まない。料理で使う際にのみ買ってくる。今回冷蔵庫に牛乳が入っていたのは、たこ焼きを食うつもりがクレープを作ることになった際のもの。消味期限は過ぎていないが、開封してから4日は経っている。もう使い切った方がいい。


 しかし、どうやってこの牛乳を消費すればいいのか。普段牛乳なんか使わないから、ろくなレシピが思いつかない。そもそも、もうキャベツを切っているし、お湯も沸かしてしまっているから、これらを使った料理にしたい。


 それでとりあえず思いついたのは、シチュー風の鍋にする、ということだった。シチューに近いがあくまで鍋。じゃがいももかぼちゃもブロッコリーもなく、シチューにしてはなかなか寂しいが、仕方ない。

 沸かしたお湯(450ml)に冷凍鍋セット(豚肉、にんじん、玉ねぎ)とキャベツを入れ、さらに牛乳(200ml)と小麦粉(大3)を入れてかき混ぜ、コンソメの素を入れてみる。

 チーズとかバターはないから、代わりに粉チーズを適当に投下。あと、あさりの水煮缶があったから、これも入れる。これだとシチューというよりクラムチャウダーになってしまった感があるが。豚肉とあさりが合うのかは知らん。

 あさりはクセがあるから、それをごまかすために料理酒も投入。シチューには白ワインを入れるもんだが、そんなものはない。ぶどうにこだわらんでもいいだろう。米酒で十分。


 さらに、鍋があらかたできあがったところで、パスタを投入してゆがく。シチュー風クラムチャウダー風スープパスタ風春キャベツ豚鍋の完成である。



 シチューにしては明らかに水が多すぎたため、とろみは付かなかった。ただし、味は確かにシチュー味。ちょい薄かったが。

 結局、自堕落に楽な料理を作りたかったのに、ずいぶん手間のかかるものになってしまった。



 そして食べ終わると、さらに問題が生じた。汁が大量に残ってしまったのである。

 私は普段、鍋には450ml程度水を入れるが、出汁などで味付けをしないことが多い。そのまま水で茹でて、ポン酢で食うのが普通。汁はほとんど残らないし、捨ててももったいなくない。


 しかし今回は450mlの水に200mlの牛乳を入れ、さらにコンソメの素だの粉チーズだの料理酒だのを入れたために、捨てたらもったいない汁が大量に残ることになった。


 しょうがないので、残り汁は容器に入れて保存し、次の日にそれを使ってシチューを作ることにした。今度こそ本物のシチューである。


 私は実は、市販のシチューのルウを使わずにシチューを作ったことはない。初めてルウなしで作るのが、この邪道シチュー鍋の残り汁をベースにしたものになってしまった。



 次の日、私はスーパーに行き、鶏もも、じゃがいも、かぼちゃ、ブロッコリー、玉ねぎ、にんじんを買ってきた。あと、スライスチーズも購入。

 冷凍した玉ねぎやにんじんがあるのに別に買ってきたのは、最初に炒めるからと、にんじんのカットの仕方が異なるから。にんじんを冷凍する場合は短冊切りにする必要がある(厚くカットしたものを冷凍すると食感が悪くなる)が、シチューに入れるなら一口サイズの乱切りの方がいい。

 余談だが、鶏ももはカットしたものではなく1枚で購入。店にもよるが、カットしたやつはグラム50円ほど高い。だったら自分で切る。ただ、1枚で買うと300gほどになり、少量だけ欲しいときには向かないのだが。今回は、余ったのはカットして冷凍する。


 私はカレーやシチューを作る時は炒め用のフライパンを使う。

 カレーやシチューを作る際、最初に具材を炒めるが、鍋は炒め用に作られていないことが多く、具材が鍋底にくっつきがち。しかし、炒め用のフライパンなら、もともと炒めるためのものだからその心配はないし、煮る時も鍋よりも早く熱が通る。


 具材は全て、一口サイズの小さめにカット。大きくカットすると火が通るまでに時間がかかるため。世の中には大きいごろごろ具材をありがたがる信仰があるらしいが、私は実利主義である。具材が大きくていいことなんかあるか? 肉じゃがのじゃがいもなんか、せっかく苦労して一個まるごとのまま作っても、結局食べるときは箸で切って一口サイズにするだろうに。だったら最初から一口サイズで作れば時間短縮になっていいと思う。その方が味も染みやすいし、失敗も少ない。


 切ったらフライパンに投入し、玉ねぎが透き通るくらいまで炒めたら、昨日の残り汁と、昨日使いきれずに残った牛乳300mlぐらい、小麦粉大3、スライスチーズ1枚を投入。そして煮る。

 小麦粉の量は適当。なにしろ残り汁が何mlかわからないし、その残り汁にもすでに小麦粉が入っているから、どのくらい入れるのが最適かはさっぱりわからない。ただ、ちょっと多めに入れたほうがいいと判断した。とろみが付かなくて後から小麦粉を入れるよりも、とろみが付きすぎて水を入れる方が調整しやすいからである。


 味が薄かったらコンソメの素を足そうと思っていたが、意外とちゃんと味が付いていた。鍋の時は薄味に感じたのに、その残り汁に牛乳をさらに300ml足して、より薄くなったはずのシチューが、昨日より味がするのは変な感じである。昨日の鍋はパスタを投入し、パスタと汁を絡めて食べたのだが、それが味を薄く感じさせる要因だったのかもしれない。根昆布出汁をちょっと入れて調整するに留めた。



 こうして、シチューもどき鍋から本物のシチューへと変化した残り汁シチューだが……食べてみると、意外なほどうまかった。市販品よりうまくないか? こんな適当に作ったものがうまくていいのか?


 なぜなのか考えてみたが、もしかすると、鍋のときに豚肉やあさりを入れたのがいい出汁になったのかもしれない。コンソメの素は主に牛出汁なわけだが、今回はさらに豚、鶏、あさりからも出汁が出ており、さらに根昆布出汁をちょろっと入れているわけで、かなり複雑な出汁になっている。なんでもかんでも混ぜればいいものでもないが、今回はそれがプラスに働いたのかもしれない。



 結局、楽をしたかったはずなのにすんごい手間をかけることになってしまったが、いいこともひとつあった。シチューが2日分できたので、次の日は作らなくて良くなったことである。

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