出汁を取り、甘酒を作る
私の家には干し昆布と干し椎茸が眠っている。
私は自分で出汁を取らないことをモットーとしている。市販の白だしと根昆布だしを使えば充分だからである。だから干し昆布も干し椎茸も買わない。
しかし、家には母親が買ったものがまだ残っており、持て余している。賞味期限はとっくに過ぎているが、カビてるとかでない限り、食えないことはないだろう。
いつまでも放置しているわけにもいかないので、水で戻して味噌汁にでも入れてみることにした。
密閉容器に水と、昆布と干し椎茸を入れて蓋をし、冷蔵庫で半日ほどかけて戻し、その後、フライパンに移してさっと加熱。
沸騰前に火を止めて昆布と椎茸を取り出し、鰹節を入れ、数分したら、鰹節をザルかなんかで濾し取る。これで出汁はできあがり。
取り出した昆布と椎茸は食べやすいサイズに切って、味噌汁の具材にする。
昆布はまだ固かったので、別にもう少し水煮して柔らかくすることにした。
出来上がった味噌汁を食べてみと……まずい。変な雑味がある。これだけ苦労して、市販のだしを使ったときよりまずいのはショックである。
しかし、実はちょっと懐かしい味でもあった。母親が作る味噌汁がこんな味だったのである。
私は家の味噌汁が嫌いでよく残していたが、その理由のひとつは、味噌が古くて風味が飛んでいたことだった。母親は変なところで凝り性で、いくつも味噌を買って自分でブレンドしていたが、そのために味噌が使い切れず、賞味期限を3年も超過した、風味も何もなく、すっかり酸化した味噌を使っていた。そして、それに気づかないくらい味音痴だったわけである。
そして、今回もうひとつ、まずかった理由がわかった。自分で出汁を取り、今回の私と同じ失敗をしたために雑味が出たわけである。
ただ、何が失敗だったかは現時点では私にもわからない。
前回は昆布と椎茸を一緒にブチ込んで出汁を取ったため、雑味が出た原因が、昆布にあるのか椎茸にあるのかがわからない。
そこで、問題を切り分けるため、まずは椎茸だけで出汁を取ってみた。
やり方は同じ。容器に水と椎茸を入れて冷蔵庫で半日。その後フライパンで加熱。おしまい。
出来上がった出汁は雑味もなく、キノコの香ばしい香りが漂っていた。椎茸も香ばしくなっていて、これは大成功。
この椎茸出汁は鍋焼きうどんの出汁として使うことにした。椎茸はそのままうどんの具材として使える。
調べてみると、椎茸と昆布では出汁の取り方が異なるようである。椎茸は一気に80度まで加熱したほうがいい。中途半端な温度の時間が長いと旨味が抜けてしまう。
これは知っていたので、鍋よりも熱の入りやすいフライパンを使って一気に温度を上げたわけである。
一方、昆布は弱火でじっくりと加熱したほうが出汁が取れるのだとか。また、加熱しすぎると臭みなどが出てしまうらしい。
となると、原因は昆布だったのかもしれない。椎茸と一緒に出汁を取ろうとしたのがよくなかったのか、あるいは昆布を水煮したのを具材として使ったのがダメだったか。
ともかく、次は昆布だけで出汁を取ってみる。容器に水と昆布を入れて半日冷蔵庫。
昆布は水出し可能らしいから、この時点ですでに出汁は取れていることになる。味見してみたが……確かに若干甘味はあるが、香りはほとんどしないし、全然物足りないような。やはり加熱しないとダメかもしれん。
というわけで、ネットの教え通り、沸騰寸前までゆっくりと加熱して、加熱し終えたらすぐ昆布を取り出す。
味見すると、やはり加熱したほうがちゃんと味も香りも出てうまい。そして雑味もない。
とはいえ、昆布だけだと物足りないから鰹節も入れる。鰹節は昆布を取り出したらすぐ入れて、1、2分ほど放置し、濾すだけでいい。かき混ぜたり、絞ったりすると雑味が出る。何もしない方がいいのだから、これは簡単。
取れた出汁はそばの汁として利用することにする。
出汁に雑味がないことは確認されたから、味噌汁に雑味が出た原因はやはり、水煮した昆布が原因だったのではないかと思われる。もしくは、椎茸出汁と昆布出汁の相性が悪いのか。
それでは、出汁ガラの昆布と鰹節はどうするのか。
これは別に一品作ることにした。昆布を細く切って、蒸し鶏と梅干し、鰹節と和える。これで完成。何という料理かは知らないが。蒸し鶏の出汁ガラ和え? ポン酢でもかけて食うといい。
蒸し鶏は自作するのも簡単だが、サラダチキンという名前でスーパーやコンビニで売っている。それを買ってくれば即席で作れる。
今回、自分で出汁を取っててみて、モットーが変わったかというと……やはり変わらない。
取り立ての出汁は香りがいいが、労力に見合った成果があるとは思えない。出汁を取るには仕込みが必要で、忙しく、目まぐるしく状況の変わる現代社会には合っていない。
取った出汁は冷蔵庫に入れるなり、冷凍するなりすれば日持ちするが、そうすると取り立ての風味は失われ、市販のだしとのアドバンテージはなくなる。
出汁の取り方に失敗すると雑味が出てまずくなるし、出汁ガラの使い途も考えなければならない。出汁ガラを捨てるのは以ての外である。
よほど料理にこだわりがあるならともかく、そうでないなら素直に市販の出汁を使っておけばいいと思う。
ただ、鰹節の出汁は簡単に取れるから、即席で作ってもいいとは思う。
取り立ての出汁の香りが欲しいなら、市販の根昆布だしに即席鰹出汁を混ぜるとかすればいいのではなかろうか。その辺、うまく手抜きをするのが現代では大事。
とはいえ、家にはまだまだ昆布がたくさんあるので、しばらくは自分で出汁を取らねばならないようである。
さて。家にはもうひとつ余っているものがある。米麹である。冷蔵庫に入れっぱなしになってすでに2年だが、どう使っていいかわからない。いやまあ、いくつかレシピは知っているが、面倒くさいし、麹漬けの料理が好きでもないのである。
いい加減消費したいのだが、なんかお手軽な方法ないの? と思って、その米麹のパッケージの説明書きを読んでみたら、甘酒の作り方が載っていた。
ほう。甘酒。この年末年始に作るにはぴったりではないか?
説明書きによると、米を柔らかめに炊いたら麹と混ぜ、2~3時間おきに混ぜながら50~60度くらいで8時間保温するといいらしい。説明書きにはこたつなどの暖房器具で保温する方法が書かれていたが、保温だったら炊飯器でできる。つまり、炊けたごはんに麹をぶち込んで、そのまま炊飯器で保温すればいいだけ。これは簡単。
というわけでやってみた。書かれてあったとおり、2~3時間おきに混ぜて、8時間後。
どうなったら完成なのかかわからないので、これでいいのかはわからないが、とりあえず試食してみたところ、なかなか上品な甘さである。このまま食べてもいいくらい。
鍋にできた甘酒の素を入れて、水で適当に薄めて沸騰させて飲んでみると……薄い。それで、説明書に書かれてあったとおり、塩と砂糖を入れてみたが、今度は砂糖の甘さがいやらしくて、あまりおいしくなかった。
どうやら、あまり薄めず、砂糖を入れなくても米の甘さを感じられる程度の濃さで飲んだほうがいいようである。それだとお粥みたいになるが、そのくらいがちょうどいい。とにかく砂糖を入れたくない。せっかく米が甘いのに、甘さを足す必要なんてない。
あと、好みで生姜を少し入れると味が引き締まって良くなる。
というか、甘酒というからアルコール分が含まれているのかと思ったが、米麹から作った場合はアルコール入ってないのね。酒粕から作るとアルコール飲料になる。
これは成功したと言っていいデキだと思うが、思ったよりたくさんできてしまったのが問題。一体何杯飲めば消費できるんだ? 何日持つのかもわからないし。
しょうがないから、年末年始は何かにつけて甘酒飲みまくりの予定である。
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