音楽
喫茶店で聞く音楽その1 Pain of Salvation "Be"
私は基本的には外で音楽を聴かない。ファミレスや喫茶店でも、普通は隣の席の世間話を聞きながら飲み食いしている。
しかし、たまに変な客がいて、聞くに耐えないことを言っていたり、怒鳴っていたり、ぎゃーぎゃーわめいていたりする。
そんなときのために、一応ヘッドホンを持ち歩いている。ワイヤレスイヤホンもあるが、私はヘッドホン派。イヤホンだとすぐ耳が痛くなってしまう。
使っているヘッドホンはオーディオテクニカのATH-SX1a。これは放送業界用に作られたヘッドホンで、音楽用ではない。もともと作曲時のモニター用に買ったものだが、以来、ずっと使い続けている。合革はもはや全部剥がれ落ち、イヤーパッドは買い換え、ヘッドバンドにはダイソーで買ったフェイクカーボンのシールを貼っている。見た目はボロボロだが、ヘッドホンとしての機能は問題ない。
ここ数年は出番なしだったが、Fire HDを買って以来、喫茶店に長居する機会が増え、それと同時に変な客と遭遇する確率も高くなり、出番も増えてきた。
それで思ったのである。
「あなたのベスト曲は何?」などと聞かれた場合、そこにはいろいろ政治的な駆け引きが伴う。歴史的名盤を外すわけにはいかない、けど王道過ぎるのも底が浅く見られそうとか。
しかし、喫茶店で作業中に実際に聴いている曲は何かとなると、忖度なしで本当に好きなラインナップになると思う。
というわけで、むさしの森珈琲のカウンターにて、隣の客が電話で、役員会議で誰かを解任するとかなんとかいう話を大声でしていてうるさいので、実際に音楽を聴きながら、プレイリストを紹介しようと思う。
Pain of Salvation "Be"
https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lbGLMC1EQYHjNVe-k26QAtbFrH2uHdFhs
(Pain of Salvation Topic "Be"再生リスト)
いきなりコンセプトアルバムである。これは曲単位ではなく、アルバムを通して聴くタイプのものなので、私のプレイリストでもアルバム単位で丸ごと入れている。
スウェーデンのプログレメタルバンド、Pain of Salvationの5thアルバム。2004年発表。
このアルバムを発売日に十字屋で買い、すぐ車のCDプレーヤーに突っ込んで聴いたときのことはよく覚えている。「私は何者なんだ?」という哲学的な問いから始まり、曲のバックで「人口何万人」と、だんだん人間の数が増えていく様を語るナレーションを聴いて、「この曲は歌詞をちゃんと理解しないと良さがわからないタイプの音楽だな」と直感した。
それで、家に帰ったら早速、原語の英詩と付属の日本語訳を参照した。
ざっくりと解説すると、このアルバムは、「もしこの地球が神の実験場なのだとしたら?」というコンセプトに基づいたものになっている。
神は「自分は何者なのか?」という疑問を抱き、その答えを知るために、自分に似せた人間を創造し、地球に住まわせた。前半では天地創造の様子が描かれ、後半は人類がこの地上で苦しみ、「なぜ神は我々を救ってくれないのか」と嘆く様子が描かれる。
神に救いを求める歌詞を歌う曲はたくさんあるが、このアルバムほど"Help me"という言葉に救いのないものはそうない。神が人を救うことなどあり得ないのだから。
前半のトラックの神秘的で壮大なサウンドから一転し、後半は重苦しい曲が増えていく(いつものPain of Salvationらしいとも言える。このバンドは現代社会の病理を描く曲を多く書いている)。そして人類は苦しみと絶望の中で絶滅する。
それを見て神はめちゃくちゃうれしそうに「全部わかったぞ!」と歌うのである。
アルバム全体の構成を知らないとなんとなく聞き流してしまうところだが、最後の曲は実はエグい。
このアルバムで秀逸なのは、真ん中に挟まれている、Mr.Moneyなる男について描いた曲。彼は金があればなんでも手に入ると豪語し、享楽的な人生を謳歌している姿が描かれる。
コンセプトアルバムの真ん中のこの位置にこういう曲が入るのは、Pink Floydの"Darkside of the Moon"の"Money"とよく似ている。緊張が続くアルバムの中で、いいアクセントになっている。
https://www.youtube.com/watch?v=8dLv41nsZYo&list=OLAK5uy_lbGLMC1EQYHjNVe-k26QAtbFrH2uHdFhs&index=7
(Dea Pecuniae)
Mr.Moneyは最後に再登場する。金の力で真っ先に冷凍冬眠技術を使って未来で目覚めるのだが、結局、彼以外に誰もその技術を使う者はなく、彼は誰もいない世界の王となる。
哲学的で壮大なコンセプトのアルバムの中で、この曲で描かれていることはわかりやすい。
"Be"にはライブDVDもあるが、これはアルバムが発売される前に公演された映像なのだとか。アルバムの完成度を高めるために、事前にライブで通し演奏したらしい。
バックに管弦楽団を従え、ステージ上に水たまりを作れたりする、かなり独特なステージで、このアルバムが全曲通して演奏される。
Mr.Moneyのパートでは全員がサングラスをかけたり、グラスが割れるSEが入るところではちゃんとグラスを投げたりと、かなり凝ったステージで、観ていて楽しい。
もしアルバムを聴いて気に入ったなら、このライブDVDは必見。
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