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2022年8月29日 16:18
『オリエント急行』がベスト8に選ばれなかったのは、私としてはかなり残念です。うろ覚えですが、真っ赤なガウンを着た小柄の男性が、深夜車内をうろついていて、それを殺害時間近くでポアロが目撃しているんですよね。でも、その風貌に当てはまる人は車内には存在しない。挙句の果てには、ポアロの鞄の中から、そのガウンが発見されるという流れ。あの一件は、たしか、誰が入れたのか明らかにされないんですよね。そういう細かい点が及んでないから、大雑把な作品と表現してるのかな? 確かに不必要な人物も多く、弱点も多い作品ですよね。ただ、序盤でバルザックにちょこっと言及してるんですよね。クリスティーもバルザックを読んでいたのかなあ。『ABC殺人事件』は私もトップクラスの出来と思います。真犯人が筋のあちこちに、ちょくちょく顔を出すのに、最後まで読者が当てにくい点はさすがと思います。後世の、色々な推理小説の模範になっているでしょうね。たしか、ABCを名に持つ、人物が別に動いていて、彼が少しずつ追い詰められていく過程になっているんですよね。彼も精神薄弱者なので、最後は自分で犯罪を認めてしまうのですが、ポアロは面談した際に「でも、あなたもどのように事件を起こしたのか、覚えてないんじゃないですか?」といってあげるんですよね。あの一言がすごく響きます。別に彼のことをシロだとは断定していない辺りが……。『ポアロのクリスマス』は他人に一番薦めた作品かもしれません。有名ではないですが、隠れた逸品ですよね。私は長男の嫁のヒルダ(?)を疑っていました。なんか線の細いキャラって平気にサイコキャラに変貌しそうじゃないですか? まさか、あの犯人とは……、あれは驚きましたね。オリエントでも車掌まで事件に加わってますが、クリスティーはその辺り除外がまったくないですね。誰をも疑うべき、という感じですか。 涼格さんは論理性の高い作品を多く選んでいる印象でした。次はぜひ、クロフツやクイーンやカーも含めた、ミステリーオールベスト10をお願いします。ではまたー
作者からの返信
私が『オリエント急行』をベスト8に入れてない理由は、本文に書いた通りです。大掛かりなトリックを仕掛けているのに、犯人側が万全の体制でないこと。犯人側としては、列車にたまたまポワロが乗ったことがすでに悪運なのに、さらに大雪で列車が止まってしまったために、当初の予定通りの犯行が行えていないんですよね。 当時のポワロは次々と難事件を解決していた全盛期でしたから、せっかくだったら計画通りの犯行を見破ってほしかった、ということです。 あと、容疑者全員が犯人というネタは、当時のミステリーの常識を覆す意味では有意義だったかもしれませんが、純粋に物語として見たとき、全員で1回ずつ刺す必然性はなかったよな、とも思います。大味に感じるのはその辺ですかね。ネタを優先しすぎて犯人に余計なことをさせており、余計なことゆえに、その不自然さをポワロに突かれているんですよね。 探偵がバトル警視クラスならそれでもいいですし、ホームズものでこういう事件を扱うなら文句ないんです。ホームズものの犯人は余計なことをして足が付く人達ばかりですし。しかし、ポワロものに一貫しているのは「犯人は親切に煙草の吸殻を落としてくれたりはしない」という哲学なんですよね。それに反しているところが物足りなく感じてしまう点なのです。 赤いガウンを誰が入れたかはたしかに不明ですが、それはそんなに気にしたことはなかったですね。全員グルならその辺はやり放題でしょうし。『ABC』の偽装犯人との面会は確かに印象的でしたね。偽装ABCが犯行を認めたとポワロが言ったとき、本物のABCが意外そうな反応をするところも面白い。ABCとしては、まさかそこまで暗示がうまくいくとは思っていなかったわけですね。犯人が想定していた以上に偽装ABCは偽装役を果たしてくれた。それでもポワロは彼が偽装犯人だと見破るわけです。『ポアロのクリスマス』の犯人は推理小説のタブーを犯していますけど、これを書いた頃にはクリスティはすでにいろんなタブーを犯しまくっていたため、話題にすらなりませんよね。 しかし、タブーを犯したシリーズでは、一番見破りにくい犯人だと思います。『アクロイド』や『オリエント』よりも気づきにくい。これに匹敵するのは『カーテン』の、事実上ヘイスティングスが犯人というトリックだけでしょう。あれは本人すら気づいてないですが。 無制限で推理ものベスト10を選ぶのは相当難しいですね。ホームズとポワロを比較するだけでもかなり悩ましいのに。結局、各作家のベスト1を選ぶ形になりそう。そうすると保守的な選び方になってしまいそうです。クロフツなら『樽』、カーなら『三つの棺』とか。 私の好みを優先させるとアシモフの『ABAの殺人』は入れたいですけど、あれが面白いのは推理そのものというよりは脚注合戦や出版業界の生々しい描写なので、それを推理もののベスト10に入れるの? という葛藤はある。 ミステリーくくりにするとさらに変なことになって、カフカの『審判』などの、それミステリーか? という作品ばっかり入って、クリスティなどは全然入らなかったりしそうです。
『オリエント急行』がベスト8に選ばれなかったのは、私としてはかなり残念です。うろ覚えですが、真っ赤なガウンを着た小柄の男性が、深夜車内をうろついていて、それを殺害時間近くでポアロが目撃しているんですよね。でも、その風貌に当てはまる人は車内には存在しない。挙句の果てには、ポアロの鞄の中から、そのガウンが発見されるという流れ。あの一件は、たしか、誰が入れたのか明らかにされないんですよね。そういう細かい点が及んでないから、大雑把な作品と表現してるのかな? 確かに不必要な人物も多く、弱点も多い作品ですよね。ただ、序盤でバルザックにちょこっと言及してるんですよね。クリスティーもバルザックを読んでいたのかなあ。
『ABC殺人事件』は私もトップクラスの出来と思います。真犯人が筋のあちこちに、ちょくちょく顔を出すのに、最後まで読者が当てにくい点はさすがと思います。後世の、色々な推理小説の模範になっているでしょうね。たしか、ABCを名に持つ、人物が別に動いていて、彼が少しずつ追い詰められていく過程になっているんですよね。彼も精神薄弱者なので、最後は自分で犯罪を認めてしまうのですが、ポアロは面談した際に「でも、あなたもどのように事件を起こしたのか、覚えてないんじゃないですか?」といってあげるんですよね。あの一言がすごく響きます。別に彼のことをシロだとは断定していない辺りが……。
『ポアロのクリスマス』は他人に一番薦めた作品かもしれません。有名ではないですが、隠れた逸品ですよね。私は長男の嫁のヒルダ(?)を疑っていました。なんか線の細いキャラって平気にサイコキャラに変貌しそうじゃないですか? まさか、あの犯人とは……、あれは驚きましたね。オリエントでも車掌まで事件に加わってますが、クリスティーはその辺り除外がまったくないですね。誰をも疑うべき、という感じですか。
涼格さんは論理性の高い作品を多く選んでいる印象でした。次はぜひ、クロフツやクイーンやカーも含めた、ミステリーオールベスト10をお願いします。ではまたー
作者からの返信
私が『オリエント急行』をベスト8に入れてない理由は、本文に書いた通りです。大掛かりなトリックを仕掛けているのに、犯人側が万全の体制でないこと。犯人側としては、列車にたまたまポワロが乗ったことがすでに悪運なのに、さらに大雪で列車が止まってしまったために、当初の予定通りの犯行が行えていないんですよね。
当時のポワロは次々と難事件を解決していた全盛期でしたから、せっかくだったら計画通りの犯行を見破ってほしかった、ということです。
あと、容疑者全員が犯人というネタは、当時のミステリーの常識を覆す意味では有意義だったかもしれませんが、純粋に物語として見たとき、全員で1回ずつ刺す必然性はなかったよな、とも思います。大味に感じるのはその辺ですかね。ネタを優先しすぎて犯人に余計なことをさせており、余計なことゆえに、その不自然さをポワロに突かれているんですよね。
探偵がバトル警視クラスならそれでもいいですし、ホームズものでこういう事件を扱うなら文句ないんです。ホームズものの犯人は余計なことをして足が付く人達ばかりですし。しかし、ポワロものに一貫しているのは「犯人は親切に煙草の吸殻を落としてくれたりはしない」という哲学なんですよね。それに反しているところが物足りなく感じてしまう点なのです。
赤いガウンを誰が入れたかはたしかに不明ですが、それはそんなに気にしたことはなかったですね。全員グルならその辺はやり放題でしょうし。
『ABC』の偽装犯人との面会は確かに印象的でしたね。偽装ABCが犯行を認めたとポワロが言ったとき、本物のABCが意外そうな反応をするところも面白い。ABCとしては、まさかそこまで暗示がうまくいくとは思っていなかったわけですね。犯人が想定していた以上に偽装ABCは偽装役を果たしてくれた。それでもポワロは彼が偽装犯人だと見破るわけです。
『ポアロのクリスマス』の犯人は推理小説のタブーを犯していますけど、これを書いた頃にはクリスティはすでにいろんなタブーを犯しまくっていたため、話題にすらなりませんよね。
しかし、タブーを犯したシリーズでは、一番見破りにくい犯人だと思います。『アクロイド』や『オリエント』よりも気づきにくい。これに匹敵するのは『カーテン』の、事実上ヘイスティングスが犯人というトリックだけでしょう。あれは本人すら気づいてないですが。
無制限で推理ものベスト10を選ぶのは相当難しいですね。ホームズとポワロを比較するだけでもかなり悩ましいのに。結局、各作家のベスト1を選ぶ形になりそう。そうすると保守的な選び方になってしまいそうです。クロフツなら『樽』、カーなら『三つの棺』とか。
私の好みを優先させるとアシモフの『ABAの殺人』は入れたいですけど、あれが面白いのは推理そのものというよりは脚注合戦や出版業界の生々しい描写なので、それを推理もののベスト10に入れるの? という葛藤はある。
ミステリーくくりにするとさらに変なことになって、カフカの『審判』などの、それミステリーか? という作品ばっかり入って、クリスティなどは全然入らなかったりしそうです。