外食

ウェンディーズ・ファーストキッチン

 いつの間にかウェンディーズとファーストキッチンがくっついていたので食べに行った。



 ウェンディーズはアメリカのバーガー屋だが、かつて日本では、今は亡きダイエーがフランチャイズ契約をしていた。そういうわけで、大きなダイエーに行くとウェンディーズがあったりした。ダイエーというとドムドムハンバーガーの方が目立っていた印象はあるが。


 私の家からウェンディーズのあるダイエーはそこそこ遠かったので、3回くらいしか行ったことがない。記憶によると、ウェンディーズのハンバーガーはトマトと四角いハンバーグが特徴だったが、マクドナルドなら59円でハンバーガーが食えた当時、ウェンディーズの相対的に高いバーガーを買うには非常に勇気が必要だった。そのため1回しか食べたことがなく、味は覚えていない。

 ウェンディーズの目玉は何と言ってもベイクドポテト。じゃがいもをかち割ってソースをぶち込んだものだが、これが目当てで通ったようなものだった。3回しか行ってないのを「通う」と言っていいなら、だが。


 本当はもっと行きたかったのだが、そのウェンディーズはダイエーごと消滅してしまった。他の店舗はないかネットで調べたところ、ウェンディーズ自体が日本から撤退したことを知った。



 ファーストキッチンは、国産のファーストフード店。関東が主戦場だそうで、関西ではあまり見かけない。

 ファーストキッチンの特徴はベーコンエッグバーガー。たまごを使ったバーガーをレギュラー販売しているファーストフード店は意外に少なくて、私の知る限りではマクドナルドとファーストキッチンしかない。そのマクドナルドも、昔はエッグマックマフィンを昼でも販売していたのだが、あるときから朝限定メニューになって以来、長いこと昼にレギュラーのたまごバーガーはなかった。エッグチーズバーガーが登場し、たまごバーガーが再レギュラー入りしたのは最近のことである。

 たまごバーガー大好きな私にとって、ファーストキッチンは救いだった。


 ただ、ファーストキッチンは明らかにバーガーに力を入れていない店だった。主力はフレーバーポテトとフロート。今でこそマクドナルドは期間限定で気まぐれに「シャカシャカポテト」なるものをやっていたりしているが、ファーストキッチンは昔からレギュラーでシャカシャカしているのである。

 ファーストキッチンのフロートは、ソフトクリームが乗ってるのが特徴。いまでこそソフトクリームフロートは珍しくないが、かつてはあまり見かけなかった。喫茶店のフロートも、たいがいはラクトアイスだった。もちろん、それはそれでうまい。ラクトアイスの水分が凍ってシャリシャリしている部分を食うのがたまらない。ソフトクリームのフロートはそういう楽しみはない。


 近所にファーストキッチンがあった頃、私は「ベーコンエッグバーガーを食うぞ!」と思って出掛けては、バーガーを頼まずにフレーバーポテトとフロートだけ食べて帰っていた。


 なんにしろ、ポテトとフロートは結構気に入っていたのだが、近所のファーストキッチンが撤退して以来、ファーストキッチンは遠い存在になってしまった。



 そして2021年。月見バーガーのソースの記事のコメント欄でウェンディーズとファーストキッチンの話題になったので、今どうなってるのかなと思って調べてみたら、くっついていたのである。具体的には、ファーストキッチンがウェンディーズの日本法人に売却された形。そして、現在展開しているファーストキッチンが、順次ウェンディーズ・ファーストキッチンにニコイチ改造されるのだとか。


 店舗検索すると、微妙に遠いが行けなくもないところにウェンディーズ・ファーストキッチンがあったので、行ってみることにした。



 ウェンディース・ファーストキッチンのメニューは、ハンバーガーとサイドがウェンディーズ、フレーバーポテトとフロートがファーストキッチンのものになっていた。まさしくニコイチ。


 残念なことに、ウェンディーズのベイクドポテトは消滅していた。ウェンディーズがファーストキッチンに身売りしたならともかく、逆なのになぜ主力商品が消えるのかね。フレーバーポテトとカチ合うという判断なのか。


 ファーストキッチンのベーコンエッグバーガーは、ネットで調べた時は消滅したと思っていたのだが、メニューをよく見ると「ウェンディーズベーコンエッグバーガー」というものがあった。バーガーやパンがウェンディーズ仕様になっているので、ファーストキッチンオリジナルの味ではなくなっているが、中身の具の種類は同じ。

 オリジナルと比べると肉の主張が強くなり、食べたときの満足感は高い。ただ、ウェンディーズのハンバーグはトマトやレタスと合わせて食べることを前提にした味付けなので、野菜なしのベーコン追加は少々くどい気がする。

 また、これはオリジナルの欠点でもあったが、たまごの主張が弱い。マクドナルドのたまごバーガーが優れているのは、たまごの主張が強く、ちゃんと主役になっていること。この点をクリア出来ているたまごバーガーは意外と少ない。


 フロートは、覚えている限りではファーストキッチンのまま。ソフトクリームがドリンクにどっぷり浸かって溶けないようにするために氷が多く入っているが、これを上げ底だと思ってしまうと少々ケチくさい飲み物に感じるかもしれない。いずれにせよ、見た目ほどドリンクは入っていないことを留意しよう。水ももらっておいた方がいいかも。


 フレーバーポテトは昔より旨くなった気がする。以前は皮付きポテトじゃなかった気が。ウェンディーズとくっついたことでポテトがアップデートされたのかもしれない。

 マクドナルドのシャカシャカポテトは味が濃すぎるのであまり好きでない。ファーストキッチンは長年レギュラー販売しているだけあって絶妙。そしてフロートと相性がいい。


 バーガーは、元のウェンディーズのを覚えていないから何とも言えないが、バーガーに力を入れていなさそうな感じが漂っていたファーストキッチンよりは明らかに良くなっている。ファーストキッチンのバーガーは具材の主張が弱くて印象の薄い感じだったが、ウェンディーズはしっかり肉や野菜を食っている感じがいる。これなら値段に見合っていると言えるだろう。

 ただ、最近、私の近所にバーガーキングが出店してきたのだが、肉や野菜をがっつり食らうバーガーなら、バーガーキングの方が上だと私は思う。

 バーガーキングのウリは、肉を直火焼きしていること。香ばしさで他店を突き放す。ウェンディーズのバーガーの味はバーガーキングに近いタイプなだけに、値段が同等ならバーガーキングの方が良くないか? と、どうしても思ってしまう。もっとも、バーガーキングで食うなら、ジュニアじゃないワッパーを食うべきだから、そうなるとちょいとバーガーキングは割高になる。ただ、ワッパーを食うとサイドはそんなにいらないから、フレーバーポテトとフロートは絶対欲しいウェンディーズ・ファーストキッチンよりは結果的に安くなるとも言える。



 ウェンディーズは店舗が少なく、食べたくても食べられなかった問題が改善され、ファーストキッチンは弱点だったバーガーが強化された。このニコイチはお互いの弱点を補う、うまい手だったのではないかと思う。ベイクドポテトがなくなったのは非常に痛いが。



 マクドナルドだのウェンディーズだのバーガーキングだの、白人どもの店ばかり賞賛しやがって! モスはどうしたモスは! という抗議があることを予測して、モスバーガーにも言及しておこう。


 モスバーガーは日本の法人が日本人向けにバーガー類を提供している店で、味も日本人好みになっている。アメリカンながっつり系ではなくてお上品。早くからてりやきバーガーやライスバーガーを売っていたことが特徴。


 モスバーガーは、マクドナルドがハンバーガーを59円で販売していた頃に価格を下げず、むしろ緑モスなるハイエンド店舗を展開し、1000円クラスの匠味バーガーを出していた頃が絶頂期だったと思う。匠味アボカド山葵はマジで旨かった。

 当時のモスバーガーは、庶民に手が届く程度の高級志向をウリにしていた。


 しかし、店舗を全部緑モス化しようとしだした頃から雲行きが怪しくなる。緑モスは増えたものの、匠味をはじめとする肝心の緑モス限定メニューが徐々に消滅し、緑モスの存在意義がなくなった。

 また、ライバルチェーンが安物路線を改め、価格を上げる代わりにもっとマシな味と品質のものを提供するようになったことで、モスの別格感が薄れてしまった。味自体は変わらずうまいのだが、ハイソな感じがなくなったのである。


「モスは高い」というイメージは、マイナス面もあったが、プラス面の方が大きかったように私は思う。下民どもが59円のバーガーに群がるのを見下しつつ、モスバーガーでランチにするのは、庶民にとっては高級ホテルのレストランで食事をするのと同じくらいの優越感が味わえたのである。しかも格安で。

 しかし、今ではそのスペシャリティ感はもうない。ライバル店が進歩する中で、モスは慢心した感がある。


 モスがウリにしてきた特徴の多くは、今ではマクドナルドが真似をしている。てりやきバーガー、ライスバーガーの展開、(相対的に)高級バーガーのサムライマックの常設、そして、カフェマイバリスタの展開。

 カフェマイバリスタは、要するにスターバックスの廉価版なのだが、店舗数が少ないことと、通常のマクドナルドに比べれば高級感があることで、なんとなく緑モス的な優越感を味わえる。実際はスターバックスより安いし店舗もチープなのだが、それでいて気分を盛り上げてくれるのである。

 マクドナルドが相対的高級感をウリにして成功していることを考えると、やはり、モスが緑モスの特別感という強みを捨ててしまったことは失敗だったと思わざるを得ない。


 モスバーガーのメニューはどれもそつがなくうまいが、隠れた目玉はシェイクだと私は思っている。喫茶店やファミレスで下手なデザートを頼むより、モスのシェイクは安いわりに満足感が高い。特に、がっつりと冷たいものが欲しいときには最適。パフェとかケーキとかじゃねえんだ、とにかくアイスが食いたいんだアイスが! グラスてんこ盛りに! というときにぴったり。

 マクドナルドのシェイクも味を上げてきたし値段も安いが、モスのシェイクはお値段以上の違いを感じられるだろう。

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