喫茶店とファミレス……と低重心ペン

 ある日、唐突に店で中華料理が食いたくなった。


 私は普段、かに玉やチャーハン、麻婆豆腐は自分で作るし、餃子は冷凍のを買い、唐揚げは店の惣菜を買う。

 そしてたまに餃子の王将や大阪王将に行く。


 しかしその日はそうではなく、本格的な中華料理屋で中華を食いたくなったのである。


 私はうんとお腹を空かせておき、昼になると、早速、車で中華料理屋に行った。しかし、店は閉まっていた。潰れたのか? と一瞬焦ったが、定休日だった。


 問題は、空きっ腹を抱えて途方に暮れている今、これからどうするか、である。

 王将に行く手はあるが、わざわざ王将を蹴って本格的な中華を食いたいと思って出てきたのに王将で妥協しても、中華食いたい欲は満たされないだろう。

 家に帰ってサバ缶で飯でも食う手もある。一番無難。しかし、外食する気満々で出てきたのにそれは痛ましい。


 と、ここで私は妙案を思いついた。近所にオープンした「喫茶珈琲店ピノキオ」に行く手である。



「ピノキオ」という名前の喫茶店は結構多いから紛らわしいが、ここで言う「喫茶珈琲店ピノキオ」はフジオフードの系列店のこと。串屋物語とかまいどおおきに食堂とかのチェーンである。


 ピノキオは、昭和の喫茶店をイメージした品揃えをウリにしている。「昭和の喫茶店」というと、油臭い洋食、合成着色料を盛り盛りの色鮮やかなドリンク、そしてタバコの煙が充満した店内を思い浮かべ、いかにも不健康で不味そうで絶対行きたくない印象を抱く。そのイメージをウリにしていいのか? と、私は疑問に思った。

 団塊の世代は昭和に幻想を抱いているが、それより後の世代の人にとって昭和は暗黒時代であり、あまりいいイメージとは言えない。


 そう思いつつも気になった私は、一度、朝早くにピノキオでモーニングを食べた。これが意外と良かった。

 トーストとトーストのお供(あんこ、たまご、モンブランクリームから選べる)の他にフルーツも付いてきて、なかなか豪華。トーストにはシナモンの効いた何かが塗ってあってこれも気が効いているし、その時はモンブランクリームを選んだが、これも良かった。

 これならランチも期待できるんじゃないかなと思い、一度試そうと思っていたのだった。


 そしてどうやら、その時が来たようである。中華を食い損ねた今、私はピノキオに行くべきではないか。そして、おそらく店の看板メニューであるピノキオプレートを食って天辺を取るのだ!


 そう決心した私は、早速車に乗り込んだ。そして10分後。



 ジョリーパスタにいた。



 ……なぜ私はジョリーパスタにいるのだろう。なぜここはピノキオではないのだろう。

 その理由は単純。

 ランチを食いつつコーヒーを飲みたいなら、喫茶店よりファミレスの方が適しているからである。


 そう。そうなのである。今のファミレスのコーヒーは侮れない。かつての「昭和のファミレス」では、何時間放置されたかわからない、何回温め直したかわからないマズいコーヒーしか提供されなかったが、今のファミレスにはたいがい、エスプレッソマシンが置かれている。ドリンクバーのあるファミレスなら、挽き立てのカプチーノが飲み放題。

 そしてファミレスなので、ランチは充実している。特にジョリパスなら何を食っても間違いはない。サイゼリアよりちょっと高いが、満足感も高い。特にパスタを食うならジョリパスの方が断然いい。


 私はランチパスタを喰らい、カプチーノを3杯飲み、ランチスープを啜りながら思った。実はコーヒーを飲んでゆっくりしたいなら、喫茶店よりファミレスの方がいいんじゃないかと。


 喫茶店でコーヒーを1杯頼む値段で、ファミレスならドリンクバーが頼める。そして、提供されるコーヒーは、下手な喫茶店のものよりうまいときている。しかも飲み放題。

 喫茶店のコーヒーには場所代が含まれているから割高なわけだが、ファミレスの居心地の良さは喫茶店に劣らない。席は広いしゆったりしている。そしてコーヒーは飲み放題。

 そう。コーヒー飲み放題なのである。



 では、喫茶店の存在意義とは何なのだろう。

 私が思うに、少なくともモーニングにはアドバンテージがある。コーヒーにトーストその他が付いてくるモーニングはお得だし、内容や量的にも朝にちょうどいい。


 あとは……甘味か。よく考えると、流行っている喫茶店には独特のデザートがある。コメダはシロノワール、星乃にはスフレパンケーキなど。

 こうしたデザートはファミレスでも真似して提供しているが、比較するとやはり、コメダや星乃の方がおいしい。値段も大きく差はないので、だったらおいしい方で食べた方がいいや、となる。


 喫茶店はもはや、本来の喫茶店としての機能ではファミレスには敵わなくなってきている。うまいコーヒーが飲み放題で居心地が良くて安いファミレスに、もはや喫茶店は太刀打ちできない。


 喫茶店が生き残るには、コーヒーよりもデザートに力を入れるべきなのかもしれない。コンビニが100円クラスでそこそこうまいコーヒーを提供し、ファミレスが400円前後で飲み放題にしている今、もはや単にコーヒーを500円前後で売るのは無理がある。

 だからこそ、目玉となるデザートやスナック類で客を引き付け、ついでに割高なコーヒーも飲んでもらうというスタイルでやっていくしかないのかもしれない。


 少なくともコメダはそれで成功している。コメダのコーヒーは別にうまくないが、デザートは充実しているし、スナック類も、値段は高いが、相応に量が多くて味もいい。そしてシロノワール目当てで行くと、たいがいうっかり、別にうまくもないコーヒーを一緒に頼んでしまうのである。


 あと、割高なために比較的客ダネがいいのもアドバンテージのひとつか。

 ファミレスとコメダは、店内の居心地の良さそのものは大差ないが、ファミレスにはやかましい学生や主婦の集団がたむろしていることが往々にしてある。コメダにはそうした客が来る率は低い。それを買うという考えはあると思う。

 ただ、同じファミレスでも、ジョリーパスタは比較的客層が上品な印象がある。なぜか知らないが。サイゼリアのおかげだろうか。

 びっくりドンキーは店内に音が響きにくく、結構仕切りがしっかりしているため、うるさい客がいても気にならないことが多い。ただしドリンクバーもない。おすすめはルンバルンバ。

 ロイヤルホストは高めなこともあってか客層が比較的マシだが、たまに家族連れの子供がやかましいことはある。


 喫茶店も店によって特色がある。特に変わっているのはスターバックス。あそこはいつも混んでいてせわしなく、落ち着かない。ほとんどのメニューは持ち帰りを前提としたもので、店内用の豪華な何かはない。あそこは持ち帰りをメインに考えた方がいいのかもしれない。

 しかしそうなると、コンビニでコーヒーが飲める今、スターバックスのアドバンテージはフラペチーノくらいしかないような気がする。そのわりにはいつも混んでいる。謎なのは、スターバックスは夜にも混んでいることである。夜9時くらいにドライブスルーの行列ができていることがある。何故だ?

 あと、マックやモレスキンをお持ちのお客様は、堂々とゆっくりできる特権を得られる……ような気がする。あそこはマックやモレスキンを使っている俺カッコイイをアピールする場なのかもしれない。

 とにかくスターバックスは謎だらけである。



 喫茶店の話とは関係ないが、私はジョリーパスタでアドバンスハイグレードモデルを使っていて、あることに気付いた。

 低重心モデルのペンは、ペンを振りにくいことである。


 私は低重心のペンに苦手意識がある。特に使用感に問題はないはずなのに、なぜか使い勝手が悪く感じていた。

 その理由がずっとわからなかったのだが、今回、ジョリーパスタでノートを広げ、シャーペンでメモを書いていて、ついにわかった。


 私は喫茶店などでノートを広げながら考え事をするとき、指でペンを振るクセがあるらしい。

 これは家ではやらないクセである。家で考えるときはペンを置き、何も持たない。しかし、外ではペンを持ちながら考え事をする。そのとき、無意識にペンを振っているのである。

 そして、低重心のペンは、重心が偏っているから、ペンが振りづらい。これが低重心ペンが苦手な理由だったようである。

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