料理・食べ物

いか焼き

 どうもこんばんは。深夜料理研究家の涼格です。みなさん、ガツガツ夜食食ってますか?


 私はたまに、夜中にこっそり料理をすることがある。単に夜食を作るだけのこともあるが、料理の試作実験も行う。作ったことのない料理を、いきなり晩ご飯として作るのはリスクがある。まずは試作品を作ってみてから実戦投入するべきである。


 コロッケなどのありきたりな料理も深夜に試作したが(コロッケなどの揚げ物は、作るのは難しくないものの少量生産に向いておらず、食いたいときに買った方がいいとなった)、料理漫画に出てくる変な料理を再現しようとしたこともあった。豆腐ハンバーグとか。話によると、肉のハンバーグと食べ比べてもわからないとか書いていたが、どうやっても豆腐だった。食べていると、豆腐の分際で肉に偽装しようとしている根性に腹が立ってくる。豆腐は豆腐として食うべきだなと思った。うまいんだし。

 そんな感じで、たいがいは失敗し、残飯処理で胃もたれに苦しむことになった。


 夜な夜な晩酌のアテを自作する人もいるだろうが、私は飲まない。もともと私はあまり飲まないが、飲むと料理の味なんかよくわからなくなるから、研究には向いていない。

 焼き肉をする時に赤ワインを飲みながら準備することはあるが、わけがわからなくなるし、酔っ払うと後片付けの時に大変だから、あんまりよくない。店で食うときや、後先のことを考えなくていい身分の人なら気兼ねなく飲めるだろうが。



 今回挑戦するのはいか焼き。いか焼きというと、いかを丸ごと焼いたやつを思い浮かべる人が多いかもしれないが、ここで言うのは粉もののいか焼き。


 最近、スーパーの店先でいか焼きを売っていて何気なく買ったのだが、食べている内に思ったのである。これ、家で簡単に作れないか? と。


 観察したところでは、生地は小麦粉でダシを効かせている。卵が入っているが、生地と卵がマーブル状になっていることから、ホットケーキのように最初から生地に卵を落として混ぜるわけではないよう。

 この生地さえ作れれば、あとは具材を入れてソースとかをかけるだけ。


 というわけで作ってみる。



 まずは薄力粉を適当にボールに入れ、適当な水を入れて混ぜる。

 私の経験上、1人前の粉ものを作る場合、薄力粉は70g前後、水はどの程度の濃度にしたいかによるが、今回のいか焼きの生地は薄くも厚くもない感じなので、だいたい80ccあたりを狙う。水をちょい温めておくとダマになりにくい気がするが、どうせ食うのは自分だからどうでもいい。


 生地に味付けをする。食べたいか焼きは昆布と鰹の出汁で味付けしていたと思うが、今回重要なのは味付けじゃないので、昨日食った弁当に付いていた醤油を入れておく。


 この弁当が謎で、スーパーで半額になっていたのを買ったのだが、厚焼き卵、唐揚げ、きんぴらごぼう、ほうれん草の和え物に、しょうゆが付いていたのである。どのおかずにもしっかり味が付いていて、しょうゆなんかかけたら台無しである。

 何にかけりゃいいのかわからず、冷蔵庫に入れておいた。



 とりあえず、フライパンに生地をぶち込み、焼けてきたところで卵を割り入れて崩し、裏返して焼いてみる。

 焼けたらソースとマヨネーズをかけて完成である。簡単。


 いか焼きなのにいかが入ってないじゃんと思った人は鋭い。そう。いかは入っていない。

 料理を試作する際、最初からフルに材料をブチ込むと、失敗したときの残飯処理が恐ろしいことになることを、私は身をもってさんざん知った。いきなり3人前作るべきじゃないし、いきなり具材を全部ぶちこむべきではない。

 人類が月に行く際も、まずは無人ロケットを飛ばして、それに成功してから人間を乗せている。それも、まずは月周回軌道に乗せるだけで帰還し、いきなり着陸していないのである。


 いか焼きを作る場合も、まずは生地だけ作るべきである。生地ができるようになれば、あとはいかでもたこでも、キャベツとかもやしを入れたっていい。しかし、生地がちゃんと作れるかわからないのに、いかをぶち込むと犠牲者が増えるだけである。



 案の定というか、できあがったものは、思っていたのと少し違った。店で食ったいか焼きは、生地と卵がマーブル状になっていたが、今回出来上がったのは、生地に卵が辛うじてくっついている感じになったのである。一体化してない。


 あと、食ってみて感じたのは、なんかグニグニしていること。いか焼きの生地は、もう少し粘りというか水気というかがあった気がする。こんな「小麦粉でござい!」という生地じゃなかった気が。



 生地に粘り気を足すにはどうしたらいいだろう。こういうとき、料理漫画なら展開は決まっている。「そうだ! そうだよ母さん! 山芋だ! あの食感は山芋が作り出していたんだ!」

 料理漫画の鉄板。粘り気を出すなら山芋。そして、なぜか思いつくのに時間がかかる。あんた前に粘り気を出すのに山芋使ってたじゃん。とりあえず試そうと思わないの?

 そして偶然、私の家には山芋がある。


 さっそく、先ほどと同じように小麦粉70gくらいの中に、すりおろした山芋を少量ぶち込んで、水80ccくらいで混ぜ混ぜする。


 ……なんか、思っていたのと違うものになる。


 生地全体が山芋をすりおろしたような、粘り気はあるんだけどまとまりがないというか、変な感じになる。

 若干水が足りない感じになったので、10~20ccほど足した。


 失敗した感満載だったが、少なくとも焼けば食えるものにはなるはずなので、意を決してフライパンにぶちこむ。


 あと、先ほどは少し生地が焼けてから卵を入れていたが、今回は生地をフライパンに流したら、すぐその上に卵を落として割り混ぜ、生地の上部を卵でコーティングする感じにしてみる。


 で、表が焼けたら裏返してちょい焼いて(卵にあまり火を通したくないから、裏面を焼くのは短めにした)、皿に乗っけてソースとマヨネーズ。


 生地に味付けしてないじゃん! と気付いた人は鋭い。今回、生地の味付けは重要ではないので省略した。どうせソースとマヨネーズをかけるんだから、味付けしなくても最終的には充分食えるようになる。

 そもそも、最終的にソースをぶっかける粉ものの生地に下味を付ける意味があるのか、私は少々疑問に思っている。下味を付けるなら、それが活きるように、上に塗るソースも薄味にしたい。既製品のソースは味が強すぎて、下味の繊細な調味が無意味になっている気がするのである。

 というわけで、私が本番でいか焼きを作る場合は、生地に味付けしないでソースマヨか、下味を付けるなら醤油を適量かける方向で考えるかもしれない。



 生地を作っているときは失敗感満載だったが、出来上がってみると、案外いい感じに仕上がった。明らかに店で食ったいか焼きよりも生地が分厚いが、ちゃんと卵はマーブル状だし、食感も近い。さっきみたいにグニグニしておらず、もっちりしている。

 店の生地の方が見た目はいいが、もっちり感と食いごたえは山芋を使った試作第二号の方が上。

 店のいか焼きはおやつだが、試作二号は食事として出せそうである。家の晩飯としてならこちらの方がいいか?


 この結果からすると、生地に粘り気のある何かを混ぜるのは、方向としては間違っていないらしい。そして、いか焼きの値段から考えれば、そんなに高級なものは使っていないはず。そもそも、山芋を使っていたらもう少し高くなると思う。

 ……となると、片栗粉でも使ってるのか?



 3枚目を焼くと胃もたれ確実なので、研究はここで終了。しかし、もうひとつ使命が残っている。

 すり残った山芋の調理である。


 なにしろ1人前ずつしか作っていないので、生地に山芋をすりおろして入れるといっても、その量はたかが知れている。

 というわけで、すり減った山芋が残る。

 このままラップして冷蔵庫という手もあるが、山芋はわりとすぐ変色するので、とりあえず、すりへったあたりだけでも使っておきたい。


 というわけで、残った山芋を一口大に適当に切って、フライパンで焼く。両面ちょっとだけ焦げ目が付くくらい。


 焼けたら醤油をちょいかけて完成。


 これはなんていう料理なのかね。山芋の素焼き?


 しかし、これがめちゃくちゃうまいのである。料理はできるだけ手をかけない方が絶対にいい。凝ったことをするよりも、ただ焼いてちょっと味付けするだけが一番。


 ただ、この料理(といえるほどでもない)がうまいのは、しょうゆのおかけである。

 私が使っているのはキッコーマンのしぼりたて生しょうゆだが、これはヤマサの鮮度の一滴とかでもいい。

 重要なのはメーカーやブランドではなく、開封したらできるだけ早く使い切ること。そのために大きいのを買わないこと。


 しょうゆがうまいのは香りのおかげ。香りがなかったら、ただのしょっぱい液体である。これはみそなどにも言える。

 こうしたものは大量に買うべきではない。少量買って、劣化する前に使い切る。


 いろんなしょうゆを買うべきでもない。刺身用とかいろいろあるが、そんなものをいくつも買っていたら、期限までに使い切れなくなる。そして結局、刺身を香りのない、しょっぱい液体で食うことになるのである。だったら、一番スタンダードなのを1本だけ買った方がいい。刺身用でなくても、新鮮なしょうゆなら充分刺身を引き立ててくれる。期限切れのさしみしょうゆよりは断然いい。


 長期間鮮度を保つと謳われているしょうゆボトルは、開封してから90日で使い切るように書かれている。これはメーカーや大きさによっても違うかもしれない。

 これを過ぎてもしょうゆが腐ったりすることはないが、風味はなくなる。ただのしょっぱい液体になる。こうなると、満足のいくしょうゆ感を得ようとして、人は無駄にしょうゆをいっぱいかけてしまう。しかし、いくらかけたってしょっぱい液体はしょっぱい液体なのである。

 小さいボトルのしょうゆを買って、毎日食事の度にしょうゆの香気を楽しめるのは最高の贅沢である。

 家のしょうゆを小ボトル1本に絞ることで毎日贅沢なしょうゆライフを送るようになって、たかだか100円だか200円だかをケチって大きいボトルを買い、しょっぱい液体で飯を食っていたかつての私がいかに貧しかったかを思い知った。

 また、新鮮なしょうゆは少量で満足できるから、結果的に消費量も減って経済的でもある。無理してケチったり減塩しようとしなくていい。


 ……何の話だったっけ? いかの入ってないいか焼きか。



 それでは今宵はこの辺で。皆さんも夜な夜な料理研究に励んでくださいね。

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