小説・本

ミステリー

アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』(前編)

『黒後家蜘蛛の会』は、アシモフが参加していた「戸立て蜘蛛の会」をモチーフにした集まりを舞台に、アガサ・クリスティーの『火曜クラブ』のようなミステリーを書いたもの。


 私が読んだのは創元推理文庫の全五巻のもの。ただし、このシリーズでは晩年に書かれた一部の作品が未収録のままとなっている。


 黒後家蜘蛛の会のメンバーは6人で、会はミラノ・レストランの一室で行われる。ホストはゲストを連れてくるのだが、ゲストはその席でなにがしか謎を提示する。6人はその謎に挑むのだが、その末に正解を出すのは決まって給仕のヘンリーだ、という筋書き。


 多少の例外はあるものの、このシリーズの形式は全て同じ。提示される謎は多種多様で、犯罪が絡むものもあれば、単なる探し物、忘れ物を見つけるだけのものもある。扱うネタも文学、歴史、科学、地理と、アシモフらしく雑多。



 私はこの作品を、ミステリーというよりは雑談ものとして読んでいる。そもそも私はミステリーをミステリーとして読んでいない気がする。『シャーロック・ホームズ』もアガサ・クリスティの推理小説も、謎解きやトリックにはさして興味がなく、雑談の部分を読んで面白がっている節がある。すでにその作品のトリックや謎解きを知っていてもほとんど気にならない。


 ミステリーという点で言うと、このシリーズの作品には、いくらかこじつけに感じる展開もある。ヘンリーの答えが正解になるように話が組まれているだけで、ヘンリーの回答が他の人のものと比べて優れているようには見えないこともしばしばある。

 どの話だったか忘れたが、会の面々がコナン・ドイルやアガサ・クリスティについて論じているシーンがあり、その時に「『シャーロック・ホームズ』はホームズに都合が良く話が組まれている」と評していたが、それは君らのヘンリーも同じことが言えるじゃないか、と思って読んでいた。



 会のメンバーは6人だが、初期には欠席者が1人いる場合があった。今回、欠席者についてざっと調べてみた。ついでに各話についてのコメントも。

 本当はこのページで五巻全部について言及しようと思っていたが、長くなりそうなので分けることにした。


●第一巻


1.会心の笑い


 ホスト:ジェフリー・アヴァロン

 ゲスト:ハンリー・バートラム(私立探偵)

 欠席:ロジャー・ホルステッド


 ヘンリーの過去が明かされる珍しい回。もし最初からシリーズ化する気があったら、ヘンリーの過去は伏せていたのではないか……と思ったのだが、今回読み返してみると、初期の作品には会のメンバーの過去や私的な問題に立ち入った話が結構ある。


 ヘンリーはかつて、共同経営者に騙されて事業の権利を不利な条件で手放すことになったが、それに報いるためにあるものを盗んだ。それはなにか、という話。


 この話のオチは、『ルパン三世 カリオストロの城』の有名なオチの元ネタなのではないかと私は思っている。とんでもないものを盗んだ、というアレ。



2.贋物のPh


 ホスト:トーマス・トランブル

 ゲスト:アーノルド・ステイシー(大学助教授・化学者)

 欠席:ロジャー・ホルステッド


 この回も、ゲストの問題ではなく、ドレイクの大学時代の謎がテーマとなっている。成績がイマイチだった同期が、どうやってテストでカンニングをしたかが問題。


 カンニングをした人が問題を作って教授に郵送した、というネタは、少々無理があると私は思う。ただ、学生を落第させることに喜びを覚える変態クソ教授が、デキの悪い学生が満点近い点を取ったことに疑いを持たないばかりか、博士に推薦したのは不自然だという指摘はもっともだと思う。ホームズの有名な推理のひとつ「もし不審者が侵入したのだとしたら、犬が吠えなかったのは不自然だ」である。



3.実を言えば


 ホスト:マリオ・ゴンザロ

 ゲスト:ジョナサン・サンド(会社員)

 欠席:ジェイムズ・ドレイク


 ロジャー・ホルステッド初登場。そしてドレイクが欠席。これよりしばらく、ホルステッドは登場する度に『イリアス』の各章をリメリックにして披露することとなる。『オデュッセイア』もやると言っていたが、結局途中で挫折したらしく、それについてどうこう言う人もいない。


「決してウソをつかない男」がテーマ。その設定自体が怪しさ満載なのに、ヘンリー以外の人は誰もサンドを疑わない。疑いだしたらすぐバレる「ウソ」だからだろう。



4.行け、小さき書物よ


 ホスト:イマニュエル・ルービン

 ゲスト:ロナルド・クライン

 欠席:マリオ・ゴンザロ


 この回も、ゲストではなくトランブルの問題が焦点となっている。つまり、初期の頃はゲストが持ち込む問題がテーマになっておらず、実は『火曜クラブ』とよく似た形式になっていたわけである。

 読み落とした可能性もあるが、ゲストのクラインの職業等については、はっきりとは書かれていない。


 レストランにあるマッチブックをスパイの情報交換手段として使うという手口は、ワクワクする話であるが、実用性はない気がする。スパイがマークされていたら、そいつが手に取ったり戻したりしたものは全てチェックされるだろうし、一回怪しまれたら、マッチブックのマッチに傷を付けたり、蛍光塗料を塗っていたりするのは早晩バレるだろうからである。


 だからといってこの話がダメというわけではない。今では見かけなくなったが、どこの飲食店にでもあり、誰でも持って帰れるマッチブックのひとつに機密情報が隠されていたとしたら、という妄想にはロマンがある。



5.日曜の朝早く


 ホスト:ロジャー・ホルステッド


 初めてのゲスト無し回であり、初めてメンバーが全員集合した回。会としてもゲストがいなかったのは「初めてではないか」とされている。そして珍しく殺人事件の犯人当てという、本格推理小説らしきことをする。ますますアガサ・クリスティらしい展開。『スリーピング・マーダー』や『象は忘れない』など、クリスティが後期によく書いていた、過去の犯罪をテーマにした回である。


 そして今回は、ゴンザロのプライベートや過去がテーマとなっている。



6.明白な要素


 ホスト:トーマス・トランブル

 ゲスト:ヴォス・エルドリッジ(大学准教授・異常心理学者)

 欠席:マリオ・ゴンザロ


 アシモフは『指輪物語』のファンのくせに、超常現象がオチになる話は嫌いらしい。魔法はいいのかね。

『黒後家蜘蛛の会』では、しばしば超常現象や怪しい新興宗教がネタになるが、そういう場合は、必ず超常的なことを語る語りそのものにウソがある、というオチになっている。今回も「語り手」がウソを付いている、というオチ。


 落雷による火災を正確に予言した、という話だが、もし仮にこの話が本当だったとしたら、私達は超能力を信じなければならないのだろうか?

 私は少なくとも、この話だけでは信じる気にはならない。一回だけでは偶然だからである。100個のサイコロを振って全部1が出るのだって、偶然ありうる現象である。

 いくつもの火事を正確に言い当てられるというなら、その種がなんなのかは別として、何らかの言い当てる方法があるかもしれない、とは思う。


 そもそも、超能力よりも科学の法則の方が驚異だろう。何度でも予言を的中させられる。弾道学なんて悪魔の所業である。



7.指し示す指


 ホスト:ジェフリー・アヴァロン

 ゲスト:サイモン・レヴィ(科学評論家)

 欠席:ロジャー・ホルステッド


 なぜか欠席の多いホルステッド。アシモフが『イリアス』のリメリックをうまく作れなかったからだろうか。


 この回は雑談回として私の中での評価が高い。グレートブリテン王国建国法であるユニオン条約(1707年合同法)が何年に締結されたかを巡って賭けが始まったり、百科事典を持ち歩いて自分のページがあることをことあるごとに自慢するというアシモフへの言及があったり、シェークスピアについてのうんちくが繰り広げられる。


 ちなみに、ユトレヒト条約はスペイン継承戦争を終結させるための条約。なぜトランブルがイギリス内部の問題であるユニオン条約とユトレヒト条約を一緒くたに覚えていたかはわからないが、カトリック教会内部のごたごたの中で、ローマ教皇が支配するカトリックの在り方に反発した派閥がユトレヒト・ユニオンを結ぶくだりがあるから、それで混同したのかもしれない。もちろんこの場合の「ユニオン」も、イギリスのユニオンとは関係ない。


 死の間際に、老人がゲストに遺産のありかを教えるべく、シェークスピアの全集を指差した。それは一体どういう意味だったのか? という話。


 複雑に考えすぎていたけど実は簡単な謎だった、というのは、結構よくある。『ワイルドアームズ』をプレイした人なら、デ・レ・メタリカで嫌というほど思い知っただろう。

 これだけさんざんシェークスピアについて検証して、実は何も関係ありませんでした、というオチは、ミステリーとしてどうかは知らないが、リアリティのある展開ではある。なお、タイトルをよく考えればこの正解はわかってもいいはずではある。



8.何国代表?


 ホスト:マリオ・ゴンザロ

 ゲスト:アロイジス・ゴードン(警官)

 欠席:ロジャー・ホルステッド


 ホルステッドがまた欠席。

 ゴンザロが厄介なゲストを連れてくるという、恒例ネタの始まりの回である。


 美人コンテストに対して謎の犯行声明が寄せられる。その声明が指すのはどの国の代表の美人のことなのか、という話。


 聖書をネタにした回。ラハブがリヴァイアサン(海の怪物)で、リヴァイアサンが鯨のことを指すという解釈は面白い。日本ではリヴァイアサンというとダイダルウェイブを使う召喚獣を思い浮かべてしまう人が多いと思う。


 仮にこの事件当時にヘンリーがいたとしても、正解の国の人にだけ警備を付けることはしなかっただろうとは思う。犯行声明文(?)の解釈としては論理的だが、犯人が論理的とは限らないからである。誰でもいいから殺っちゃえと思っている可能性を否定できない。



9.ブロードウェーの子守歌


 ホスト:イマニュエル・ルービン

 ゲスト:ヘンリー・ジャクスン


 ルービン宅で行われた回。ゲストはヘンリーだが尋問は拒否している。ミラノ・レストランが舞台でなかったのはこの回のみ。ヘンリーの私服姿が描写される貴重な回である。

 ルービンの住むマンションの騒音問題がテーマ。不定期に謎のコンコン音を出している奴は誰が何の目的でやっているのか。


 あとがきによると、謎の音に悩まされたというのはアシモフ自身の実話だそうである。腹が立ったから、それをネタに作ったのがこの話。

 この情報伝達手段に実用性があるかどうかはともかく、スパイの話はワクワクする、ということは「行け、小さき書物よ」でも言った。


 もしマンションの住人がスパイかもしれないと疑われたら、その住人が自宅でコンコンやっているとなれば、それが暗号かもしれないとすぐ疑われるだろう。だから、この情報伝達手段が電信に比べて優れているとは言い難い。



10.ヤンキー・ドゥードゥル都へ行く


 ホスト:ジェフリー・アヴァロン

 ゲスト:サミュエル・ダウンハイム大佐


 とある不正を隠している人が、追い詰められると「ヤンキー・ドゥードゥル」の鼻歌を唄う。それは何を意味するのか。


「ヤンキー・ドゥードゥル」がネタの回。日本だと「アルプス一万尺」として知られている。この回の話によると、アメリカでもいろんな歌詞のバリエーションがあるようである。



11.不思議な省略


 ホスト:ロジャー・ホルステッド

 ゲスト:ジェレミー・アトウッド


『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』がテーマ。「アリスの不思議な省略」とは何なのか?

 この回は文学研究みたいな話ということもあってか、結構好き。犯罪と関係のない話というのもいい。

 ミステリーというと、殺人事件こそ至上という風潮があるが、人殺しなんて面白くも何ともないと私は思う。誰かが殺されたこと、誰かが殺したことは確実で、ミステリーも何もあったもんじゃない。How、Who、Whyは、人間社会にとっては問題かもしれないが、パズルとしては些末なことである。それよりは、こうした単なる謎掛けの方が私は好き。


 言われてみると、ここでいう「不思議な省略」は不思議である。なぜ書かれなかったのだろう。



12.死角


 ホスト:トーマス・トランブル

 ゲスト:ウォルドマー・ロング


 機密文書を盗み見した人は誰かを当てる話。しかし、その本題に入る前の、詩に関する議論が面白い。リメリックの形式についての話だが、英語を母国語としていない私にはいまいちピンと来ない話ではあるが、それでも興味深い。


 この作品は、小説ならではの仕掛けだと思う。映像作品だと、この仕掛けは結構バレやすいと思われる。



●第二巻


1.追われてもいないのに


 ホスト:イマニュエル・ルービン

 ゲスト:モーティマー・ステラー(作家)


 あとがきで言われているように、このゲストはアシモフの自画像となっている。自分を自分の作品の主要キャラクターとして出すとは、さすがアシモフである。


 ステラーの原稿をボツにするでも掲載するでもなく、ずっと保管したままにしているのはなぜか。


 出版業界がネタになっていることから、この回はディティールが細かい。スパイものの回の紋切り型の嘘くささと比べると、やはりアシモフにも得意不得意があるんだなと思わされる。



2.電光石火


 ホスト:トーマス・トランブル

 ゲスト:ロバート・アルフォード・ブンゼン(トランブルの上司)


 たまにある、トランブルが自分の仕事関係の話題を持ち込んでくる回。スパイが監視されまくっている中で、どうやってブツを受け渡したか。

 これは、チップを払う習慣のない日本人にはバレやすい手口だが、アメリカだと本当に見落とされそうである。


 本題に入る前の雑談が伏線となっているわけだが、ゴンザロが「生活保護を受けている者は怠け者だ」というタクシーの運転手と口論した末、チップを払わなかったという話はなかなか興味深い。チップが施しなのか報酬なのか、という話。

 アメリカでは、ホテルやレストランの従業員には、店側からは給料が支払われていないという話を聞いたことがある。チップがそのまま稼ぎとなるらしい。これが本当なのかは知らないが、だとしたら、ゴンザロが全員から非難されたのは当然と言えば当然。ただ、客と口論するのはサービス業としてどうなのか、というのはある。チップがサービスに対しての報酬であるなら、客の気分を害したらもらえないのも仕方ない気もする。



3.鉄の宝玉


 ホスト:ジェフリー・アヴァロン

 ゲスト:ラティマー・リード(宝石商)

 欠席:トーマス・トランブル


 トランブルが唯一欠席した回。これ以降、しばらく欠席者はいなくなる。なぜこの回でトランブルを欠席させたのかは謎である。突然、たまには誰か欠席している方がいいと思ったのか。


 ゲストの持ってきた隕石にまつわる話がテーマ。ゲストが持っている隕石に、異常な興味を示した人がいた。それはどういう理由だったのか。


 この回は面白い。隕石が実は聖遺物の欠片なのではないかという大げさな話が展開したり、詐欺師の見事な手腕が描かれている。ヘンリーの最後の一言も皮肉が効いていていい。人の意識の外を突くという点では「電光石火」と似たようなネタともいえる。



4.三つの数字


 ホスト:ジェイムズ・ドレイク

 ゲスト:サミュエル・プンチュ(物理学者)


 金庫のパスナンバーを当てる回。金庫のナンバーを書いた紙はあるのだが、その通りに回しても金庫は開かない。なぜか。


 この回の解答は、現代人ならすぐわかる。パスワードなどを入力する際、紛らわしい文字に悩まされた経験などを持っている人は多いだろうからである。



5.殺しの噂


 ホスト:ジェイムズ・ドレイク

 ゲスト:グレゴーリ・デリュアシュキン(科学評論家)


 ドレイクが二連続ホストとなっている。「三つの数字」が1974年9月号の"EQMM"、「殺しの噂」は"EQMM"でボツとなり、1974年10月の"F&SF"で初出だそうだから、この2作は作られた順番もこの通りのはず。同じ人が連続でホストとなるのは珍しい。


 ソ連人のゲストが公園で殺しの相談をしている学生と出くわすという、冷静に考えてみると妙な話がテーマだが、まさかここからトールキンの『指輪物語』に持っていくとは、予想できた人は少なかったのではないかと思われる。


 外国人が母音を聞き取りづらいというのは、含蓄のある話だと思う。



6.禁煙


 ホスト:マリオ・ゴンザロ

 ゲスト:ヒラリー・エヴァンズ(会社の人事部長)


 トランブルが嫌煙家であることがわかる回。

 本シリーズでは出席者が喫煙していることを明示している描写は少ないが、ないわけではない。ドレイクが煙で輪っかを作ろうとして失敗するという描写や、ゲストがドレイクに「自分だけ煙草を吸うことに抵抗はないか(その回ではドレイクのみが煙草を吸っていた)」と訊かれたときに「ないね」と答えたことがあった。しかし、トランブルが喫煙について文句を言うのは今回だけである。とって付けたような設定。


 あとがきによると、アシモフも嫌煙家とのこと。当時は喫煙している人の方が偉いみたいな時代だったので、ずいぶん嫌な思いをしてきただろうと思う。

 今では飲食店はもとより、ゲームセンターですら禁煙のところが増えた。そう考えると良い時代になったもんである。



7.時候の挨拶


 ホスト:ロジャー・ホルステッド

 ゲスト:レックスフォード・ブラウン(グリーティング・カード業)


 今となっては廃れつつあると思われるが、グリーティング・カードの話からのスパイの情報交換話。当時は冷戦下だったこともあり、スパイ話は大人気。



8.東は東


 ホスト:マリオ・ゴンザロ

 ゲスト:ラルフ・マードック(厳格なキリスト教の宗派のエルダー)


 ときおり訪れる、ゴンザロが厄介なゲストを連れてくる回。そして、このシリーズにはときおりある、遺産相続のために謎解きをする回である。私の好きなタイプの謎解き話。


 アンカレッジ、アセンズ、オーガスタ、カントン、イーストン、パース・アンボイの中から「唯一無二の東」を当てるわけだが、これはなかなか面白いパズルである。どれも何らかの理由で東と関係がある。


 前座である厳格な宗教家と会のメンバーとの論戦も面白い。理屈をこね回すのは得意なメンバー達をしても、エルダーを攻略することは適わなかったのであった。

 このやりとりは、天体物理学者のニール・ドグラース・タイソンがホストを務める番組『スタートーク』にて、ゲストに宗教家(名前は失念した)を招いて対談したときのくだりとよく似ている。ニールはなんとかして宗教家をやり込めようとするのだが、相手もそう簡単に崩れないのである。

 しかし、ニールや会のメンバーの気持ちはよくわかる。科学の存在を支持しつつ、聖書の内容を信仰するのは無理があるように思えてならない。どう折り合いを付けているのだろう。シャーロキアン(シャーロキアンの態度はもともと聖書解釈のパロディではある)やガンオタのようなものなのか。



9.地球が沈んで明けの明星が輝く


 ホスト:イマニュエル・ルービン

 ゲスト:ジャン・セルヴェ(SF設定を考える人)


 ゲストの職業を何というかは、作中でははっきり書かれていない。SF技師とは表現されているが。実在する職業なので、何らかの名前は付いているのだろうが。


 セルヴェは共同で仕事をしている人と共に、映画の月面基地の設定を考えている。セルヴェはバイィクレーターに基地を置くのがいいと考えるが、相棒はなぜか強硬に反対する。なぜか。


 月面で地球がどのように見えるかを取り扱っている作品で、アシモフが得意とする分野のひとつである。しかし、オチはそうした科学的な話とは全然関係ないところに落ち着く。



10.十三日金曜日


 ホスト:ジェフリー・アヴァロン

 ゲスト:エヴァン・フレッチャー(経済学者・大学で教えている)


 日本において十三日の金曜日が不吉という風潮が出回ったのは、ジェイソンの影響のような気がする。今となっては気にする人も少ないと思われる。


 この作品の字数の大半は、十三日の金曜日がどういう周期で登場するかを解説するものとなっており、なかなか役立つ回と言える。どう役立てられるかは知らないが。

 パン屋は目方が少ないだのなんだのと言われるのを避けるため、1個多めに入れておくという「パン屋の1ダース」の話は興味深かった。



11.省略なし


 ホスト:ロジャー・ホルステッド

 ゲスト:ロナルド・メイスン(系図学者)


 コレクションとしての本にまつわる話。私には縁の無い世界である。ただ、三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』が、本当に古書に興味がないとついていけない内容だったことに比べると、この話は素人が適当に読む分にも面白い内容になっていると思う。この辺のうまさが、素人向け解説本を多く手がけるアシモフならではといえる。


 そしてもうひとつ、この回の謎は「切手をどこに隠したか」であり、切手コレクションの話でもある。この作品に出てくるニューギニア・オレンジというのがどういうのかは調べてもわからなかったが、三角形の切手というのは案外あることはわかった。



12.終局的犯罪


 ホスト:ロジャー・ホルステッド

 ゲスト:ロナルド・メイスン


 メイスンの職業は、たぶん書かれていない。シャーロキアンの集まりである「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」のメンバーだと紹介されている。実際、この回においてそれ以上の説明はいらない。


『ホームズ』に登場する敵役(実際はホームズを殺すために取って付けて用意されたに過ぎない人物だが)、モリアーティは数学者であり、『小惑星の力学』という論文を書いたとされている。この内容がどんなものかを論じるのがこの回の趣旨である。


 本当はアシモフが考えた内容を、ヘンリーが会の雑談の中で導き出すという展開には無理があるが、そんなことはどうでもいいだろう。ガンオタがミノフスキー粒子について真面目に考えるのと同じく、コナン・ドイルが思いつきで適当に考えた設定をアシモフが真面目に回収しようとする、秀逸な回である。

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