【完結】真実

そこには、走ってきたのか息を切らしてはぁはぁ言っている幼馴染みの姿があった。

俺は何が起こっているのか全く理解できなかった。

しかし幼馴染みのその男は俺を一瞥すると俺の向かい側にいる久藤さんの方に視線を送った。

蓮は久藤さんの方に詰め寄ると、「満足ですか?」と言った。

俺にはなんのことか全くわからなかったが、蓮は少し怒っているように感じた。


久藤さんはとぼけた顔をしていた。

「なんのことかな?」

蓮は久藤さんに携帯を突きつけた。

「これですよこれ。」

そう言って蓮は久藤さんの眼前に何かをみせた。

「ははは、何軽い冗句のつもりだったんだけど。本気にしたの?」

そう言っておどけて見せる久藤さん。

蓮は俺のほうに向き直るとズカズカと歩み寄ってきた。携帯の画面を俺に向けてきた。

「ねぇこれホントなの?」

携帯に映し出された画像を見るとどうやら、この前までサポートとして入っていたバンドの宣材写真だった。

しかしそこには俺も写っていた。

はっ?俺は蓮から携帯を奪うと写真をじっくりと見直した。

いやいや待て待て。俺このバンドにサポートで入ってたけど加入するなんて聞いてないぞ。

俺は久藤さんの方を見た。

すると久藤さんは笑っていた。

「ごめんごめん。蓮くんの本音を知りたくてつい。まぁその様子だと、零くんとバンドを組みたい気持ちはあるようだね。」

「…。」

「零くんも以前よりもっと上手くなっているし、そろそろ認めてあげても良いんじゃないかい。それともそれ以外に何か理由でもあるのかな?」

「…。」

蓮は相変わらず無言だったが、否定はしなかった。

こうして俺と蓮はバンドを結成することになった。


−2年後(高校3年 3月)−

俺は2年前に蓮と再開したライブハウスを訪れていた。

ここから全て始まった。

蓮の音楽を聴いて、ドラムの練習をして、バンドを組んで高校生活はとても短く感じた。

メンバーも2人増え4人になっていた。

明日のライブで発表予定だが、俺達はメジャーデビューすることが決まった。

デビューの曲もすでにドラマの主題歌として使われることが決まっている。

久藤さんは学業も大切だからと俺たちのデビューを高校卒業に合わせてくれた。

これからは音楽に専念できる。

俺は家を出て一人暮らしをする予定だ。

これで父親と兄とも顔を合わせることはなくなるし清清せいせいする。

俺の母親が亡くなってからだいぶ時間が流れたんだな…。

久しぶりに母親に伝えに行こう。

そう思い至った俺は、花を買い母のお墓参りに行くことにした。


一人で訪れたことはなかったけど、確か母のお墓は…。

勘を頼りに目的地に向けて歩いていく。

そこで俺は想定外の人を見つけた。

親父…。

…なんでいんだよ…。

俺は踵を返そう振り向くと、ドンッと誰かにぶつかった。

「すいませ…。」

謝ろうとしたその言葉を飲み込んだ。

そこにいたのは8歳上の兄"綾辻圭あやつじ けい"だった。

「零〜!高校卒業おめでとう!そしてバンドのメジャーデビューもおめでとう。」

俺はありがとうと言おうとして口を噤んだ。

えっ…。なんでこいつデビューのこと知って…。

「あれ?メジャーデビューするんだよね?」

「なんで知ってんだよ…。ってかなんでバンドのこと知ってんだよ…。」

「あぁそのこと…。それだったら簡単だよ。久藤さんから聞いたんだ。」

そう言うと兄は久藤さんが俺と出逢ってすぐ、実家へと連絡を入れていたこと。しっかりと父親に挨拶をしていたことを知った。

あぁ…。くそっ。全部筒抜けだったのかよ。

なんか馬鹿らしくなってきた。

「そうかよ。じゃあ俺はこれで帰るから。」

そう言って兄に持っていた花を渡そうとした。

「まだ母さんに挨拶してないんだろ。ちゃんとした方がいいよ。それに父さんと会うのだって久しぶりだろ?」

そう言うと兄は帰ろうとしていた俺の背中を押して母の墓のある方に連れて行った。

「父さん。零も母さんに会いに来たみたいだよ。」

父はそうかと頷いた。

俺は父とは目を合わさずに、母にデビューの事を報告した。

「それじゃ!」

そう言って帰ろうとしたが、またもや兄に捕まった。

「家に帰るんでしょ?俺達もそっち戻るから送ってく。次いつ会えるかもわからないしね。」


父と共に後部座席に乗せられた俺は気まずくて始終外の景色を眺めていた。

「…その…なんだ…卒業おめでとう。卒業式行けなくてすまなかった…。」

突然父が話し始めた。

「…あ…ありがと。」

「バンドも頑張れよ。」

一呼吸置いて父は続けた。

「母さんが亡くなってからお前とちゃんと話せなくてすまなかった…。家のことは母さんに任せっきりでどう接していいのかわからなかったんだ。圭は自分から話してくるからよかったが、お前は俺のことを避けていたから…。いやそれは言い訳だな。何もしてやれなくてすまなかった。」

「……………。お前は俺のこと呆れてたんじゃないのかよ。」

俺は長年の葛藤を吐露した。

しかし父からは予想外の答えが返ってきた。

「呆れる??そんなこと感じた事はない。お前は悪いことには手は染めなかったし、勉強だって真面目にやってただろ。ドラムを始めてからのお前は生き生きしていたし何度かライブに行ったこともある。」

「はっ…。俺ライブに招待したこと一度もなかったけど。…もしかして久藤さんか…。」

「ははっ。そうだ久藤さん若いのにしっかりしていて何度かお前の動画も送ってもらったよ。」

顔が真っ赤に染まる。

「父さんはどう思う?」

「なんだ。俺は音楽にそんなに精通していないからなんとも言えないけど、お前含めお客さんも楽しそうだ。それが答えだろ。」

「そうかよ。ありがと。」

最後の方は照れ隠しで声が小さくなった。

車が止まり兄が声を掛けてきた。

「零着いたよ〜。俺と父さんはまだ仕事があるから、今度ゆっくりご飯でも食べような。」

俺は「あぁ、ありがとう」と言い車から降りると、次からライブは父さんと兄さんも招待してあげるかと密かに思うのだった。


Fin

※一旦完結です。また続きやら飛ばした高校時代執筆を執筆する可能性あります。

 ここまでお読みくださった方ありがとうございます。

※八雲蓮の話について今後掲載予定です。こちらは恋愛メインです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青春は甘くそして苦い 白雪凛(一般用)/風凛蘭(BL用) @shirayukirin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ