俺の幼馴染が、ある日突然スゴロクを出す異能に目覚めた件

ホルマリン漬け子

第1話

 ここはカクヨム企画高校、放課後。屋上。


 同級生の幼馴染とスゴロクをしていたら、ゴール目前でとち狂ったマスに止まった。


『聖剣が、つわりのため五回休み』


 っていうか、意味が分からない。


「おい……」


 俺は、どん引いたジト目で上から下まで舐めるように、スゴロクを持ってきた美南を見つめた。こいつのスゴロクは、一つ残らずいつもどこかおかしい。


「う、うるっせぇえぇ! あたしが悪いんじゃねぇええええよおおお!!」

「うるっせぇええ、おめーが悪いに決まってんだろ!?」


 背が低くて非力なくせに、逆ギレして殴りかかってきた美南を、俺は真正面から受けて立った。

 短い茶髪を振り乱し、腕をつかみ合って言い争うのも、もはや何回目かも分からない。


 スゴロクは、マスの目に止まってみるまで指示内容が分からない仕組みで、今回のスゴロクはどうやら異世界ベースで魔王を倒してゴールするものらしかった。


 勇者として召喚された俺と美南は、武器を揃えゴブリンを倒し、レベルをあげてようやく魔王城までたどり着いたのだ。


「聖剣が・つわり・って、なんだよ、妊娠してんのかよ!? どういうことだよ!?」


「あたし、が、知る、くぁあああ!! つわりってんだから、妊娠してんでしょうよ! 妊婦を魔王城まで連れてきた、あんたが悪ぃのよ! このゴミ勇者が! ぺっ」


「ちょ、おま。なに、この聖剣って女属性だったの? ドラゴンの尻尾から出てきた時、すでに妊娠してたの!? まじで!? いや、ねぇだろ!」


 正規ルートから外れた、いつわりの異空間に封印されていた古代ドラゴン。苦労の果てにようやく打ち倒し、俺は聖剣を手に入れたのだが……


「へっ。あたしは、見抜いてまーしーた〜。だから、そのルートは回避したんですぅ〜」


 俺を見上げながら、見下げた視線で美南がマウントをとってくる。


 ドラゴンルートは、隠しルートでたまたま止まったマスが入り口だったのだ。


「あんたは、隅っこで正座でもして、あたしの勇姿を眺めてりゃいいのよ!」


 そう言って、自信満々で美南がサイコロを振った。美南も魔王との決戦ゾーンに入っていて、ゴールは目前まで来ている。


 殴り魔法使いとしてステータスを伸ばしてきていた美南も、俺が聖剣を入手すると一転して極大消滅呪法を会得し、大魔道士にまでなっていた。


 魔王に呪法を命中させ、ラスト一撃。


『お尻のおできが気になって、2マス戻る』


「あほかぁあああああ!!! シリアスが台無しじゃぁあ!! なんでやねん!?」


 美南は一人でもだえながら、2マス戻ったその先には、


『いい天気なので、振り出しの村に戻る。最初からやり直し』


「うぎぃ〜! ふっざけんな!? なんでや!? いや、おかしいやろ。ちょう待てや。シナリオ書いたん誰やねん!? 下手くそにも程があんねんで!? いや、いやいやいや、そこちゃうし!? ゴールさせる気ないやろ、このゲーム!? 一体ホンマなんなん!?」


 美南は小さな体全部を怒りに任せ、スゴロクをひっくり返し足で踏みつけ、しまいにはフリスピーのように思いっきり投げ捨てた。


 その様子をニヤニヤと、菩薩のごとく慈愛をもって眺めていると怒りの矛先はこちらに向いた。


 美南が食ってかかろうとした、その時。


 屋上の中心が光り輝いた。


 ひときわ大きく輝き、光が収まった場所には新しいスゴロクが出現していた。


 スゴロクを出す異能。


 ある日、美南は異能に目覚めたのだった。


 いかに超常現象とはいえ、あまりにもしょぼい異能に、幼馴染の勤めとして俺は心ゆくまでからかい、煽りに煽るとその異能は怒りによってレベルアップし、追加スキルが生えた。


『好きな男子と異空間に閉じ込められる。スゴロクでゴールするまで、ずっと一緒にいられる』


 もう突っ込みどころが多すぎる。


 ちょっと運営とサシで話する必要があるレベルの事案と言って過言でない。


 まぁ、そんなわけで俺と美南は、高校の屋上という異空間に閉じ込められている。


 青空があり、見渡す風景はいつもの街であっても人はもちろん鳥も猫もいない。お腹も空かない。校内に戻るドアは施錠されたように動かず、屋上からも出られない。


「こ、今度こそ、ゴールして、帰ってやる……!!」


 スキル名「好きな男子とゴールするまで一緒にスゴロク大会」という、俺が美南だったとしたら悶絶ものの名前のせいで、好意があることがバレてしまった美南は、一貫して俺に興味がないというプレイの真っ最中だ。


 その気持ちは、まぁ分からんでもない。


 ちなみに、スキル名は俺と美南の脳内に勝手に聞こえてくる仕様だ。


『レベルアップしました』


 いらつくシステム音声が、突然脳内に聞こえた。


『さらに、強制レベルアップします』


『スキル、『本人もマスの指示通りの行動をする』が派生します』


 うん?


 新しく出現したスゴロクを、四つん這いになって確認していた美南の尻がぷるぷる震えている。


 俺も近づいていって、美南の肩ごしにスゴロクを覗きこんだ。


『彼ぴと、うれしはずかし王様ゲ〜ム』とタイトルがあった。


 疑念の余地がないほど、運営の年齢をいとも容易く邪推できる残念タイトルだ。


 どうやら、ゴミ運営(?)が本気を出してきたに違いない。

 俺としても、もともと嫌いではない美南と、強制的に、いたしかたなく、しょうかたなく、みっちりじっくり王様ゲームをやるのは、実は、やぶさかではないことを心の中では正直に申し述べておこう。


 さらにゲーム盤を見ていくと、いくつかのマスは開いていて、指示内容が読めた。


『夕陽をバックに手を繋ぐ』

『夏祭り、海岸で打ち上げ花火を二人きりで見る』

『夜、学校のプールに忍び込んで泳ぐ』


「ここに閉じ込められてんのに、どうやって夏祭りとか行くんだ?」


 その辺りは、異能の超常現象的ご都合主義が発動するのだろうか? ほかに開かれたマスはというと、


『ポッキーゲーム』

『温泉旅行』


 など、健全な男子高校生から見て、現場を妄想するに実にけしからんマスが多数存在している。

 まったくもって不本意で、嘆かわしいことだ。あたかも清流のごとく清らかな俺のいつわらざる心情を、機会があればとうとうと吐露することになんらの戸惑いもないことを賢明なる父兄諸氏ならば朝露にきらめく陽光を見るがごとく刹那にご理解いただけることと固く信じている。などと思惟に耽っていると……


「は!?」


 美南が、生ぬるいジト目でまっすぐに俺を見ていた。


「ふん! チェンジ!」


 王様ゲームを踏みにじってから破り捨てると、新しいゲームがすぐさま召喚されてきた。


 そのタイトルは、


『究極リアルな異世界召喚。勇者と姫の魔王討伐』


 という、いやな予感しかしないクソタイトルだった。


「チェンジ!」

「これにしましょう」

「え、いや、あの、美南さん?」

「こ、れ、に、し、ま、しょ、う」

「あ、はい」


 こうして、俺と美南は異世界に召喚されることとなったが、それはまた別のお話!


 完




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俺の幼馴染が、ある日突然スゴロクを出す異能に目覚めた件 ホルマリン漬け子 @formalindukeko

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