第2話 大望の始動

 入学試験が終わった後の最初の土曜日に俺は朝からベースをもって家から出ようとすると


「お兄ちゃんが外出しようとしてる!?病院でも行くの、どこか悪いの!?」


「何!?病気だって!?大変だ今すぐ車の用意するからな!」


 と、騒ぎ出す親父と妹。


 相変わらず心配性なんだな。


「違う、バンド仲間と練習するだけだよ」


 と反論すると


「「お前(お兄ちゃん)に友達なんて居ないだろ(でしょ)!」」




 なんて酷いことを息のあったタイミングでいってきやがったので無視して家を出る。


 もう知らん。



 この間まで毎日通っていた学習塾の前にある最寄の北名山駅まで歩いて行き、ホームで先輩を探す。


 いた!


 改札口の前でギターケースを担いだ先輩がスマホをいじって待ったいた。



「すみません、お待たせしました!」


「ううん、私も今来たとこ」


(;`Д´)<お゙お゙!お゙お゙!


 なんかデートっぽい!


 

 でも、何かおかしい?



「先輩、まだ9時半なんですけど集合10時でしたよね?本当は何時から居たんですか?」


 と、左手首につけた腕時計をトントンと指さして問い詰める。



「さっき、だよ」


「本当ですか?頬っぺた触っていいですか?さっき来たならまだ暖かいと思うんで」


両手をワキワキさせながら先輩に近づく


「う…本当は9時」


 さっきまでの澄ました顔が崩れ恥ずかしそうに顔を逸らした。



「本当ですか?」


「うん、これはほんと」


 マジか。


 俺は先輩と初練習が楽しみすぎて30分前に着いてしまったが、先輩はそれ以上に楽しみにしていてくれた。


 嬉しくて勘違いしてしまいそうだけど


 でもソレはきっと先輩のことだから本当に練習が楽しみだっただけなんだろう。



「手、冷えてませんか?」


「大丈夫、手袋つけてるから。スマホをそのまま触れるやつ」


「首元は大丈夫ですか?マフラー付けますか?ほっとレモン買ってきましょうか?」


「過保護」


 と、ジト目で睨まれてしまったが。



「すみません」


 だってもう後少しで3月になるって言ってもまだ2月であってこんな朝早くから30分以上もこんなところに立っていたって知ったら心配にもなる。


 次は絶対に集合1時間半前には来よう。


 予定よりも早く集合してしまったので、1本早い電車に乗って電車で1時間揺られて都会へ出る。


 2人でボックス席に向かい合って座っているだけでもとても幸せに感じられた。


 入学試験の後の大失態を思い出すと今でも胸が痛い。羞恥心でその場に蹲っまてしまった時、結局立ち上がるために先輩の手を借りてしまって更に恥ずかしかった。


 それに、口調も少しは砕けたかもしれないが敬語がほとんど抜けなかった。


 やっぱり俺にとって先輩は先輩なのだ。


 Bluetoothのワイヤレスイヤホンを耳に指して目を瞑っている先輩の姿を何となく見ている。


 外の景色よりもその方が何兆倍も有意義な時間の使い方であり、まじまじ見ていると先輩の気が散ってしまうからチラチラっと見る。



「何、どうかした?」


 ダメだった。


 俺はそんな器用なことできる人間では無かったみたいだ。


 先輩は片耳のイヤホンを外し、片目を開けて俺の方を見る。



「先輩が何を聞いているのかなって少し気になっただけです」


「聞く?」


 もう片方のイヤホンも外そうとするので俺はそれを静止する。


「いえ、邪魔をする気はありません。少し興味があっただけですので。」


「そう。今聞いているのは『VOLOS』のサードアルバムのやつ」


「あー、たしか名前は」


「「NORD RETTA」」


 と先輩と声が重なった


「知ってるの?」


「はい」


『NORD RETTA』


 確かイタリア語で意味は「北の境界線」ということ以外は知らない。


「そっか、私の夢は『ルベル』を越えるミュージシャンになること。だから、ちゃんとついてきてね『ラギ』?」


「もちろん最後までついて行きます!俺の目標は『ノイント』の様に『ナギサ』先輩を輝かせることですから!」


 と、2人で言って笑いあった。


 そこからはずっと『VOLOS』談義に花が咲いた。


 駅に着いた後もずっと喋っていた。


 だから、あっという間に今日の目的地に到着した。



 楽器屋「カノン」



 外から見ると少し古い建物の様だが地上2階地下1階の大きな楽器屋でここに来れば大抵の物は揃うと言える程に品揃えはバツグンで実は知られざる名店みたいな感じの雰囲気がある。いや、名店かどうかは知らないが。


 それに親父の友人の店らしく、俺のベースは3人でここに買いに来ていたのでその時に実は店の中にスタジオがあり2人までなら個人練習扱いになって1時間あたり1人500円で貸してもらえることを知っていた。


 これは、とても割安でまだ中学生の俺と高校生の先輩からしたらとても嬉しい値段設定だった。


 普通ならばこんなに安い所なら人気が高く予約が殺到しそうなのだが、実はそんなことは無く普段からガラガラらしい。



 理由は簡単でこのスタジオの存在は一見さんでは知ることが出来ないからだ。


 店内に練習スタジオは1つしかなくて昔、練習に来た客どうしが店の中で喧嘩したらしくその時に怒った店主は「これからは自分が認めた奴にしか使わせない」的なことを言ってから今でもネットや看板には練習スタジオの事は一切書かれていない。


 今日俺たちがここを使えるのも親父の友人がその時の店主の息子つまり現店主であり、ベースを買った時に親父が話をつけてくれたおかげで「好きな時に来い」と言ってくれたからだ。


 そういう訳で俺たちはこの店の中に入りカウンターの方でスタジオを借りようと茶髪の女性店員に話しかけると


「ええっ、スタジオのこと知ってるの!?」


 と、驚かれてしまった。


「はい、父がここの店長の知り合いでその伝手で教えてもらいました。もちろん許可も貰っています。」


「そうなんですね、私この店でアルバイトを始めてから結構経つんですけどスタジオ借りに来た人初めて見ました。」


「そんなに人来ないの?」


 と、先輩が言って2人同時に少し怪訝な顔をしたので店員さんは微笑んで


「機材の事は心配しなくても大丈夫ですよ私が保証します。私がここでアルバイトしてる1番の理由は仕事終わりに無料でスタジオを貸してもらえるからですから。」


 と、俺たちの不安を読み取り払拭してくれた。


 それから取り敢えず3時間分のレンタル料を2人で払い案内して貰った。


 中に入ると、そこには沢山の機材が置いてあった。


 マイクやスピーカにギターアンプとベースアンプはもちろん、他にもドラムやシンセサイザー、そしてそれらの機材から出る音量や音のバランスを調節するミキサーが置かれておりさっきの店員さんが言った通り何も問題は無さそうだ。


「それでは、使い方を説明しますね。」


 そう言われて、ここにある機材の使い方を教えて貰った後その店員さんは「では、ごゆっくり」と言って出ていった。


 俺たちはお互いの愛機をギグバッグ(緩衝材入りで持ち運びに適したギターケース)から取り出してシールド(ケーブル)からアンプに繋ぐ。


 少し試し弾きをしてミキサーで音量を調節する。


 さて、準備は整った。


 これでは第1回合同練習を始める!


────────────────────


ロッキン・ニード・ユーをお読みいただき誠にありがとうございます。


こんな風に少しずつ業界用語というか専門用語を入れていこうと思いますのでよろしくお願いします。


何か分からないものがあればコメントにて質問してください。ちゃんと説明しますね。


では、また






























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