第11話 焦土と芽吹 side 秋津(5)
それから、先生と晩御飯のカレーを温め直し一緒に食べた。
その後、2人でコーヒーを飲みながら今日の出来事の説明と昨日の録音を聞かせると先生は「はぁっ」っとため息をつきながら頭を抱えた。
「それで?これからあなたは私の家に住み着く気なのですか?」
「はい。」
「食費などの生活費は?」
「多分、今週の日曜日にその辺のことを決めると思います。」
「なるほど。次にこの家は1LDKであなたの部屋はありませんがどうするつもりですか?」
「リビングに布団敷くだけでいいです。それに、普段は日中家にいませんから。」
「そうですか、それでも不便ですね。この家で二人暮しはさすがに狭いですし…」
そう言って顎を右手でつまみ下を向いてブツブツと何かを言った後に
「決めました。引っ越しましょう。今週はあれなので来週にでも少なくとも2LDKの家に引越しです。」
「良いんですか?まぁ私が嵌めたみたいな物なので私が聞くのもおかしな話ですけど」
「ホントですよ。全くよくもやってくれたなこの不良娘はって気分です。」
と言われて少ししゅんとしてしまう。
まぁ勝手に同居すると取り付けたのは私だから全部私が悪いんだけど。
しょげて顔を下げてしまった私の頭にポンっと優しく先生の手が乗った
「でも、ちゃんと話し合って、ちゃんと決められました。どちらもが納得する形で解決したことはすごいと思いますよ。形はアレですがよく出来ました。昨日のあの雰囲気は最悪でしたから上出来です。」
と言って私の頭を優しく撫でてくれた。
「それに、思春期の子供の面倒を見るのは先生の仕事ですから、ね」
と言って手を頭から離して顔をあげた私にウィンクしてくれた。
その後は先生がお酒を飲まなかったので昨日みたいにはっちゃけずに2人ともお風呂に入ってから来客用の敷布団を寝室のベッドの隣りに敷いてくれたのでそれに横になって寝た。
私は実家で着ていたいつものパジャマで寝たが、先生は今度は茶色いクマミミフードが付いたモコモコアニマルパジャマだった。
一体何着あるのだろう?
日曜日には2人で私の家に行き、生活費やお小遣いなどの話から私の部屋の荷物をどうするかのとか色々と話をした。その後に、
「娘の事をどうかよろしくお願いします。」
と父が先生に頭を下げたのにはとても驚いたが、嬉しかった。
そして、この父は頑固で偏屈でなかなか私の話を聞かないけど愛されていない訳ではないことを改めて実感した。
何だか結婚報告みたいな空気になってしまった。
私、結婚するのかな?
やっぱり新妻なのかな?
先生はやはりとてもしっかりした人なのでその人柄が私の両親に認められたおかげか夕飯は父が大盤振る舞いで出前寿司をとった。
次に私がこの家でご飯を食べるのはお盆に帰ってくる時だろう。
食べきれなかった分をタッパーに入れてお土産にもしてくれた。
帰り道の途中赤信号で車が止まった時、先生から「いい両親ですね」と言われた。
前までなら「は?」とキレて騒いでいたと思うし、半日不機嫌でピリピリとした雰囲気を流しただろうが
「まぁ、いい両親ですよ。嫌いですけど。」
とそっぽ向いて答えた。
心の中は凪いだ水面の様に穏やかだった。
「そうですか。良かったですね。」
と先生は笑って青になった信号を見てアクセルを踏んだ。
それからまた数日後の夜、
明日は樹くんの名山高校の受験日だ。
連絡先を交換してから互いに何も送らなかったので未だにトーク欄は真っ白だった
さすがに私を追って名山に来るのにここで応援しないのは薄情すぎるだろうと思い、少しエールを送っておくことにした。
秋津 木芽:明日受験でしょ?頑張って
まぁこんな感じていいかな。
ちょっと素っ気ない気もするけど気にしない。
するとすぐに既読がつき、
小草 樹:はい!頑張って先輩と同じ特進科に入ります!
え?
まじか!?
えっ言ったっけ私が特進科なんて?
いや、そっかあの日確かに私は制服をきっちり来ていたから首元にリボンつけてたのか。
良く見てんな樹くん。
君はきっと探偵になれるよ。
でもね、私留年してるんですよ。
そして特進科から普通科に落ちるんですよ。
やめて!
あまつさえ同学年になってしまうのに、さらに「あれ?先輩(笑)は留年してたんですか?それも普通科ですか(笑)?焼きそばパン買ってきてくれますか?」って言われてしまう!
何とかして阻止しなければ!
一つ下の後輩に3年間笑われないために!
秋津 木芽:えっと、そんなに頑張らなくていいよ?
とりあえずこんなふうに送っておこう。
きっと普通科でいいんだよみたいな感じに受け取ってくれるだろう。
そして、一緒の学校に来てくれるだけで嬉しいんですよアピールも出来るだろう!
見よ!この完璧な一石二鳥ムーブを!
さすがに特進科来るな普通科にしろとは言えないし、普通科にしろって言ったせいで落ちたら元も子もない。
小草 樹:わかりました。肩の力抜いてしっかりと自分の実力を発揮します!
( ˙꒳˙ )oh......
ポジティブだね樹くん。
良い事だよ。伸ばしていこう!
では無くて!
どうする?諦めるか?これで終わりか?
いいや、まだだ!まだ終わっていない!
ここから何か私に逆転の一手はないのか!?
うん😊もう無理だね。
やめよ
秋津 木芽:.........。うん、頑張って。おやすみ
小草 樹:はい!おやすみなさい!
よし!寝よ!
𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂𓏸𓈒𓂂
そして、目の前で赤くなって蹲ってる君を見て思う。
あの日
君がいたから私はまた、
君がいたから私はもう終わってしまったと思っていた両親とちゃんと向き合えたんだよ?
君がいるから私はもう1人じゃないって前を向いて走れるんだよ?
ねぇ、いつまで君はそこに座っているの?
『過去』の私を大きく焼き払った爆発は確かに私の人生を大きく変えた。
怠惰に無意味にお金も時間も食いつぶしてきた。
でも無駄なことばかりではなかった。
ちゃんとそこから新たな
いつかこの芽が辺り一面の灰を全て養分にして大きな木となることを夢見る『今』の私は目の前で蹲る可愛い後輩に手を差し出した。
「さぁ、始めよっか私達のROCKを!」
だって、立ち止まってる時間がもったいない!
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