第9話 先生と不良 side秋津(3)

「へぇ、君面白いね。名前は?」


「篠原中学3年の小草 樹です。」


「そう。私は名山高校1年の秋津 木芽よろしく。」


 私は初めて出来た仲間に右手を前に出す。


「こちらこそよろしくお願いします。」


 そう樹くんは言って私の手を握り返した。


 熱い。すごい熱だ。この熱を私が引き出したのかと思うと心にグッとくる。


「これってつまりメンバーとして認められたということでいいんですよね。」


 と、最終確認をしてくる。


 ここまで来てやっぱナシなんて突き放すことなんてさすがにしない無い。


 一緒に生きるか一緒に死ぬかの一蓮托生だ。


 少年よ覚悟したまえ!


「うん、そういうこと。」


 そう言ってニコッと笑うと彼の顔がまた一段とポッと赤くなってボーっとしだした。


 目の前で手を振ってみても反応しない。


 あっ、この子きっと風邪ひいて熱出てるわ。


 さっきの手の熱さにちょっと納得。


 そして、少ししてから魂が戻ってきて


「えっとよろしくお願いします秋津先輩」


「よろしく樹君」


 いったい何度目になるのか分からないよろしくを2人で言い合った。


「連絡先、教えて」


 そう彼に言ってQRコードを見せてもらう。


「ありがと、またね」


「はい、また今度!」


 それにしても樹くんは一つ下の後輩なんだぁーこんな時間まで受験勉強大変だね〜


 ん?


 中3?受験生?受験?


 今日ってもう2月の…


「待って!」


 もうすぐ公園を外に出そうな彼を追いかけた


 すぐに彼は足を止めて振り返ってくれた。


「高校どこ受けるの?」


「先輩と同じ名山受けます!」


 即答だった。


 大変元気がよろしいとこでハッキリと私の耳に届いた。


「それじゃ、先輩また今度!」


 そう言って今度こそ公園を出ていった。


 そっかーウチの学校来るのかー。


 私を追いかけて・・・


 私はどうしようか。


 さっきまで学校に行くのは音楽の邪魔になると思っていたけど、もし彼がウチの高校に来たら無駄では無くなるのではないだろうか?


 さっき思いっきりストレスを発散させたのとこの仲春の夜の寒さのおかげで少し頭が冷えた。


 親が子供の将来を心配するのは当たり前のことなのだ。


 ウチの両親アレも少し頭が固く私の話を聞かないだけで、親としての責務は十分に果たしてくれている。


 でも、じゃあ納得するのかといえば全然してないのでこっちが折れる気は一切しない。


 さて、どうしよう。


 取り敢えず私はもう留年が確定しているので、彼が入ってきたら同級生となる。


 うん、今度会ったら敬語と先輩呼びを辞めさせよう。


 そう思いながらギターやマイクを片付け終えて公園を出る。


 さて、どこに行こう


 家には帰りたくないし、この辺にネカフェなんてものは無い。


 友人宅を回って今晩泊めてと頼み込むか?


 まて、そんな友達私に居たっけ?


 よし、コンビニに行こう。


 24時間営業のコンビニのイートインスペースで朝まで過ごそう。


 そう決めて、彼が歩いていった道の反対側に曲がり歩を進める。


 5分ぐらいでお目当てのコンビニを見つけて中に入る。


 暖かい。


 イートインスペースを使うなら何か買わないとと思い晩御飯をまだ食べていないことを思い出したのでたまごサンドと暖かい缶コーヒーを持ってレジに向かおうとした。


 すると、と後ろから声をかけられた。


「あれ?秋津さん?」


 その声に聞き覚えがあり、振り返ると今日家に家庭訪問しに来た女教師が立っていた。


「どうかしましたか、こんな時間にこんなところにいるなんて」


 と尋ねてきたので


「家出です。」


 わたしは淡々と答えた。


 先生は私の目から視線を外して引いてきた左手のキャリーバッグと背中のギターケースを見た。


「親と喧嘩でもしましたか。」


「はい。」


「今夜、泊まる宛てはありますか?」


「このコンビニのイートインで一晩過ごそうかと」


「ダメです」


「でも、他に行く宛がありません。」


 すると、先生は


「私の家に来なさい。」


 と提案してきた。


 ここで「早く帰りなさい」と怒らないのがこの人らしい。


 申し出は嬉しいけど迷惑をかける訳には行かないと思い、やんわりと断ろうとしたが、


「でも、こんな時間にましてやウチの制服を着てコンビニで一晩なんてされたら明日なんて学校で言われるかわかったものではありませんし、それに思春期の子供の面倒を見るのは先生の仕事ですから。」


 そう言って先生は私を見て微笑んだ。


「良いんですか?」


「んーまぁ、このままここに居させるよりはマシでしょう。その代わり親に今日は赤城先生のところに泊まりますって連絡しなさい。これは絶対です。」


 赤城先生はポケットからスマホを取り出しロックを解除して渡してきた。


 多分今日最初に自己紹介していたはずだろうけど聞いていなかったので初めてこの人の名前を知った。


「これ使って親と電話しなさい。」


「あの、私もスマホ持ってます。」


 私はポケットから赤と黒のスマホカバーのついたスマホを取り出すと


「家出なのにスマホ持ってきたんですか?」


 と言って苦笑した。


 私はその発言に最初は首を傾げたが少しして気づいた。


 あーGPSで居場所ばれてるわ。


 あの心配性な親のことだ、何かしらそういうのは仕込んであるのだろう。


 あーっと嘆いてると先生は笑って「その方が親としては安心ですけどね」と言った。


「さて、それでは私はお会計を済ませてくるのでその間に親と連絡を取っておいてくださいね。」


 と言って私の手にあったたまごサンドと缶コーヒーも「いいですよコレぐらい」と言ってビールや酎ハイなどの酒類とチータラやたこわさなどのツマミがゴロゴロと入ったカゴにポイッと入れてレジに向かった。


 その後、先生の会計中に両親に「今日家に来た女性の先生の家に泊まる」的なことを送っておいた。すぐに既読がつき返信が何通も送られてきて着信音がうるさかったのでブロックしておいた。


 それから先生が会計を終えて近寄って来て


「では行きましょうか」


 と言い、コンビニの駐車場に停められている軽自動車に乗せられた。


 道中特に会話は無かった。


 車の中には『VOLOS』の最新のアルバムがかけられていて、私がコーヒーを飲みながら集中して聴いているのを先生は横目で見て「好きなのですか?」と聞いてきたので首を縦に振った。


 それだけだ。


 真剣な表情でCDを聴く私を見て先生は笑っていた。


 4曲目を聞き終えると同時に車が停止し先生の家の駐車場に着いた事に気づき、車を降りて先生の後を追う。


 辿り着いたのは少し良さげなアパートの2階の角部屋だった。先生が扉を開けて「どうぞ」と入れてくれるので「お邪魔します」と言って中に入る。


「スリッパはこれを使って、キャリーバッグのキャスターはこの雑巾で軽く拭いて下さい。終わったらそこの洗面所で手を洗ってから荷物を全部リビングに置いて下さい。」


 と言ってスリッパと雑巾を用意してくれた。言われた通りにキャスターを拭いてリビングに荷物を置くと何やらいい匂いがしてきた。


「次はお風呂に入ってきてください。その後は一緒に晩御飯を食べましょう。きっとまだなんでしょう?」


 と、キッチンの方から声が聞こえてきた。


「いや、そこまでしてもらわなくていいです。それにたまごサンド買ってもらいましたし」


「遠慮なんてしなくていいんですよ、たまごサンドぐらい冷蔵庫に入れておけば明日の朝にでも食べられます」


 と矢継ぎ早に有無を言わさぬ感じなので大人しく従うことにした。


 キャリーバッグから下着を取り出して脱衣所へ向かう。


 先生はとても几帳面で家事が得意なのが見てわかるぐらいに綺麗な家だ。


 廊下にはホコリが無く、洗面所もピカピカ。


 彼氏とかいるのかな?


 もし、いたらその人は幸せものだろう。美人で優しく家事も料理も完璧。誰も居ないなら私が欲しいぐらいだ。


 そんなことを、服を脱いで浴室に入りシャワーを浴びながら思った。


 一通り体を洗い終えて湯船に浸かる。


 極楽だ。


 きっと、朝のうちに浴槽を洗っておいてさっき私がキャスターを拭いている間にお湯を張ってくれたのだろう。


 オマケに仕事が早くて気配り上手と。


 完璧な人だ。尊敬する。


 私みたいな不良品とは違いすぎる。


 良いなー、私もこんなお嫁さん欲しいなー。


 そう思っていると


「ここにバスタオルとわたしので悪いですがパジャマも置いておきますね」


「ありがとうございます。」


 ほんとにこの人どこまで気が利くんだろうか。脱衣所の台の上に下着しか置いていなかったところを見てバスタオルと寝間着が無いことに気づいて用意してくれたのだろう。


 湯船から上がって体を拭き、下着をつけて髪を乾かす。


 その後、先生の用意したパジャマを着ようと伸ばしかけた手を止めてしまった。


( ˙꒳​˙ )oh......、なかなかファンシーなパジャマではないですか。


 なんと黒の猫耳フードが着いたモコモコアニマルパジャマである。


 手に持ってみると、少し新品の匂いがする。


 多分、コレは先生のコレクションかなにかだろう。


 用意してもらっておいて文句を言うのはあれだが、コレは着たくないなー。


 趣味じゃないし私には似合わないだろう。


 と言っても他に着るものなんてないから大人しく袖を通してから鏡に映る自分を見て苦笑い。


「お風呂出たー?終わったら早くリビングに来て一緒にご飯食べましょー?」


 と呼ばれてしまった。


 まぁいっか、先生しか居ないなし


 そう私は諦めてリビングに向かった。





































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