第5話 現実は無情

 終わった。


 いやー、正直何があった訳でもなくただただ志望校の名山高校に行って入試を受けただけであって何か特筆すべきこともなかったので、


 全カットで!


 え?あんなに引っ張ってこれかって?


 昨日の夜の苦悩はなんだったのかって?


 だってねえ?絵面地味だし?


 バカと〇ストと〇喚獣とか暗〇教室みたいに試験が映えるならやってもいいんだけど、ねぇ?


 普通に机に向かってカリカリしてるシーンをどんだけ掘り下げても誰得?って感じでしょ?


 求められてないでしょ?


 需要と供給が合ってないでしょ?


 だから全カーット!!


 そして時は夕暮れ、今全ての教科を受け終えて名山高校の校門から足を踏み出した。


 いや、むしろここからが本番なのだ。


 と言うと、なんとテスト終了のチャイムが鳴り、受験の監察官から帰ってよしの挨拶があったのでさっさと帰る準備をしてスマホに電源を入れるとそこには、


 秋津 木芽:お疲れ様。終わったら前の公園に来て


 とメッセージが来てた訳ですよ。そこからの行動は迅速で椅子にかけてあったコートに袖を通して鞄を掴んで廊下と階段を注意されない最高速度で通り抜けた。そして校門を通り抜けてからダッシュする。←イマココ


 名山高校の立地は俺の家から駅を挟んでおよそ反対側に位置している。


 歩きで約40分位の距離だが、4月からは多分自転車通学だろう。


 普通科は受かってると思うからここに通うのはほとんど決定事項だと思う。


 まぁ、まだ自転車買ってないから今日は歩きで来たわけで他に理由はない。


 そうこうしているうちにこの前の公園が見えてきた。


 そして、見つけた


 公園の入口のそばにたっている先輩を。


 今日はギターケースを背負わずにファーのついた黒いダウンコートを着て赤いマフラーを巻き、手をポッケに突っ込んだ姿で待っていた。


 やはり、綺麗だ。


 立っているだけで目が吸い寄せられてしまう。


 コレぞ生きるランドマークって感じだ。


「遅くなってすみません」


「ううん、いいよそっちこそお疲れ」


 優しい。


 その労いの言葉がこの疲弊した心に染みるんじゃ〜。


「いえいえ、それでどうしたんですか?」


「コレで受験勉強終わりって話だったよね?」


「はい。これで終わりです。」


 そう、あの日連絡先を交換して別れる前に「ウチの高校来るよね?」と聞かれたので「はい!もちろんです!」と即答したのだ。


 元々受験する高校の1つだったし、先輩が居るならもうここしかないって感じだったのでそう言った。


「うん、それじゃあこれからいつ練習するかとか、どこで練習するかみたいなこと決めよ?」


「わかりました。確かに大事ですよね」


 と、相槌を打つと突然、


「それ、やめていいよ?」


 と言われた。


 ???🤔


 頭の中にハテナが並ぶ。


「一体なんのことですか?」


「その敬語、やめていいよ?別に敬語が普段の喋り方って訳では無いでしょ?」


 ああ、なるほど。


 うん、確かに違う。


 妹や親父にはもっとフランクに話すし、頭の中では普通に口が悪いことは自覚してる。


 あとは.........ん?


 あれ?


 いない。


 あと話すのは学校の先生や塾の講師の人達で敬語で接するべき人達であり友達では無い。


 ギャルゲやラノベみたいに隣の家に幼なじみもいないし、幼稚園からずっと一緒にいた親友とかもいない。


 うーん仲のいい同級生とか先輩後輩...。


 居ないなぁ。


 えっと、と言うかまじで今まで自分がボッチってこと気づかなかった。


 体育のペアは今まで偶数のクラスにしかならなかったから誰かとは組めたし、修学旅行も班を先生に決められていたからみんなについて行っていたし、昼ごはんはずっと給食だから班で食べていたし、部活は帰宅部おっけーだったからいつもすぐ帰っていた。


 あれ?


 秋津先輩以外の同年代の女子と話したのいつだっけ?


 ちょっと真剣に考えていると


「どうしたの?」


「いや、ちょっと自分の不甲斐なさを噛み締めてたところです。」


 うん、不甲斐ないなそれは間違いない。


 いくら周りに人がいない事に気づかないくらい孤独を極めたエリートボッチだとしても、趣味の達人だったとしても、というかどんだけ孤高を気取ってもやっぱ人間社会に生きてる訳で繋がりがないのは誇っていいことではないよな。


 拝啓、これから先『俺ガ〇ル』の比〇谷君を目指そうとする後輩たちへ。


 辞めておきなさい。数年後振り返ってみると何も残っていないことに絶望しますよ。


 敬具


 人生の先輩 小草 樹


「別に私たち同じバンドのメンバーなんだからもっとフレンドリーでいいでしょ?私、敬語とか気にしないしそっちの方が気楽でいいから。」


「OKわかった、んじゃこれで」


 と家族にするような素の喋り方に戻す。


「うん、それでいいよ」


 さぁ、これからはできるだけ仲のいい人を作ろう。


 この辺に住んでる同級生結構ここに来るけど関係ない。


 どうせ知らない奴らだ。


 それよりも、1人でも多くの人に俺たちについて知ってもらうことの方が大切で何よりも、


 先輩の隣に立てる人間になろう。


 そう固く決意した。


 つまり、


 高校デビューしよう。






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