第4話 無謀で蛮勇
枕元に置いてあるスマホのバイブがなり、意識が覚醒する。
そのままスマホを手に取り時間を確認するともう既に14時を回っていた。約7時間も眠っていたらしい。
妹からのRINE(無料チャットアプリ)には委員会で帰りが遅くなると書いてあったので了解っと返信しておき、また枕元にスマホを置く。
夢を見た。
あの夢で感じたことは、
変わると決めた。
ならば、何かしらの変化が必要だが本当に何をしようか。
髪でも切るか?
今までは少し長めにして前髪が目にかかるかどうかぐらいにしていたが印象を変えようか。
この野暮ったい髪型を変えれば少しはイカしたバンドマンに見えるだろうか?
いや、いっその事染めてしまおうか?
そういえば、彼女は髪にメッシュを入れていたな。校則は大丈夫なのだろうか?
ん?
校則?
高校?
((゜ㅇ゜)??? アレェ?
彼女はどこに通っているって言ってたっけ?
いや、覚えてる。覚えてるからこそ冷や汗が止まらない背筋がサーっと冷たくなる。
私立名山高校
偏差値65の中々にレベルの高い進学校である。自由な校風が売りで人気がとても高く倍率もすごい。もちろん俺も願書は出した。多分、髪を染めるのも校則違反にならないのだろう。
問題は彼女のネクタイやリボンの色が、正確には柄が普通の人とは違ったのだ。
私立進学校にはありがちだが、この高校にも普通科クラスと特別進学クラス所謂特進科があり彼女が特進科にいることに気がついた。
特進科と普通科では授業スピードやスタイルはもちろん何よりも校舎が違い俺は元々普通科を狙っていたのでこのままでは2年間先輩と校舎で会うことができない。体育祭で同じ組になれないし(毎年、特進科組VS部活推薦組VS普通科組になるのが恒例)、文化祭でも一緒に出し物ができないし(以下略)、校外学習も行けない(略)
何が言いたいかと言うと、俺は先輩と華やかなスクールバンドライフを送りたいなら特進科に受かる必要があるということだ!
ここで良い報告と悪い報告がある。
どっちを先に知りたい?
ん?
良い方だって?
仕方ないなー教えてやろう
良いことはこの高校の入試方式が一斉受験で成績上位者80名のみが特進科という栄誉が得られるということ。つまるところ、まだチャンスがあるということだ。
そしてこれが悪い方だが、受かるだけなら偏差値は65ぐらいとされている。
わかったか?
特進科のみの偏差値は71、つまり何が言いたいかと言うと『絶望的』ということだ。
どうしよう。先輩あの見た目でめっちゃ頭いい人だったんだ。
とりあえず勉強か?
あと10日で偏差値を5も上げろと?
無理ゲーすぎる。
涙出てきた。
えっ、というかさっき(前話)さぁ
さて、俺は何から始めようか(フッ)?
とかやっといてコレぇ?ダサすぎない俺?
何からも何も勉強しねーとまず始まんねーんだよ!クソが🖕💢
とりあえず起きて、勉強机に向かって参考書を出す。
よく寝て熱は下がったと思う。というかやる。下がって無くてもやる。
無茶してるとわかってる。
無謀は百も承知、二百も合点ですよ。
妹が帰ってきて様子を見に来た時こんなことしてたら、また怒らせるだろうし、心配もかけるだろう「あんた、バカぁ?」と言われるのが目に見えてる。
でも、あと10日だ。時間が無さすぎる。
昨日からずっとベースの練習したいし、音楽聞きたいし、作詞作曲の勉強もしたい。
何よりも頼りになる男になりたいのだ。
やりたいことがいっぱいある。
今まで怠惰に、不精に、なあなあで生きてきた俺の人生に初めて火がついたんだ、やっと動き出したんだ。
昨日、確かに15年の全てを賭けて掴み取った片道切符なんだ。
ここで、スタートラインからまだ1歩も進んでいないこんなところで早くも分岐点とか早すぎだろ!
こうして俺の全てを賭けた戦い(早くもパート2)の火蓋が切られた。
いや、ホントに売れない少年漫画みたいな展開勘弁してくれ。
🏃♂️🏃🚶♂️🏃♂️🏃🚶♂️🏃♂️🏃🚶♂️🏃♂️🏃🚶♂️🏃♂️🏃🚶♂️
あれから9日が経った。
あの翌日には気合いで熱を37度2分にまで下げて、学校に行きそのまま普段なら授業のある日しか行かない学習塾にも自習に行って夜遅くに帰ってからもご飯とお風呂を速攻で終わらせてまた机に向かう。
睡眠時間も1日3時間に削った。
本気だった。
人生で1番勉強した。
勉強に全てを捧げた。
出来ることは全てやった。
人事を尽くして天命を待つと言うやつだ。
いや、嘘だな。
全然足りない。やっていない。
何よりも、本当に人事を尽くすならば先輩に相談すべきだったんだ。
特進科の先輩だ。何かしらのアドバイスをくれたかもしれないし、もしかしたら2人っきりで勉強会なんてこともあったかもしれない。
仮にもラブコメを語っているのならそっちが正解だった。
ひとつの空間の中に男女二人が向かい合ってドキドキとかやるべきだった。
でも、選ばなかった。選べなかった。
風邪が治りたてだったとか、移したくないのとかもあるがそんなモノ後付けの言い訳だ。
頼れる男になりたいのだ。
こんなまだ序盤も序盤に先輩に頼りたくない。無様を見せたくない。
むしろ、俺も特進科に受かりました(ドヤ)ってやりたかっただけだ。
無様にヘタレてカッコつけようとしただけ。
天命も何も安くて、くだらないボロボロのプライドに邪魔されただけじゃないか。
あーダメだ。
焦りと不安で思考がネガティブになる。
もう寝よう。
明日は大事な日だ。
時計はもうすぐ2つの針が頂点で重ね、明日を今日に変えようとしていた。
もう、いい時間だ。
そう思いベッドに潜りリモコンで電気を消そうとした時枕元に置いてあるスマホのバイブがなり画面が点灯する。
「誰だこんな時か.........!?」
ポ( ゚-゚)ポ( ゚ロ゚)ポ(( ロ゚)゚チーン((( ロ)~゚ ゚
俺の中で時間が止まった。
手に持っていたスマホを床に落としそうに慌てて空中でもう一度掴む。
まだ、連絡先を交換してからお互いに何も送らずに真っ白だったチャットルームになんと秋津先輩からメッセージが来ていた。
秋津 木芽:明日受験でしょ?頑張って
やばい、泣けてきた。
前は絶望感からの悲しみだったが、今回は違う。
感動だ。
素っ気なく見えるこんなメッセージでも、メンタルズタボロの俺からしたらとてつもないくらいに勇気をくれるエールだ。
もう、この言葉を貰うために今まで勉強してきたのだと思ってしまう。
これだけで、さっきまで散々頭の中をぐるぐるしていたネガティブな思考がパァーっと消えていった。
やはり先輩は女神だ。
彼女のターンアンデッドで僕の負の感情の全てが今、浄化された。
小草 樹:はい!頑張って先輩と同じ特進科入ります!
もう、受かる気しない。
今なら何をやっても上手く行きそうだ。
秋津 木芽:えっと、そんなに頑張らなくていいよ?
ん?
どういうことだ?
あっ、これは「肩の力を抜いてしっかりと自分の実力を出し切りなさい」ってことを言って僕に冷静さを取り戻させようとしているのか!
なるほどなるほど、確かに今先輩からとびきりのエールを貰って身体中に全能感が駆け巡っているけど、冷静になって集中しなさいということこの状況を見抜いた深い発言なのだろう。
よし、家訓にしよう。
このスマホ画面をスクショして額縁に飾ってついでに家宝にしよう。
小草 樹:わかりました。肩の力を抜いてしっかりと自分の実力を発揮します!
秋津 木芽:.........。うん、頑張って。おやすみ
小草 樹:はい!おやすみなさい!
さぁ明日は頑張ろう!
今度こそ電気を消して瞼を閉じた。
今夜はいい夢が見れそうだ。
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