第2話 星夜に京蓮

「好きです!あなたの声を僕に下さい!」


「は?」


 やってしまった。


 これはやってしまった。


 思考が完全に停止し、頭の中が真っ白になる。


 背中や握っている拳から嫌な汗が止まらない。


「えっえっと、こ、これは告白とかそういうのではなくて、えっと、そう、あなたの歌がとても素敵で、その、何ていうか.........。」


 ダメだ。何も思い浮かばない。コレは弁解の余地もない程にやらかしてる。


 イカれてるだろ。見知らぬ男から声をくれとか意味のわからない告白なんてされたら1歩間違えば通報ものだ。そうじゃなくても引かれたに決まってる。


 こうしてしどろもどろしていると彼女の方から声がかかった。


「告白じゃないとするなら何?、一緒にバンドを組んでくれってこと?」


 その一言で今まで頭の中をグルグルと回っていた余計な思考が全て掃き捨てられてまっさらになった。そしてこう思った。


 天啓か?


 これは天啓なのか?


 答えなんてもちろん決まってる。


 Yesだ!Yesに決まってる!


 もうこれは神様が僕に彼女とバンドを組んで天下を取れって言っているに違いない。


 だとしたら、これ程嬉しいことは無い。これからずっとまだ日の目を見ていない彼女の隣で音楽をして一緒にステージに立てるとしたらそれは身に余る光栄だ。


 そうと決まれば、僕は今日まで貯めてきた運とかそういうの全部ココにbetして僕の運命にかけてやる!


「そうです。僕とバンドを組んでください!あなたの覇道音楽に付き合わせてください!」


 言った。言ってやった。答えは彼女次第だ。Noならこれからはずっと彼女のファンとしてライブに行き、雑誌やテレビを全て見るだろう。


 だがYesならば、、、、


「へぇ、君面白いね。名前は?」


 えっとこれは脈アリか!?アリってことでいいのか!?


「篠原中学3年の小草おくさ いつきです。」


「そう。私は名山高校1年の秋津あきつ 木芽このめよろしく。」


 そう言って、秋津先輩は右手を差し出してきた。


 勝った。


 心の中には盛大なファンファーレが鳴り響き、幼き天使たちがラッパを片手に飛び回っている。


 これってつまり認められたということだろう。


 今日までの運とか徳とかそういうの全賭けしたかいがあった。


 あ〜生きててよかった。


「こちらこそよろしくお願いします。」


 そう言って秋津先輩の右手を握った。


 でも、一応聞き返しておこう。


 何かあってからでは良くない。


「え〜別に〜ただのファンとしてよろしくってだけで〜いきなり仲間とかあるわけないじゃんwww」


 とか言われたら死ぬ😇


 いや、彼女を見守って生きていこう宣言から全然時間は経ってないけど、この「お前のこと認めたぜ」「光栄っす」みたいなことする前と後では重さが違う。冗談抜きで立ち直れる自信が無い。


 だから一応石橋は叩いておくとする。


「これってつまりメンバーとして認められたということですよね?」


「うん、そういうこと」


 彼女は、僕の目を見て微笑む。


 その笑みは今夜の満月にすら引けを取らないぐらいに魅惑的だ。


 顔が湯気が出るほど熱くなる。


 可愛い。超可愛い。めっちゃタイプ。


 なんだかんだ言ってアレは愛の告白だったのかもしれない。


 一目惚れだ。


 一聴きぼれの次は一目惚れ。


 いわゆるゾッコンってやつだな。


 一度ハマると狂おしい程に愛おしい。


 多分、初恋なのだろう。


 もう彼女に夢中で仕方ない。


 髪型はぬばたまの髪にひと房の赤いメッシュのショートボブ、目は少しつり目で大きく猫のようだ。肌は白くつやつやで唇はプリッとしていてなんと言うかとても魅力的。身長は僕より少し低いくらいなので160から165の間だろう。全体的にボーイッシュな印象を与えられ彼女のツンとした雰囲気から近づきがたさを感じる。


いや、僕に言わせれば神聖さ、かな(ドヤ)。


「どうしたの?」


 と秋津先輩はこっちを見上げるように覗いてくる。


 やばい、目を合わせられない。


動悸が収まらない、頬が紅潮して頭が沸騰しそうだ。


「えっと、よろしくお願いします秋津先輩」


「よろしく樹君」


 こうしてこの凍て空の下、星月輝く夜の公園にて僕達はまだ無名の2人が名も無きバンドを設立した。


 いつか、僕たちのROCKが世界に響き渡ることを夢見て。




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